見るのがいつも夕方〜夜で,萎んだ花しか知ることがなかった鎌倉本覚寺の白芙蓉.
今日は開いている姿を写真におさめました.
芙蓉は花の少ない八月には貴重な花.ハイビスカスやムクゲと同じフヨウ属Hibiscusです.
清楚で美しい顔を「芙蓉の顔(かんばせ)」,清らかで美しい目もとを「芙蓉の眦(まなじり)」と言うそうです(日本国語大辞典)が---
どちらも「蓮の花のように美しい」という意味です.
芙蓉は,中国唐代以前は,蓮の花を意味する言葉だったんですね.
白楽天が楊貴妃を芙蓉(蓮)に例えたため,「芙蓉の顔(かんばせ)」「芙蓉の眦(まなじり)」という言葉が生まれました.
:「芙蓉如面柳似眉」=面(かお)は芙蓉の如く,眉(まゆ)は柳に似る.(白楽天 長恨歌)
ただし,芙蓉が現在の芙蓉を意味する言葉となった後も,しっかり愛されてきた花であったことも確かです.
南宋の画家,李迪(りてき)が描いた紅白芙蓉図(東京国立博物館)は国宝となっており,また大徳寺の芙蓉図(雨下芙蓉図?)(牧谿筆)も傑作として知られています.
https://www.tnm.jp/modules/r_collection/index.php?controller=dtl&colid=TA137
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ファイル:Hibiscus_attributed_to_Muqi_%28Daitokuji%29.jpg
なお,芙蓉には,朝白い花が咲き,徐々に赤くなる「酔芙蓉」がよく知られています.色素のアントシアンの合成が高まるための変色とのこと.https://gardenstory.jp/gardening/18508
李迪(りてき)が描いた紅白芙蓉図は,この酔芙蓉と言われています.
https://gardenstory.jp/gardening/18508
ただ,短歌に詠まれているのは明治以降.芙蓉が古歌にない理由は不明です.蓮が芙蓉と呼ばれていたことも影響している?
芙蓉を詠んだ短歌
(古今短歌歳時記より)
わがおもひつるぎにそはず時にそはず夕(ゆうべ)ひそかに芙蓉を剪(き)りぬ 与謝野鉄幹 紫
しろ百合はそれその人の高きおもひおもわは艶(にほ)ふ紅芙蓉とこそ 与謝野晶子 みだれ髪
(俵万智訳 白百合の君の心は百合の白なれど美貌は紅芙蓉なり)
老詩人微醺(びくん)微吟の窓ちかく白き芙蓉の花咲く月夜 中原綾子 閻浮提
夜ふけし家に帰りてわが庭の芙蓉は明日の花ひらきそむ 佐藤佐太郎 地表
白花の芙蓉のをはりしづかなる園はいさよふゆうべの光 山本友一 晩春
中東湾岸 危急を告ぐる朝(あした)あした 薄くれないの芙蓉咲きつぐ 加藤克巳 月は皎く砕けて
しじまなすことばほのけし花芙蓉天つ罪など今日にもたずや 馬場あき子 飛花抄
白芙蓉あしたは軽(かろ)く夕まぐれほのぼの重し光(かげ)を孕みて 栗木京子 中庭