もう二度と
相模原殺傷事件2年 「やまゆり園」模索 障害者の意思,支える
毎日新聞2018年7月26日 東京夕刊
2年前に入所者19人が殺害された相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」では今,見過ごされがちだった障害者本人の意思をくみ取り,本人が望む暮らしをともに考える意思決定支援が進む.【国本愛,堀和彦】
園で約4年間過ごした平野和己さん(28)は5月末,横浜市内の仮園舎を離れ,少人数が街中で自立して暮らすためのグループホームに移った.
約1時間かけて通所施設に通い軽作業もする.園では室内で過ごす時間が長く夜に目覚めることもあったが,今はほとんどない.両親は「社会に参加している実感があり,日常が変わった」と喜ぶ.
園は2021年度の再建に向けて建て替え中で,入所施設の小規模化と,グループホームなどを利用する「地域移行」を促進する方針だ.
神奈川県は昨年9月から,入所者約130人の意思決定支援を始め,再建後の入所定員を把握する.
園や県職員,相談支援専門員らがチームを組み,面接などを通じて本人の意思を探り,望む暮らしの形を検討する.
グループホームの見学や体験も織り交ぜ,地域移行の可能性も模索する.
事件で重傷を負った男性(53)は1月,80代の両親とともに,意思確認の検討会議に臨んだ.
出席した職員らはおよそ20人.両親は息子に代わって近況を説明したうえで,自分たちが高齢で地域移行のイメージを持ちにくいことを伝えた.職員らはうなずき,さらに男性の表情をうかがった.両親は「こんな大勢に息子のことを考えてもらえるとは思わなかった」と語った.
こうした試みは,園の職員に変化をもたらした.
意思を表しにくい利用者の望みを知るには日々の行動をつぶさに観察することが必要だ.山田智昭・支援部長は「利用者の動作を注意深く見るようになった」と言う.
ただし課題もある.
意思を探る際,家族などの考えが交じることもある.本人の意思に迫るには,日々の行動や表情を綿密に記した支援記録が手がかりになるが,園の記録は簡素で,外部専門家から「これでは意思は読み取れない」という厳しい指摘も出た.
山田部長は「求められる支援の質が変化している.何とか応えたいが,どこまでやれば正解か分からないこともある」と話す.
本人の意思を反映した暮らしの実現に向け,模索が続く.
https://mainichi.jp/graphs/20180726/hpj/00m/040/001000g/1