完全保存版 絶対覚えておきたい!究極の短歌・俳句100選に選ばれた万葉秀歌3  世の中を憂しとやさしと思へども飛びた立ちかねつ鳥にしあらねば 山上憶良 栗木京子「貧困にあえぐ人たちに成り代わってというか、そういう人たちの立場に立って詠った,こういう厳しい世の中から逃げてしまいたいけれども,鳥のように翼があるわけではないので飛び立っていけない,そういう嘆きを詠っているわけです」 斎藤茂吉「長歌の方で,細かくいろいろと云ったから,概括的に締めくくったのだが,やはり貧乏人の言葉にして,その語気が出ている」

一昨日から,

NHKの番組「完全保存版 絶対覚えておきたい!究極の短歌・俳句100選.これさえ覚えれば、あなたも短歌・俳句通!?」

で選ばれた万葉集の歌を取り上げています.

f:id:yachikusakusaki:20220413224550j:plain

完全保存版 絶対覚えておきたい!究極の短歌・俳句100選 - NHK

(50首一覧は,次のサイトに掲載)

《発表!》究極の短歌 50選 - 完全保存版 絶対覚えておきたい!究極の短歌・俳句100選 - NHK

 

yachikusakusaki.hatenablog.com

yachikusakusaki.hatenablog.com

 

 

今日は三首目.

完全保存版 絶対覚えておきたい!究極の短歌・俳句100選に選ばれた万葉秀歌3

 

山上憶良のよく知られた歌です,

 

世の中を憂しとやさしと思へども飛びた立ちかねつ鳥にしあらねば 〔巻五・八九三〕 山上憶良

よのなかをうしとやさしとおもへどもとびたちかねつとりにしあらねば 

 

 

番組でのこの歌に対する解説は,次の通り.

栗木京子さん「“憂しと恥(やさ)し”というのは,つらくて恥じ入ることが多くて悲しい,というような意味なんですね.

これは,貧困にあえぐ人たちに,成り代わってというか、そういう人たちの立場に立って詠った,こういう厳しい世の中から逃げてしまいたいけれども,鳥のように翼があるわけではないので飛び立っていけない,そういう嘆きを詠っているわけです.

山上憶良自身は,遣唐使といっしょに唐にも渡ったというような一級の知識人だったわけですけど,そういう社会的なことへの関心が深かったんですよね,格差社会を読んだ作品も万葉集に沢山あって,現代に通じる社会性を感じさせます」

 

 

 

 

斎藤茂吉 万葉秀歌 解説

 

 山上憶良の「貧窮問答の歌一首并に短歌」(土屋氏云,憶良上京後,即ち天平三年秋冬以後の作であろう.)の短歌である.

長歌の方(全文⇒下欄 第五巻:八九二)は,二人貧者の問答の体で,一人が,「風雑(まじ)り雨降る夜の,……如何にしつつか,汝(な)が世は渡る」といえば,一人が,「天地は広しといへど,あが為(ため)は狭(さ)くやなりぬる,……斯くばかり術(すべ)無きものか,世間(よのなか)の道」と答えるところで,万葉集中特殊なもので,また憶良の作中のよいものである.

この反歌一首の意は,

こう吾々は貧乏で世間が辛(つら)いのはず恥かしいのと云ったところで,所詮(しょせん)吾々は人間の赤裸々で,鳥ではないのだからして,何処ぞへ飛び去るわけにも行くまい,

というのである.

「やさし」は,恥かしいということで,「玉島のこの川上に家はあれど君を恥(やさ)しみあらは顕さずありき」(巻五・八五四)にその例がある.

この反歌も,長歌の方で,細かくいろいろと云ったから,概括的に締めくくったのだが,やはり貧乏人の言葉にして,その語気が出ているのでただの概念歌から脱却している.

論語に,邦有レ道,貧且賤焉耻也とあり,魏文帝の詩に,願レ飛安ゾ得ンレ翼,欲レ済(ワタラント)河無レ梁(ハシ)とあるのも参考となり,憶良の長歌の句などには支那の出典を見出し得るのである.

 

 

長歌

楽しい万葉集より

たのしい万葉集(0892): 風雑り雨降る夜の雨雑り雪降る夜は

第五巻:0892

山上憶良

風雑(まじ)り雨降る夜の雨雑(まじ)り雪降る夜は、すべもなく、寒くしあれば

堅塩(かたしほ)をとりつづしろひ、

糟湯酒(かすゆざけ)うちすすろひて、

しはぶかひ、鼻びしびしに、しかとあらぬ、ひげ掻(か)き撫でて、

我れをおきて人はあらじと誇ろへど、

寒くしあれば麻衾(あさぶすま)引き被り、

布肩衣(ぬのかたぎぬ)ありのことごと着襲(きそ)へども、寒き夜すらを、

我れよりも貧しき人の父母は、飢ゑ凍ゆらむ、

妻子どもは乞ふ乞ふ泣くらむ、

この時はいかにしつつか、汝が世は渡る

 

天地は広しといへど、我がためは狭くやなりぬる、

日月は明しといへど、我がためは照りやたまはぬ、

人皆か我のみやしかる、わくらばに人とはあるを、

人並に我れも作るを、

綿もなき、布肩衣(ぬのかたぎぬ)の海松(みる)のごと、

わわけさがれる、かかふのみ肩にうち掛け

伏廬(ふせいほ)の曲廬(まげいほ)の内に、

直土(ひたつち)に藁(わら)解き敷きて、

父母は枕の方に、妻子どもは足の方に、囲み居て憂へさまよひ

かまどには火気吹き立てず、甑(こしき)には蜘蛛の巣かきて、

飯炊くことも忘れて

ぬえ鳥の、のどよひ居るに、

いとのきて、短き物を端切ると、いへるがごとく、しもと取る、

里長(さとおさ)が声は寝屋処(ねやど)まで、来立ち呼ばひぬ

かくばかり、すべなきものか、世間の道

 

⇒意味

風交じりの雨が降る夜の、雨交じりの雪が降る夜は、どうしようもなく寒いので、

塩をかじりながら糟湯酒(かすゆざけ)をすすって、

咳をしながら、鼻をぐずぐずさせて、少しばかりのヒゲをなでて、

私以上の能の有る人はいないだろうと、うぬぼれてはいても、

寒くて仕方ないので、麻衾(あさぶすま)をひっかぶり、

あるだけの衣を着重ねしても寒い夜を

私よりも貧しい人の父母は、お腹を空かせて凍えているだろうに、

妻や子供たちは泣いているだろうに。

こういう時は、あなたはどんな風に暮らしているのですか。

 

天地は広いというけれど、自分には狭いものだ、

陽や月は明るいというけれど、自分を照らしてはくれないものだ、

みんなそうなんだろうか、自分だけがこのようなのだろうか、

人並みには私も汗水流しているのに、綿も入っていないし、海藻のようにぼろぼろになった衣を肩に引っかけて

壊れかかって曲った家の中に、地べたにわらをひいて

父と母は枕の方に、妻や子どもは足の方に、取り囲むようにして嘆き悲しむ

かまどには火が入ることはなく、蒸し器にはクモの巣が張って、もうご飯を炊くことも忘れてしまった

ぬえ鳥の様にうめき声をあげていると、これ以上短くはならない物のはしっこを切るとでも言うように、

鞭を持った里長(さとおさ)が、寝床にまでやってきてわめき散らす、

こんなにもどうしようもないものなのか、世の中というものは