インゲンマメ3 インゲンマメは,「メソアメリカ」で栽培化され,「コロンブス交換」でヨーロッパに渡りました.インド・中国へも広がって,世界を代表する豆となりました.日本へは,17世紀隠元禅師がもたらしたと言われていますが,実際に栽培が広がったのは明治以降.ヨーロッパ,インドなどでは,例えばカスレ(フランス),パスタ・エ・ファジョーリ(イタリア),インゲンマメのカレー(Punjabi Rajma インド)として,最も食べられている豆となっています.

インゲンマメcommon beanPhaseolus vulgaris)は,世界で最も食べられいる豆の一つです.

https://www.mame.or.jp/syurui/ 

大豆・落花生を除く食用の豆=Pulsesで最も多く生産・消費されています.https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2023/04/27/235440

https://www.mame.or.jp/seisan/data/sekai_01.html https://en.wikipedia.org/wiki/Soybean https://en.wikipedia.org/wiki/Peanut

インゲンマメの原産地はアメリカ.

世界への伝播について簡単にまとめてみます.

 

インゲンマメの伝播

アメリカ原産のインゲン

 原産地は,メキシコ中央部からグアテマラホンジュラス一帯のいわゆるメソアメリカ(Mesoamerica:中央アメリカ〜メキシコ中・北部.アンデス文明圏と相対する文明圏)とされ,メキシコでは紀元前5000年ころに栽培されていたことが知られていますhttps://kotobank.jp/word/インゲンマメ

 

英語版ウィキペディアでは,次のように記載しています.https://en.wikipedia.org/wiki/Phaseolus_vulgaris

(DeepL翻訳)

 野生のインゲンマメ(common bean,Phaseolus vulgaris)アメリカ大陸に自生してます.

当初はメソアメリカとアンデス南部で別々に栽培品種化され,栽培品種化された豆に2つの遺伝子プールができたと考えられていましたが,最近の遺伝子解析では,メソアメリカで先に栽培され,おそらくカボチャやメイズ(トウモロコシ)とともに南下してきたと考えられています.

メソアメリカの3つの作物(トウモロコシ,カボチャ,インゲンマメ)は,北米先住民の農業の中心となる「3姉妹」(*)を構成しています.

そして,インゲンマメは,「コロンブス交換」(**)の一環としてヨーロッパに到着しました.

 

(*)「3姉妹」:

https://en.wikipedia.org/wiki/Three_Sisters_(agriculture)

 北米先住民の三大農作物であるカボチャ,トウモロコシ,インゲン豆のこと.

コンパニオンプランティングと呼ばれる手法で,トウモロコシとインゲンは,毎年株元に土を盛って形成したマウンドに一緒に植えられることが多く,カボチャは通常,マウンドの間に植えられる。トウモロコシの茎は豆を育てるためのトレリスとなり,豆は根粒で窒素を固定し,強風の中でトウモロコシを安定させ,カボチャは広い葉で地面を覆い,土壌を湿らせて雑草の発生を防ぐ役割を果たす.

地理学者カール・O・ザウアーは,スリーシスターズを「北中米の共生植物複合体であり,他では見られない」と評した.

(**)「コロンブス交換」:

コロンブス交換 - Wikipedia Columbian exchange - Wikipedia

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/07/20/234623

 アメリカの歴史学者ルフレッド・クロスビーによって提唱された概念で,「1492年から続いた東半球と西半球の間の植物、動物、食物、人口(奴隷を含む)、病原体、鉄器、銃、思考の甚大で広範囲にわたる交換を表現する時に用いられる言葉」.

この交換において,新大陸側から世界に広まった植物は以下の通り.非常に優れた栽培作物が多く,アメリカ先住民の農耕文明,特に“メソアメリカ”&“アンデス”の文明が,とても高い水準にあったことがわかる.

トウモロコシ,カボチャ,インゲンマメ

リママメ,カシューナッツラッカセイ,ペカン,サツマイモ(ただし、オセアニア-東南アジアにはそれ以前に到達していた),ジャガイモ,トウガラシ(ピーマンやパプリカ等も含む),トマト,アマランサス(ハゲイトウ),キャッサバ,キヌア,ヒマワリ,アボカド,パイナップル,パパイヤ,イチゴ(現代の交配に使われるアメリカの品種),バニラ,ココア / チョコレート,  アキギリ属(サルビア),綿(長繊維の品種など.現在栽培されている綿の90%はアメリカ原産),ゴム,タバコ,コカノキ,chicle(ガムの元になるチクル)

 

ヨーロッパでのインゲン

ヨーロッパでインゲンを本格的に栽培したのはイタリアとのこと.

イタリアへ

吉田宗弘氏は次のように記しています.(食生活研究第40巻)

https://ku-food-lab.com/wp/wp-content/uploads/2020/01/8646a8420a2be9cda5c4dee9d8a77434.pdf

アメリカ原産のインゲンを本格的に栽培したのはイタリアである.

16 世紀前半,教皇クレメンス 7 世にスペイン皇帝カルロス1 世からインゲンが届けられた.教皇の要請を受けたピエトロ・ヴァレリアノがインゲンの栽培を始めた.栽培が容易であったためか,短期間のうちにインゲンの栽培は拡大し,多くの人々がインゲンに馴染むようになった.今日でも北イタリアのトスカーナ地方や中部イタリアにはインゲン料理が多い.

Pasta e fagioli(パスタ・エ・ファジョーリ 豆パスタ) fagioliは豆.

https://www.tasteatlas.com/pasta-e-fagioli

(DeepL翻訳)パスタ・エ・ファジョーリは,イタリアの伝統的な料理で,イタリア全土にレシピがある.正規のレシピというものはなく地域によって多くのバリエーションがある.オリーブオイル,タマネギ,セロリ,ニンジン,ニンニク,トマトの煮込み,またはベジタリアンか肉ベースのスープをベースに,豆と小さな種類のパスタで作られることがほとんどである.

パスタ・エ・ファジョリは,スープ状の食感を持つこともあるが,地域によってかなり濃厚になることもある.この料理は,貧しい人々の食事として,高価な肉の代わりとして始まった.かつては,健康的で安価,かつ食べ応えがあることから,冬のスープとして消費されることがほとんどだった.

 

フランスへ

吉田宗弘(食生活研究第40巻)によれば,

インゲンを用いる有名なフランス料理カスレの故郷であるオック地方を含むフランスに インゲンをもたらしたのは,1533 年にフランスのアンリ2 世に嫁いだカトリーヌ・ド・メディシスであるといわれている.ただし,フランス宮廷に流行したのはカトリーヌが同時にもたらしたグリーンピースであり,インゲンは庶⺠の食べ物として広まっ た.

Cassoulet(カスレ)

https://en.wikipedia.org/wiki/Cassoulet

南フランス発祥のじっくり煮込んだ濃厚なシチュー.料理研究家のエリザベス・ダヴィッドは,この料理を"that sumptuous amalgamation of haricot beans, sausage, pork, mutton and preserved goose, aromatically spiced with garlic and herbs"(白いんげん豆、ソーセージ、豚肉、羊肉、ガチョウの保存食の豪華な融合で,ニンニクとハーブで香り高くスパイスされている)と評した.

 

アジア,そして日本への伝播

アジアへの伝播については,調べきれませんでした.先に引用した吉田宗弘氏も「詳細を記した文献を見つけることはできなかった」とし,可能性としてはマニラを拠点としたスペイン,マカオを拠点としたポルトガルとの交易を通して伝わったのだろうと推測しています.

そして,多くの情報源が「中国へは16世紀末に伝わった」と記しているのみであるとしています.

 

日本への伝播についての記述は,多くのサイトでほぼ同様で,例えばニッポニカは,次のように記しています.

https://kotobank.jp/word/インゲンマメ-761874#:

「日本へは17世紀ころ,中国を経て渡来した.

隠元禅師が伝えた豆との意味の名があるが、実際に禅師がもたらしたのはフジマメであるとされる」

ただし,吉田宗広氏は次のように記しています.

(食生活研究第40巻)https://ku-food-lab.com/wp/wp-content/uploads/2020/01/8646a8420a2be9cda5c4dee9d8a77434.pdf

「仮に大和本草に記載されるインゲンがフジマメの一品種であったとしても,この時期に中国から日本にインゲンが別途伝わった可能性はきわめて高い」

「おそらく,明末清初の混乱期に中国から多くの人が日本に来航し, そのさいに大和本草にある莢食用のフジマメの一品種と,本朝食鑑がいうササゲに似た豆が同時に伝 わったのであろう.そして,中国からの伝来物をすべて隠元禅師というシンボルに帰結させる傾向が あり,これらを『隠元豆』と呼ぶようになったと考えられる 」

そして,

「日本が莢食用でないインゲンを本格的に栽培するのは,明治維新後、北海道を開拓する時代になってからのことである.米国からの輸入物を含めて種々の品種が試され,金時,手亡などの優良品種が誕生した」

としています.

 

 

現在,世界で,インゲンの消費量が最も多いのはインドです.

ネット上にあるインドの代表的豆料理を紹介し,最後にインゲンマメのふるさとメキシコ料理の画像を載せて,終わります.

 

インドの豆料理 

Bean recipes India

クリーミーいんげん豆カレー Creamy Black Bean Curry 

パンジャーブ風の赤インゲンマメのカレー Punjabi Rajma  (Red Kidney Bean Curry) 

 Punjabi パンジャーブ風 Rajma赤いんげん豆.

▽五つの豆入りカレー 5 Bean Curry Recipe

   Chickpeas (Chole):ひよこ豆

   Kidney Beans (Rajma):赤インゲンマメ

   Black Gram (Sabut Urad) :ウラドマメ/ケツルアズキ/黒緑豆 ササゲ属アズキ亜属

   Black Eyed Bean (Lobia) :Black-eyed peaに同じ, ササゲVigna unguiculataの亜種

   Green Gram / Mung Bean (Sabut Moong) :緑豆 Vigna radiata

▽Pinto Bean Thoran うずら豆のトーラン:ココナッツベースのケーララ州の野菜料理 

 

Typical Mexican bean dish

https://www.google.com/search?q=Typical+Mexican+bean+dish