ニラ 2 古事記では雑草として,でも万葉集東歌には食用の摘み草として記されたニラ.栄養豊富なことは間違いありません.スタミナ源としての作用の現代的説明には疑問の点が残りますが,古来より薬膳として食べられてきました. 茎韮(くくみら)/万葉集 伎波都久(きはつく)の岡の茎韮(くくみら),我れ摘めど,籠(こ)にも満たなふ,背(せ)なと摘まさね

ニラ 2

ニラが野菜として広く食べられるようになったのは,戦後のこと.

餃子などの中華料理が広まったことで,ニンニクに次ぐスタミナ野菜として人気となったため.とされています.

古くから親しまれてきたニラの歴史 | おいしいねっと ニラ/韮~歴史・栄養成分と期待される効果効能・食べ合わせなどを紹介~

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 https://www.alic.go.jp/content/000138368.pdf

 

ニラの栄養成分

スタミナ野菜としてのニラを説明するのに,臭いの成分,硫化アリルによるビタミンB1吸収の促進作用が良く挙げられています.

ただ,どの程度までこの作用が実際に発揮されているのか,については,疑問な点も多いと思われます.

ニラにはビタミンB1は余りありません.

硫化アリルがビタミンB1と結合して効力を発揮するとされていますが,食べている間に他の食品のビタミンB1 とどの程度反応するのか?は明らかにされていないように思います.

とはいえ,広く流布した説です.単に「私が測定結果を知らない/調べられないだけ」かもしれません.

 

疑問の余地がないのは,栄養成分が豊富な点.ホウレンソウに及ばないところもあるとはいえ,匹敵するといっても良いでしょう.

なお,余り話題になりませんが,

青ネギもニラと同等かそれ以上の栄養成分(例えばカルシウム,ビタミンC)を持っていることも知っておいて良いように思われます.

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https://fooddb.mext.go.jp/

 

薬膳としてのニラ

ニラがよく食べられるようになったのは戦後のこととはいえ,それまでもニラは食べられ,遅くとも江戸時代には栽培されていたとのこと.ただし,主に「薬膳」に用いられていたようですね.

ニラ/韮~歴史・栄養成分と期待される効果効能・食べ合わせなどを紹介~

によれば,

中国では2000年以上前から

“野菜の中で最も体を温める作用が強く,人体を益する(「黄帝内経」)とされ

明の時代の「本草綱目」には

“根や葉を煮て食べると胃腸を温める,降気・補虚・益腸作用があり,臓腑を調和して食を良くして冷痛を止める”

とあるそうです.

日本にも,このような漢方の知識も広まっていたでしょうし,江戸時代には腹痛や下痢の治療薬として,雑炊や味噌汁に加えて食べていたとのことです.

 

日本への渡来時期,そして「ミラからニラへ」

日本にニラが入ったのはとても古く,弥生時代とも.ニラ/韮~歴史・栄養成分と期待される効果効能・食べ合わせなどを紹介~

そして,古事記/神武天皇にある賀美良(かみら)がニラを意味するとされ,また,万葉集東歌にある久々美良(くくみら)もニラとされています.ニラ - Wikipedia

平安時代前記まではタダミラ(タタミラ),コミラ等と呼ばれていました.(日本国語大辞典

新撰字鏡(898年~901年)「韮 太々美良」

和名類聚抄(931年 - 938年))「韮 和名:古美良

平安後期,類聚名義抄(11世紀〜12世紀)にニラが現れ,その後,ニラが優勢になっていったのことです.(日本国語大辞典

 

古事記の記述

古事記に記されているとのことでしたので,どのような文脈で用いられているのかを調べてみました.

古事記では,「粟の畑に紛れ込む雑草」として扱われているようですね.

 

原文はとても読めませんが---

http://www.umoregi.com/koten/kojiki/story.html?v=2&n=8

久米能古良賀 阿波布爾波 賀美良比登母登 曾泥賀母登 曾泥米綾那藝弖 宇知弖志夜揺牟

 

福永武彦訳 現代語訳 古事記」 によれば,

カムヤマトイハレビコノ命(後の神武天皇)が,兄イツセノ命を死に至らしめた,トミノナガスネビコを討とうとしたときに詠んだ歌だそうで,読み下し文と口語訳は次の通り.

 

みつみつし 久米の子らが

粟生(あはふ)には 臭韮(かみら)一本(ひともと)

其(そ)ねが本(もと) 其根芽(そねめ)つなぎて 

撃(う)ちてし止(や)まむ

 

(口語訳)

武勇に秀でた久米の兵(つわもの)が,

日ごろ耕す粟畑(あわばたけ)に,紛れ込んだ臭い韮(にら),

邪魔もののその韮を,根こそぎ引っこ抜き,根につながった芽もろとも,いっしょくたに引き抜くよう,憎い敵の奴ばらを,

撃ってのけずのおくものか.

 

茎韮(くくみら) 万葉集

万葉集では,野で摘む草として扱われています.当然,食べるためでしょう.

 

伎波都久(きはつく)の岡の茎韮(くくみら),我れ摘めど,籠(こ)にも満たなふ,背(せ)なと摘まさね  東歌 巻十四 3444

 

折口信夫 万葉集

きはつくの岡のくくらみを,私はつんでいるけれど,なかなか籠に一杯にならない事だ.あなたも私と一緒に摘んで下さいよ.

 

たのしい万葉集

伎波都久(きはつく)の岡に茎韮(くくみら)を摘みに来たけれど,籠はぜんぜん一杯になりませんよ.じゃあ,あの人と一緒に摘みなさいね.