サツマイモ8 “カライモ(唐芋)”として中国から琉球,種子島を経て鹿児島へ伝わったサツマイモ.その栽培種の起源には二説あります.「メキシコ起源説」と「ペルー起源説」.ヨーロッパへはコロンブスが持ち込み.地中海沿岸諸国で栽培されました(ジャガイモの食用栽培以前です.英語potatoの語源はサツマイモで,17世紀中頃までは意味もサツマイモだった!).アジアへの伝播ルートには三つの説があり,日本へのルートは南米-ヨーロッパ-アフリカ-インド-東南アジア-中国へ.そして日本へ.

サツマイモの伝播

日本へ

現代では,そのおいしさとともに健康食品としても注目の的,サツマイモ(薩摩芋).

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http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/11/21/031120

https://www1.nhk.or.jp/asaichi/archive/181112/1.html

 

江戸時代に救荒作物として薩摩から日本全国へ広がりました.

https://www.kagoshima-shoku.com/2266

もっとも,江戸時代に既に焼き芋ブームがあって,単なる救荒作物ではなくなっていたようですが.

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江戸食文化紀行-江戸の美味探訪- no.27「焼芋」

 

日本へは, “カライモ(唐芋)”として中国から琉球種子島を経て鹿児島へ.

琉球へは1605年,種子島1698年,そして鹿児島へは1705年が定説とか.

https://www.kagoshima-shoku.com/2266

(山川 理「サツマイモの世界,世界のサツマイモ」 現代書館).

 

 

サツマイモの起源

栽培種の起源には二説あります.

多くの日本語サイトは「メキシコ起源説」をとっていますが,現在では「ペルー起源説」が有力とのこと.(山川 理「サツマイモの世界,世界のサツマイモ」 現代書館).

ただし, DNA分析では,ペルー産とメキシコ産に二分されるという結果もあるそうなので(山川 理「サツマイモの世界,世界のサツマイモ」 現代書館),メキシコ,ペルー双方がサツマイモ栽培種の原産国になるのかもしれません.

 

しかし,いずれにせよ,サツマイモもジャガイモと同じく南米が原産とは.

私は全く知りませんでした.

 

ヨーロッパへの伝播

ヨーロッパへサツマイモを持ち込んだのは,コロンブスで,彼自身の手紙も残されているそうです.(山川 理「サツマイモの世界,世界のサツマイモ」 現代書館)

しかし,ヨーロッパの多くの地域は寒すぎて,栽培地域はポルトガル,スペイン,フランス,イタリア,ギリシャ,など,地中海沿岸に限られていました(山川 理「サツマイモの世界,世界のサツマイモ」 現代書館)

それでも,ヨーロッパへ同じ頃伝えられたジャガイモが初めは花を楽しむだけで,食用の栽培開始が18世紀だったジャガイモ 「どこからきたの?」:農林水産省 のに比べれば,ヨーロッパでの栽培の歴史はサツマイモの方がずっと長いことになります.

 

▽potatoの語源

ヨーロッパでサツマイモ栽培がジャガイモに先立つという意外な話に付随して,更に私を驚かせる次のような事実がありました.

 

英語potatoの語源を調べてみたところ---

今でこそジャガイモのことを指していますが,なんと,

potatoの語源はサツマイモ.

中期英語では,potatoの意味もサツマイモ!

一方,当時,17世紀半ばまで,ジャガイモは「まがいもののpoteto」と呼ばれていた!!

 

“Online Etymology Dictionary”

potato | Origin and meaning of potato by Online Etymology Dictionary

の記述を,少し長くなりますが,拙訳で(あやふやな部分があります.原文をご参照ください)

potato

ハイチのカリブ語batata(sweet potatoの意)に由来するスペイン語patataから,1560年代に生まれた言葉.

Sweet potatoがはじめにヨーロッパへ持ち込まれ,16世紀中頃までにはスペインで栽培されるようになり,(イギリス植民地)バージニアでは1648年までに栽培されていた.ポルトガルの貿易商人はこの作物を全ての貿易港に出荷し,sweet potatoはまたたくまにアフリカ,インド,ジャワで受け入れられた.

Century Dictionaryによれば,

“これが,この名前の本来の使い方.一般的にいって,17世紀中頃まで,英語の書き手がこの言葉(potato)を用いたとき,その意味は,sweet potatoのこと”

後に,1590年代に,この名前は,ペルーから持ち込まれたじゃがいも(the common white potato)にまで拡張して使用されていた.じゃがいもは,はじめ,(間違えて)Virginia potatoと呼ばれ,sweet potatoに比べて重要度で劣っていたため,bastard potato(まがいもののpotato)と呼ばれていた. potato | Origin and meaning of potato by Online Etymology Dictionary

 

potato (n.)

1560s, from Spanish patata, from a Carib language of Haiti batata "sweet potato."

Sweet potatoes were first to be introduced to Europe; in cultivation in Spain by mid-16c.; in Virginia by 1648. Early 16c. Portuguese traders carried the crop to all their shipping ports and the sweet potato was quickly adopted from Africa to India and Java. "This was the original application of the name, and it is in this sense that the word is generally to be understood when used by English writers down to the middle of the seventeenth century" [Century Dictionary].

The name later (1590s) was extended to the common white potato, from Peru, which was at first (mistakenly) called Virginia potato, or, because at first it was of minor importance compared to the sweet potato, bastard potato. potato | Origin and meaning of potato by Online Etymology Dictionary

 

アジアへの伝播

農水省のサイト“サツマイモ「どこから来たの」サツマイモ 「どこからきたの?」:農林水産省

では,次のような図を掲載しています.

 

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サツマイモ 「どこからきたの?」:農林水産省

 

この図には,二つの経路が示されています.

1. 図の真ん中の矢印:「スペイン人やポルトガル人が持ちこんで、その後中国へと広がった」経路.主要な経路として描かれています.

この経路の先に日本への伝播があり,本ブログ冒頭へつながります.

 

2. もう一つは「タヒチへ」と書かれたポリネシアへ向かう経路.

上図では,有名な探検家・ヘイエルダールの仮説をそのまま書いているようです.

しかし,アメリカから直接アジアへ伝播する経路は更に二つの説(仮説)があるとのこと.

2-1. メキシコ・アカプルコからハワイやフィリピン,インドネシアに向かう経路.

このルートは,上記1のルートとともに,従来から有力とされてきた経路です. 

2-2. ペルーから南太平洋の島々へ,ポリネシア人によって伝えられ,さらにインドネシアまで広がっていったとする説.

 この2-2のルートは,比較的新しい仮説で,

▽10000年前に発生したサツマイモ栽培は,もっと早くから世界に広がっていたのではないか,

▽ヨーロッパ人が見向きもしなかった紫のサツマイモは,東南アジアに広がっていて人気がある=ヨーロッパ人が伝えたのとは別の伝播ルートがあるに違いない.

などを根拠に,調べられている伝播ルートのようです.

探検家ヘイエルダールの仮説も引き継いだ,なかなか魅力的な説ですね.