古代の「ウリ」は,マクワウリのことでした.
古事記では,ヤマトタケルの猛々しく荒々しい心が生んだ凄惨な殺害の様子が,「まるで良く熟れたウリを切り刻むがごとく」と表されています.
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その言葉を申し終えたかとみるとすぐ,ヲウス(ヤマトタケル)は,まるで良く熟れたウリを切り刻むがごとく,クマソタケルの体をずたずたに切り刻んで殺してしもうたのじゃった.
(“三浦祐介訳・注釈 口語訳古事記” 其の三 ヤマトタケルの戦いと—天翔ける英雄)
一方,同時代の万葉集では,山上憶良の「子等を思ふ歌」にウリが詠み込まれています.
斎藤茂吉はこの歌を「憶良の歌として第一等級である.簡潔で,あくまで実事を歌い,恐らく歌全体が,憶良の正体と合致したものだろう」と絶賛(斎藤茂吉 万葉秀歌).
瓜食(うりは)めば, 子ども思ほゆ,栗食めば,まして偲(しぬ)はゆ,いづくより,来り(きた)しものぞ,目交(まなかひ)に,もとなかかりて,安寐(やすい)し 寝(な)さぬ 山上憶良 (万葉集 第5巻-802)
甜瓜(テンカ/マクワウリ)を食ふと,子どもが思い出される.栗を食ふと尚更思ひ出される.さうした風に,何につけても,思ひ出される子どもといふ者は,いったいどういふ処から(ところから)どうしてやって来たものであるか知らぬが,目の間に,心もとないばかりに,始終ちらついていて,安眠をばさせないことだ. (折口信夫 口語万葉集)
山上憶良の歌からは,この時代のウリ=マクワウリは,栗と同等の貴重な果物であったことがわかりますね.
マクワウリとシロウリ,さらにはメロンも同一の種.
なかなか信じがたい!
成熟しても甘くならないシロウリは野菜(果菜)扱いで,漬け物などに.
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成熟すると糖ができて甘くなって果物扱いのマクワウリ
とメロン.
この三者の分化と日本への伝播については,日本大百科全書に記載があります.
▽マクワウリ・シロウリ・メロンの発祥の地はアフリカのニジェール川沿いのギニア.
▽インドに渡ってマクワウリとシロウリに分化したと推定されています.
マクワウリは,紀元前から,中国中央部および東部に渡って多くの品種が生まれ,さらには朝鮮半島、日本などへ.
シロウリはインドから一旦東南アジアに伝播し、6~7世紀に中国から日本へ.
中国ではマクワウリは甜瓜,シロウリは越瓜と表され,日本でもこの漢字をあてています.
(なお,マクワウリには「真桑瓜」の漢字も用いられますが,これは美濃国真桑村(岐阜県本巣市)産が有名であったところからの名といいます.デジタル大辞泉)
▽メロンは,発祥の地ギニアから古代エジプトに渡って発達.14~16世紀には,ヨーロッパで栽培が盛んになり、カンタループ、フユメロン、アミメロンが成立.
アミメロンはイギリスで温室メロンとして,さらに,16世紀にアメリカに入り、露地メロンとして発達.