おおぐま座3 転身物語(:ギリシア・ローマ神話をこれほど網羅した作品はほかに類がなく,神話伝説の宝庫として中世以来多くの人々に愛読され,後世ヨーロッパの文芸や美術に与えた影響は大きい)より. 「わが良人をまどわしたおまえの美しさをほろぼしてやるぞ!」こういうなり,女神(ユノ/ヘーラー)は,乙女の前髪をひっつかみ,まっさかさまに地上に投げつけた.その腕は,たちまち黒いもじゃもじゃの毛がはえはじめ---  

おおぐま座(大熊座,Ursa Major)3

 

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星座図鑑・おおぐま座

 

おおぐま座ギリシャ神話.

四つあるそうですが,

Star Myths | Theoi Greek Mythology

おおぐま座  ギリシャ神話は四つあり,有名なカリストーの物語を含め二つが熊への変身の物語. 残りの二つは熊とは無関係で,一つはWagon.アポロドーロス ギリシャ神話(高津春繁訳)彼女(カリストー)はアルテミスの猟の伴侶であり,女神と同じ衣を身に纏(まと)い,処女であることを女神に誓った.---- - yachikusakusaki's blog

最もよく知られているカリストーの物語.

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CALLISTO (Kallisto) - Arcadian Princess of Greek Mythology


昨日から,ローマ時代の作家オウィディウスの転身物語(変身物語/変身譚 Metamorphoses)の内容を転載しています

おおぐま座2 ユピテル(ゼウス)に犯されたカリスト1 ひとりの美しいノナクリアの乙女を見そめて,かれ(ユピテル/ゼウス)の胸の底にたちまちはげしい愛の焔がもえあがった.「この情事は,きっと女房にはわかるまい」 - yachikusakusaki's blog

今日はその続きです.がその前に,転身物語について,簡単な解説.

 

ギリシャ神話の全体像を整理している原典としては,ギリシャ語で描かれた神統記(しんとうきTheogonia, ヘーシオドス)やビブリオテーケー(偽アポロドーロス,日本語版訳では「ギリシャ神話」)が,日本ではよく知られています.

ギリシャ神話を全く知らなかった私も,まずこの二冊を買いそろえて読み始めたのですが---

一方のヨーロッパ.ラテン語で書かれた,転身物語(変身物語/転身譜 Metamorphoses,オウィディウス)が,ギリシャローマ神話として最もよく読まれているとのこと.

沢山の物語を収集している上に,物語として捉えた場合の面白さは前二者を圧倒しているように思います.

神統記(岩波文庫)は,格調が高く,内容も調っていて,何よりも短いため一気に読めますが,面白さの点では---? アポロドーロスのギリシャ神話(岩波文庫)は,記録を勉強する感覚で読んでいかないと続かない.(実際,まだ通読できていません)

それに対し,転身物語(変身物語/変身譚 Metamorphoses)では,物語の一つ一つを楽しく読むことができます.

 

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説では 

転身譜(てんしんふ)とは - コトバンク

 

転身譜

てんしんふ

Metamorphoses

ローマの詩人オウィディウスの代表作.15巻の物語詩.

伝統的叙事詩の形式を用い,転身(または変形)のモチーフを中心に,大小250に及ぶさまざまな神話伝説をつなぎ合わせながら,宇宙の開闢(かいびゃく)から年代順に,ギリシア,オリエント,ローマにまで及び,カエサルの昇天と星への転身の話で終わる.

神話の単なる系譜的羅列ではなく,大筋の物語のなかにさまざまなエピソードを巧みに織り混ぜながら,語り口は変化に富みよどみなく,達者な修辞と豊かな想像力を駆使して,物語作者としての詩人の力量がいかんなく発揮されている.

ギリシアローマ神話をこれほど網羅した作品はほかに類がなく,神話伝説の宝庫として中世以来多くの人々に愛読され,後世ヨーロッパの文芸や美術に与えた影響は大きい.[松本克己]

 

 

オウィディウス 転身物語 田中秀央・前田敬作 訳 人文書院 より

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ユピテルに犯されたカリスト(抜粋) 続き

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 (ユピテル/ゼウス)は,さっそくディアナ(アルテミス)のすがたに身をやつすと,「私の従者たちのなかでいちばん眼をかけてやっている乙女カリストーを指す)よ,そなたはどこの丘で猟をしていたの」乙女は,すぐさま芝生から身をおこして,「こんにちは,女神さま,ユピテルよりも尊い女神さま.いいえ,たとえユピテルさまがこの言葉をお聞きになってもかまいませぬ」—

ユピテルは,これを聞いて笑い,自分が自分よりも好かれているのをよろこび,処女神ではとてもあたえられないような猛烈な接吻をあたえた.乙女は,どこの森で猟をしていたかを話そうとしたが,相手はその言葉をさえぎり,両腕にしっかり乙女を抱きしめて,けしからぬやり方で本性をあらわした.この女はあらゆる力をふりしぼって抵抗した.

おお,サトゥルヌス(クロノス)の娘ユピテル/ゼウスの妻ユノ/ヘーラーのこと)よ.この有様をごらんになればよかったのに!そうすれば,あなたは,この乙女にたいしてもっと寛大になられたことでしょう.

乙女は,もがいた.しかし,乙女の身で,いや,神々のひとりであっても,どうしてユピテルに勝てようか.かれは,望みをとげると,揚々として天にのぼっていった.乙女は,自分のあやまちを知っている木陰を森をにくんだ.彼女が森を去ろうとしたとき,もうすこしで矢のつまっている箙(えびら)と枝にかけておいた弓を忘れるところであった.

そのとき,従者(とも)の妖精たちを大勢ひきつれたディアナが射止めた獲物に意気揚々として,マエナルスの高い峯をこえてこちらへやってきたが,彼女をみとめると.

声をかけた.呼び止められた乙女は,いきなり身を翻して逃げ出した.

----中略

 

さて,弦月がそれから九度目の円い姿を見せてあらわれたころ,ディアナは猟に出かけ,兄(太陽神ポエブス/ポイボス:アポロ/アポローンのこと)の投げる暑熱のために疲れはて,すずしい森かげに立ち寄った.そこは,せせらぐ小川が湧きでて,なめらかな砂を転がしていた.

----中略

 

「さあ,みんなは着物をぬいで,水浴びをしましょう」すると,パラシアの乙女カリストのこと,パラシアはアルカディアの西南部の町.ここではアルカディアと同義)は,まっ赤になった.みんなは着物を脱いだが,かの女だけは,なんとか口実を探そうとした.それを見ると,みなが寄ってたかって着物をぬがせてしまった.

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Callisto (mythology) - Wikipedia

着物をぬぐと,一糸もまとわぬそのからだは,過失の隠しようがなくなった.あわてて腹のふくらみを両手でかくそうとした乙女にむかって,キュントュスの女神(ディアナのこと,キュントゥスはディアナの生誕地アロス島の山の名)

「ここから去れ!この神聖な泉をけがすことはならぬ!」とさけんで,従者たちの仲間から追放してしまった.

 

 偉大な雷神の妃ユノは,すでに早くからこの情事を知っていたが,そのおそろしい復讐を適当な時期までのばしていたのだった.しかし,いまやこれ以上のばしておく理由はない.それに,これがユノの感情を害したのだが,その恋敵の女からすでに幼いアルカスが生まれていた.

----中略

 

「こうなった以上は,罪をうけずにすむものではない.恥知らずの女よ,おまえをいい気にうぬぼれさせ,わが良人をまどわしたおまえの美しさをほろぼしてやるぞ!」

 こういうなり,女神は,乙女の前髪をひっつかみ,まっさかさまに地上に投げつけた.

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Callisto (mythology) - Wikipedia

乙女は哀願するように女神にむかって腕をさしのべたが,その腕は,たちまち黒いもじゃもじゃの毛がはえはじめ,両手はまがり,まがった爪がはえて足の役目をするようになった.

かつてユピテルが賛美した顔は,口が大きくさけて,みるかげもない醜さになった.

そして哀願や祈りによって二度と女神にあわれみの気持をおこさせたりしないように,ものを言う能力を奪われ,調子外れな喉からはあらあらしい,おそろしげな唸り声が出て来るだけであった.

しかし,こうして一匹の牝熊になってしまっても,もとのままの気持ちは残っていると見えて,たえずため息めいた唸り声を発することによって内心の苦痛をはっきりとあらわし,前肢になってしまった両手をなおも天と星々にむかってあげるのだった.口にこそ出さないが,ユピテルの情(つれ)なさをなじっているのである.

-----後略