誰にも好まれる花,水仙.庭がある方なら必ず一株二株は植えているのでは?
我が家で玄関横に置いてある鉢植えは,来る人来る人必ず何か一言コメントしてくれています.「もう咲いているの?」「私の所のものは花をつけない」「香りがあるものが好き」----
我が家で,今,咲いているのは,ニホンスイセンと呼ばれている寒咲きの品種と,最近多く出回るようになったペーパーホワイト.後者は原種に近い品種と言われています.
スイセンはこのブログでも何回も取り上げてきました.以下,多くは繰り返しになりますが,日本語と英語の「スイセン」について,改めてまとめてみます.
日本語の「水仙」
ニホンスイセンは,どのサイトでも「古くからある」と形容されるのが常ですが,一体いつ頃から日本にあるのでしょうか?
はっきりしたことは分かっていないようですが,万葉集には記載が無いことは確か.平安末期と考えられています.
湯浅浩史氏によれば
https://kotobank.jp/word/スイセン-1550863
「日本でのもっとも古い記録は九条良経(くじょうよしつね⇒*)が描いた色紙で、『万葉集』をはじめ平安時代の文学や漢和辞書にスイセンは登場せず、平安末期に渡来したとみられる。文献では室町時代の漢和辞書『下学集(かがくしゅう)』(1444)に、漢名水仙華、和名雪中華と出るのが最初である。」(ニッポニカ)
⇒*九条良経は1169生〜1206没で,百人一首にも取り上げられている歌人.
きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣片敷きひとりかも寝む
和名は雪中華とありますが,こちらはいつの間にか使われなくなったのか,日本でも「水仙」と呼ばれてきたようです.
ただ,上記の下学集の記述はかなりいい加減で,雪中華も中国名というのが正解かもしれません.和歌歳時記(鳥居正博)には,水仙の漢名として「雪中花,女史花,姚女(ようじょ)花,凌波仙(りょうはせん),凌波仙子」が挙げられています.
水の仙ということから,水仙は「ギリシア神話に影響を受けたと思われる中国名」(湯浅浩史)とされています.
「仙」は,“せんにん.やまびと.俗界をはなれて山にはいり,不老不死の術を修めたと言われる人”(新字源 角川).
ギリシャ神話で最もよく知られている話の一つ「エコーとナルキッソスの物語」が中国にも伝わって人びとの関心を引いて「水仙華」と呼ばれ,「水仙」として日本でも定着した.
花の美しさと物語の巧みさが「水仙」という名前に結実しているということでしょうか.
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/11/20/235546
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/11/21/234542
英語の「水仙」
Narcissusは水仙の学名にもなっていて,英語でも水仙を表す言葉になっています.
もともとはギリシャ語nárkissos.
湯浅浩史氏によれば
https://kotobank.jp/word/スイセン-1550863
ギリシア神話では,スイセンは,水に映る自分の姿に恋い焦がれ,水中に身を投げたナルキッソス(ナルシス)の化身.ナルキッソスは麻酔とか昏睡(こんすい)を意味するギリシア語のナルケnarkeが語源とみられ,スイセンに含まれるアルカロイドのナルシチンが麻酔状態を引き起こすのにちなむ.スイセンは古代のペルシアではナルケ由来のナルギとよばれた.
narcissus
(ランダムハウス英語辞典)
【1】スイセン(水仙):アマリリス科スイセン属 Narcissus の球根植物の総称;黄または白色の花をつける.
【2】1の花.
【3】⦅N-⦆〘ギリシア神話〙ナルキッソス:泉に映った自分の姿に恋し,満たされない望みにやつれ果ててスイセンに化した若者.
【4】⦅N-⦆美しくてうぬぼれの強い青年.
▶花言葉 egotism(自己中心).
[1548.<ラテン語<ギリシャ語 nárkissos(麻酔作用があるため nárkē「麻痺(まひ)」と結びついた植物名).→NARCOTIC]
ただ,英語で水仙といえば,まず思い浮かべる単語はdaffodil.英語の習い始めに出てくるように思います.
しかし,daffodilの第一義は「スイセン」ではなく,「ラッパズイセン」で,第二義が「⦅もと⦆スイセン:スイセン属の植物の総称」
daffodil
(ランダムハウス英語辞典)
■n.
【1】ラッパズイセン:ヒガンバナ科の球根植物;春に垂れ下がった黄色い花が咲く;ウェールズの国花・国章.
▶花言葉 regard(敬意), unrequited love(報われない愛).
【3】鮮黄色,カナリア色(canary).
【4】⦅米俗⦆女性的な男.
■adj. 鮮黄色の.
[1538.中期英語 affodile の異形だが説明不能<俗ラテン語 *affodillus(asphodelus の異形); asphodelus<ギリシャ語 asphódelos(ギリシア神話の)アスポデロス(ASPHODEL)]
有名なワーズワースの詩「水仙」.中身も知らずに題名だけを見てニホンスイセンを思い浮かべてしまうのは,かなり見当違いという事になります.
A host of golden daffodils(黄金色に輝く水仙の群生)と詠われているのですから.
http://marieantoinette.himegimi.jp/book-daffodils.htm