ハスの花は美しいばかりではなく,
仏教の世界では,特別な花とされています.
稲垣栄洋氏によれば,
第2回 ハスは極楽浄土に最もふさわしい花|なぜ仏像はハスの花の上に座っているのか|稲垣栄洋 - 幻冬舎plus
お寺の庭の池には,よくハス(蓮)が植えられています.
ハスは古くから神聖な存在とされ,仏教と深い関わりを持つ植物です.
たとえば,仏像は蓮華座と呼ばれるハスの花の台座に座っていますし,
ハスの花を挿した水差しを持つ仏像もあります.香炉などの仏具もハスの花の形をしていますし,お供え物の砂糖菓子もハスの花の形をしたものがあります.
仏教にとってハスはとても大切な植物なのです.
「蓮は泥より出でて泥に染まらず」といわれるように,池の底の汚れた泥の中から茎を伸ばし,美しい花を咲かせます.
その姿は,極楽浄土に咲くにふさわしい存在として尊ばれ,善と悪,清浄と不浄が混在する人間社会の中に,悟りの道を求める菩薩道にもたとえられました.
不浄である泥の中から茎を伸ばし,清浄な花を咲かせるハスは,仏教が理想とする在り方.極楽浄土に最もふさわしい花とされてきました.
稲垣氏は「仏教と蓮」の関連性を平易に書かれていて,十分納得できるものです.ネット上の諸宗派の解説でも,ほぼ同様なことが書かれています.
蓮華|じつは身近な仏教用語|仏教の教え|日蓮宗ポータルサイト
しかし---
蓮と仏教について調べはじめると,仏教とヒンドゥー教の関係,様々な仏教宗派など,一筋縄ではない.
調べた範囲で,以下,少しだけ素人のツッコミを入れておきます.興味のない方には退屈な話になってしまいます.
▽蓮は,ヒンドゥー教でも重要な花.
ブリタニカ国際大百科事典によれば,ヒンドゥー教神話では「ビシュヌ神の臍から生じた蓮華の上にブラフマー (梵天) がすわって宇宙を創造する」とあるとのこと.
蓮華座 れんげざ
ブリタニカ国際大百科事典 蓮華座とは - コトバンク
仏像の台座の一種.蓮華はヒンドゥー教神話でも重要な花であり,ビシュヌ神の臍から生じた蓮華の上にブラフマー (梵天) がすわって宇宙を創造するという.仏,菩薩も蓮華の座にすわり,造形化された台座には単純な反花 (かえりばな) 1段のものから,複雑なものまである.
また,蓮華座の成立についての龍谷大博士論文にも,
「『蓮華上に座す』というイメージそのものは,既にインドにおける女神やヤクシャ・ヤクシーといった民族的造形表現に保有されていた」とあります.
成立時点でヒンドゥー教の影響を色濃く受けた仏教.
蓮の特別視はヒンドゥー教に始まり,仏教の成熟に合わせて変遷していったという視点は欠かせないでしょう.
Sacred lotus in religious art - Wikipedia
Lotus Flower in Hinduism – Significance and Symbolism | Hindu Blog
▽華厳宗系では,「浄土」とは毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)の現れであり,蓮華(れんげ)に包まれた浄土(蓮華蔵 れんげぞう 世界)観をもつ.
仏教(大乗仏教)では,「浄土」がイメージされます.
日本大百科事典によれば 浄土とは - コトバンク
「浄土」とは「仏や将来仏となる菩薩(ぼさつ)の住む清浄な国土」のことで,我々「衆生」の住む世界「穢土えど」と対比されます.
この浄土のイメージは,宗派によって異なり,よく「極楽浄土」と言ってしまいますが,これは,阿弥陀仏の極楽世界のことを指す言葉で,この極楽浄土への往生を説く教えから浄土宗,浄土真宗が成立しました.
しかし宗派によって浄土観は異なり,娑婆即浄土/禅宗系,霊山(りょうぜん)浄土/日蓮宗などがあり,華厳宗系では,「毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)の現れで蓮華(れんげ)に包まれた浄土(蓮華蔵 れんげぞう 世界)観」をもつとのこと.
浄土宗でも,この蓮華蔵世界を極楽と同じ意味で用いることがあるようですが(日本国語大辞典),華厳宗系の考え方は壮大な世界観というべきもので,ブリタニカ大百科事典では次のように解説しています.
(より詳細な解説は:蓮華蔵世界 - 新纂浄土宗大辞典 )
蓮華蔵世界 れんげぞうせかい
ブリタニカ国際大百科事典 蓮華蔵世界とは - コトバンク
仏教用語.蓮華の象徴的意味から発展した世界観.『華厳経』の華蔵世界品では,この世界が具象的に精緻に描かれている.その大要は,世界の最底に風輪があり,その上に香水海があり,そこに咲く蓮華の上に世界が網の目のように広大無辺にあり,その中心に仏が出現する.その世界を哲学的に解釈し,独自の世界観を打立てたのが華厳宗の法蔵である.
蓮華蔵世界の考え方を少し知っただけで,奈良大仏の見方が変わったように思います.