相模原殺傷事件2年
娘の写真 部屋に至る所に
喪失感埋める「笑顔」 見つめると涙 ながすだけ流し
毎日新聞2018年7月26日 東京朝刊
タンスの上,床に敷いた布団のそば,部屋の壁.
事件から1年を過ぎた頃から,家の至る所に娘の写真を飾り始めた.
夏祭りで化粧をした浴衣姿,ソフトクリームをほおばり満足そうな顔.娘が見守ってくれているような気がする.
入所者19人が殺害された相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」の殺傷事件から,26日で2年になるが,事件で26歳の長女を失った神奈川県内の母親は,日を追うごとに増す喪失感に苦しむ.
さみしさを埋めようと飾った写真も,見つめると涙がこみ上げることがある.そんな時は,涙を流すだけ流して娘をいとおしむ.
長女が描いた絵や「まま」と書いた文字を見る母.長女を思い出し,涙することもある
https://mainichi.jp/articles/20180726/ddm/041/040/062000c
3歳の時に自閉症と診断を受けた娘は,言葉の意思疎通は苦手だったが,水遊びが好きで活発な子だった.
保育園で大きい目を輝かせながら周りの友達と過ごす姿を見て,小学校は普通学級に進学した.周りと同じような動作をするのに時間を要することもあったが,温かく見守った.
障害を周りに隠したことはなく,一緒に暮らし続けたかった.
しかし,自身と夫,一緒に暮らしていた祖母の3人が病気などでほぼ同時期に入院し,娘は2012年にやまゆり園に入所した.
家の近くの道を歩いていると,思い出が映像のように脳裏に浮かぶ.
寒い日の道でつないだ手のぬくもり.急ぎ足で歩く娘に「待ってよ」と声をかけると,振り返り「まだ?」というような表情を浮かべた.だが,待ってくれる娘はいない.
朝の時間が一日のうちで一番つらい.起きて仏壇の遺影を見ると現実に引き戻されるためだ.
2年が経過し,「頭では分かっているつもりだが,実感がない」と,受け入れられない心情を明かす.
喪失感を埋めようと,アルバムから写真を抜き出して室内に飾るようになった.
今は約8畳のリビングに10枚ほどの写真がある.
大好きだったアイスを買ってきて「一緒に食べよう」と写真に話しかける時もある.誕生日にはケーキを供え,年を重ねただろう娘の姿を思い浮かべた.「もう一度会えるなら,思い切り抱きしめてあげたい」と言う.
19人への殺人罪などで起訴された植松聖(さとし)被告(28)=精神鑑定中=には憤りしかない.
なぜ娘を奪ったのか.「どんな障害があっても共に生きていくことが当たり前.そんな社会になってほしい」.母親はそう訴えたいと思っている.
【木下翔太郎】