アプロディーテーは性愛を司る女神であると同時に,恋多き女神でもありました.
the Theoi projectのサイトでは,神々との恋としてヘーパイストス,アレースを含めて7名,人間との恋として,アンキーセース,アドニス等5名の名前が挙げられています.
APHRODITE MYTHS 6 LOVES - Greek Mythology
今日から,転身物語に記された,アプロディーテーとアドニスの物語の抜粋を掲載します.オウィディウスは,先に取り上げた「没薬(もつやく)になったミュラ(ミルラ)」
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/06/22/235752
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/06/23/235718
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/06/24/235551
に引き続き,伶人オルペウスにこの物語を歌わせています.
この物語では,アドニスはアネモネに変身しますが,このことは既に本ブログでも何回か取り上げました.
https://www.metmuseum.org/ja/art/collection/search/437826
オウィディウス 転身物語
田中秀央・前田敬作訳 人文書院
ダイジェスト1
「さて,罪の子は,木(没薬の木)のなかで育っていった.そして,自分のやどっている腹をやぶって出ていく口をさがしていた.母親の重たい腹は,幹のなかでふくれ,胎児の重さではちきれそうになった.
しかし,その苦しみを口に出すことは,もはやできなかった.分娩にあたっても,ルキナ女神に助けをもとめる声も出なかった.それでも木が一生けんめいになっている様子はわかった.木は,みをくねらせ,いくどとなく呻き声を発し,とめどもなく涙をながした.
慈悲ぶかいルキナは,苦しんでいる木に近づき,その枝に手をふれ,産婦の苦しみをのぞいてやる呪文をとなえた.
すると,たちまち木がさけて,そのさけ目から生きた赤ん坊が,いさましい産声をあげてとびだした.ナイスたち(森のニュムペ)は,この男の子をやわらかい草の上にねかせ,かぐわしい母の涙(没薬)をふりかけた.この子の美しさは,かのリウォル(嫉妬の女神)でさえもほめたたえざるをえないほどであった.
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こうして,光陰は,矢のようにすぎていった.
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いまや彼の美しさは,以前にもまして輝かしかった.
ついにウェヌスにさえ見そめられるようになって,女神がかれの母にふきこんだ情炎の仕返しをしたのであった.
というのは,ある日,かの箙(えびら 矢を入れる道具)をもった童神が母のウェヌスに接吻したさい,知らぬまに突き出ていた矢の先で母の胸を傷つけたのである.
女神はおどろいて,手でわが子をおしのけた.しかし,傷は外見よりも深くて,初めのうちは女神もそのことに気づかなかった.
こうして,女神は,若者の美しさにまよい,
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天上に昇ることさえわすれてしまった.天上にもまして,この若者アドニスを愛したからである.片時もかれからはなれず,かれの行くところなら,どこへでもついていった.
https://ja.wikipedia.org/wiki/ファイル:Peter_Paul_Rubens_-_Venus_and_Adonis.jpg