おおぐま座2 アルテミスの猟の伴侶としてゼウスに見初められ,後に熊に変身させられたカリストーは,アルカディア王リュカーオーンの娘とされています.リュカーオーンはゼウスを騙す/もしくは試そうとし,その傲慢さのためにオオカミに変身させられます.オウィディウス転身物語よりユピテル(ゼウス)に犯されたカリスト1 ひとりの美しいノナクリアの乙女を見そめて,かれ(ユピテル/ゼウス)の胸の底にたちまちはげしい愛の焔がもえあがった.「この情事は,きっと女房にはわかるまい」 

おおぐま座(大熊座、Ursa Major)2

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星座図鑑・おおぐま座

 

おおぐま座に関わるギリシャ神話で,最もよく知られているのは,熊に変えられたカリストーの物語.

多くのギリシャ・ローマの詩人・作家・歴史家が書き記す中から,前回はアポロドーロス版を転載しました.

おおぐま座1  ギリシャ神話は四つあり,有名なカリストーの物語を含め二つが熊への変身の物語.yachikusakusaki's blog

 

今日は,ローマ時代の作家オウィディウスの転身物語(変身物語)の一部を取り上げようとと思いますが,その前に,カリストーの生い立ちについて少しだけ.

 

アルテミスの猟の伴侶としてゼウスに見初められ,後に熊に変身させられたカリストーは,アルカディア王リュカーオーンの娘とされています.

リュカーオーンの父ペラスゴスは,ガイアの子,あるいはゼウスとニオベの子とされ,いずれにしても神の血をひく人物です.

しかしこのような血筋であるにもかかわらず,リュカーオーンはゼウスを騙す/もしくは試そうとし,その傲慢さのためにオオカミに変身させられます. LYCAON (Lykaon) - Arcadian King of Greek Mythology

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Lycaon of Arcadia - Wikipedia

 

また,オウィディウスによれば,ゼウスが引き起こした大洪水(“デウカリオーンの洪水” デウカリオーン - Wikipedia DEUCALION (Deukalion) - Hero of the Great Deluge of Greek Mythologyは,このリュカーオーンの傲慢さを目の当たりにして,この時代の人間に嫌気がさしたためとされています.

リュカーオーンには50人の息子がいましたが,皆,父と同じく傲慢不遜.ゼウスによって殺されたり,狼に変えられた!LYCAON (Lykaon) - Arcadian King of Greek Mythology

カリストーは父や兄弟とは「似ても似つかぬ清純な娘」リュカーオーン - Wikipedia )ということになりますね.

 

以下,

Publius Ovidius Naso(Ovid, プーブリウス・オウィディウス・ナーソー) Metamorphoses(メタモルフォセス 転身物語/変身物語)の日本語訳

オウィディウス 転身物語 田中秀央・前田敬作 訳 人文書院 より

 

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なお,オウィディウスはローマ時代の作家であるため,神々の名称はローマ神話の名前が記されている.

ユピテル:ゼウス,ディアナ:アルテミス,ユノ:ヘーラー

 

ユピテル(ゼウス)に犯されたカリスト1. 一部抜粋

 

 さて,全能のユピテルは,巨大な天国の城内をかけめぐり,猛火のためにいたんだり,こわれたりした建物はないかとしらべてまわった.すべてがっちりとし,すこしもいたんでいないのをたしかめると,こんどは大地と人間たちの仕事をしらべてみた.なかでもかれがとくに気をくばったのは,アルカディアであった.かれは,まだかすかに流れていたこの土地の泉や河を修理し,大地には草を,樹々には葉をあたえ,いたんだ森をふたたび青々としげらせた.

こうしてなんどもこの土地に足をはこんでいるうちに,ある日のこと,ひとりの美しいノナクリアの乙女(訳註 ノナクリアはアルカディアのこと.この乙女の名前は出てこないが,アルカディア王リュカオンの娘とされるカリストである)を見そめて,かれの胸の底にたちまちはげしい愛の焔(ほのお)がもえあがった.

羊の毛をつむいだり,髪の手入れをしておしゃれしたりすることは,この乙女のしごとではなかった.簡単な留め金で衣服をとめ,垂れさがった髪の毛は,一本の白い紐で無造作にたばねておくだけである.こうして身拵え(みごしらえ)ができると,ときには軽い投槍をもって,ときには弓矢をもってディアナ(アルテミス)のお伴をするのが,彼女の仕事であった.マエナルシの山をかけめぐる妖精たちのなかで,彼女ほど女神トリウィア(ディアナ/アルテミスの形容語)に愛されている者はなかった.しかし,どんな寵愛も,長続きするものではない.

 

 高くのぼった太陽がちょうど天の中央をすぎたころ,かの女は,太古以来まだ斧ひとつ入ったことのない森のなかへ入っていった.そして,肩から箙(えびら)をおろし,しなやかな弓から弦(つる)をはずし,草におおわれた地面に身をのべて,あざやかな彩色をほどこした箙(えびら)を枕にした.

ユピテルは,かの女がぐったりと疲れはてて警戒の色もなく寝そべっているのを見るやいなや,「この情事は,きっと女房にはわかるまい.また,たとえわかったとしても,そのための小言なら,よろこんで我慢しよう」と考えた.

 

以下,続く

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Callisto (mythology) - Wikipedia