海を詠んだ短歌2  伊勢の海の礒もとどろに寄する波畏(かしこ)き人に恋ひわたるかも 笠女郎  かからむとかねて知りせば越(こし)の海の荒礒(ありそ)の波も見せましものを 大伴家持  綿津海(わたつみ)の青海原は久方の月のみ渡る所なりけり 良寛  海恋し潮の遠鳴りかぞへては少女(おとめ)となりし父母(ちちはは)の家  与謝野晶子  わたつみの海にいでたる富津の崎 日ねもす まほにかすむしづけさ 釈迢空 

今日はほぼ曇りの1日.

夕方散歩は小動神社まで.

「小動」は「こゆるぎ」と読みます.良い名前ですよね.岬の名前が小動岬.

この画像は,鎌倉高校側から小動岬を撮ったもの.少女が一人全速力で犬とランニングしていました.

小動神社は広くはありませんが,雰囲気のある神社.

岬の先からは,腰越漁港ごしに江の島が美しく見えます.

 

昨日に続いて,海を詠んだ短歌を取り上げます.沢山の短歌があります.例えば,万葉集だけでも,100を越える歌で海(固有名詞も含めて)が詠まれています.

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ただし,現代はほとんど使われませんが,海は湖も表す言葉で,例えば下にも示した「近江の海」は,琵琶湖で湖になります.

 

 

海を詠んだ短歌2

(古今短歌歳時記より)

 

飼飯(けひ)の海の庭好(よ)くあらし刈薦(かこも)の乱れ出づ見ゆ海人の釣船  柿本人麻呂 万葉集 巻三 二五六

(武庫の海の海上は穏やからしい。漁をする漁師の釣船が波の上遠く見える。 /奈良県立万葉文化館)

 

近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのにいにしへ思ほゆ  柿本人麻呂 万葉集 巻三 二六六

近江の海の夕波に集う千鳥よ。君が泣くと心が折れてしまい、昔のことを思い出します。 楽しい万葉集

 

伊勢の海の礒もとどろに寄する波畏(かしこ)き人に恋ひわたるかも  笠女郎 万葉集 巻四 六〇〇

(伊勢の海の磯もとどろくほどに寄せる波のように、恐れ多いあなた様に恋し続けております。 楽しい万葉集

 

かからむとかねて知りせば越(こし)の海の荒礒(ありそ)の波も見せましものを  大伴家持 万葉集 巻一七 三九五九

(こうなると、かねてから知っていたなら、越の海の荒磯に寄せる波を見せてあげたものを。 楽しい万葉集

 

わたつみのかざしにさして祝ふ藻も君が為には惜しまざりけり  在原業平 伊勢物語 

 

草も木も色変われどもわたつ海の波の花にぞ飽きなかりける  文屋康英 古今集

 

わたつみのちぶりの海にたむけするぬさの追風やまず吹かなむ  紀貫之 土佐日記

 

わが恋は荒磯の海の風をいたみしきりに寄する波のまもなし  伊勢 新古今集

 

わたつ海の底より来つるほどもなくこの身ながらに身をぞきはむる  藤原道長 新古今集

 

山は裂け海はあせなむ世なりとも君にふた心われあらめやも  源実朝 金槐集

 

敷島や和言葉(やまとことば)の海をえてひろひし玉はみがかれにけり  藤原良経 夫木集

 

綿津海(わたつみ)の青海原は久方の月のみ渡る所なりけり  良寛 良寛歌集

 

海見えて風の涼しき道のべの松のこかげに鞋(くつ)のあとあり  伊藤左千夫 左千夫歌集

 

わたつみの空わたる日の沈むまで一つの船にあふこともなし  島木赤彦 太虚集

 

海恋し潮の遠鳴りかぞへては少女(おとめ)となりし父母(ちちはは)の家  与謝野晶子 恋衣ー曙染

 

断面はしろく鋭く外界のあをきにむかひみさきぞ尖る  前田夕暮 生きる日に

 

韃靼(だったん)の海阪(うなさか)黒しはろばろと越えゆく汽船(ふね)の笛ひびかせぬ  北原白秋 海阪

 

わたつみの海にいでたる富津の崎 日ねもす まほにかすむしづけさ  釈迢空 海やまのあひだ

 

原油を海に またまた流す,人間の残虐なんぞ生物は死ぬ  加藤克巳 月は皎く砕けて

 

目つむれど盈(み)つることなき海のいろ重きまぶたに夜々夢む  清原令子 海盈たす

 

海に出てなお海中の谷をくだる河の尖端を寂しみ思ふ  高野公彦 雨月