ホンカンゾウ(本萱草) 門前に植えられているところを通りかかりました.鮮やかな花です.ノカンゾウ,ヤブカンゾウとともに「わすれぐさ」として知られる植物.中国では「食するとうれいを忘れるという」(字源).山菜のノカンゾウ.もっと人気が出てもよさそうですね. それとなく紅き花みな友にゆづりそむきて泣きて忘れ草つむ 山川登美子

散歩の途中,一軒のお宅の門の横に植えられた花.一輪は既に萎れていましたが,もう一輪はまだ元気に鮮やかな色彩を保っていました.

PictureThisの判定は,ホンカンゾウ(本萱草).

ノカンゾウの栽培種ですね.

ノカンゾウヤブカンゾウ,そしてこのホンカンゾウは,同種とされ,一名「わすれぐさ」.

万葉歌人に詠われ,また,一方では,ノカンゾウヤブカンゾウの若芽が山菜として,蕾は中国料理の食材としてよく知られています.

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やぶかんぞう/山菜を美味しく食べる!【山菜料理のレシピ】/食の和音〜美味しいものは心と体に効きます〜 やぶかんぞうの酢味噌和え | 低塩分・低カロリーな料理レシピと調理器具のサイト〜食の和音〜

 

https://item.rakuten.co.jp/iktcm/ks004/

 

「わすれぐさ」という名前は,「いやなこと,悲しいことをわすれるための草」という意味で,大伴旅人は,次のように詠っています.

 

忘れ草我が紐(ひも)に付く香具山(かぐやま)の古(ふ)りにし里を忘れむがため  大伴旅人  (万葉集 巻三 三三四)

「忘れ草を,私は衣服の紐に結びつけている,それはあの香具山のほとりのふるさとを忘れようと思うからです」

 

わすれぐさは,万葉人が「悲しいことを忘れる」ために身につけ,その後も短歌に多く詠み続けられた植物.

「恋忘れ草」「人忘れ草」と呼ばれることも(古今短歌歳時記).

 

しかし,

元々の中国での忘れ草の言い伝えは「食べると憂いを忘れる」という意味だったようです.

前回わすれぐさを取りあげたときに,ウェブ上に「食べると忘れる」という説明を見つけて「ほんとうかしら?」と思ったのですが,改めて角川「字源」で確認できました.

山菜のノカンゾウ.もっと人気が出てもよさそうですね

 

 (字源)

意味

わすれぐさ。しなかんぞう。ユリ科の多年生草本これを食するとうれいを忘れるという。忘憂草。

〔嵆康・養生論〕萱草ハ憂ヒヲ忘レシム

 

 

 

わすれぐさ・萱草(くわんぞう)は,万葉集古今集のみならず.近代に至るまで,多くの歌人に取りあげられています.

 

例によって古今短歌歳時記(鳥居正博 教育社)から以下抜粋します.やや数が多いのは,気に入った歌が多かったためです.

 

 

忘れ草我が紐(ひも)に付く香具山(かぐやま)の古(ふ)りにし里を忘れむがため  大伴旅人  (万葉集 巻三 三三四)

 

忘れ草生ふる野辺とは見るらめどこはしのぶなり後も頼まむ  在原業平 (伊勢物語 一〇〇段)

 

道知らば摘みにも行かむ住の江の岸に生ふてふ恋忘れ草  紀貫之 (古今集・墨滅歌 二二)

 

種を取る物にもながや忘れ草かれなばかかる跡もあらじを  和泉式部 (和泉式部続集・恋五 九二二)

 

なき人を忍びかねてはわすれ草多かる宿に宿りをぞする  藤原兼輔 (新古今集・哀愁 八五三)

 

それとなく紅き花みな友にゆづりそむきて泣きて忘れ草つむ  山川登美子 (恋衣―白百合) 

 

くわん草(ぞう)は丈ややのびて湿りある土に戦(そよ)げりこのいのちはや  斎藤茂吉 (赤光)

 

たらちねの母をうづめし赤土に萱草ひとつ萌えてありけり  藤沢古実 (国原)

 

茎立ちてつぎつぎに咲く萱草の花うとみつつ梅雨すぎんとす  佐藤志満 (水辺)

 

萱草の花の飛び行く車窓にて夏の記憶もひもとくあたはず  北沢郁子 (月輪)

 

萱草に日ざしささやく午後のわれ病みおり翼なき歌かきて  寺山修司 (空には本)