「植物をたどって古事記を読む」シリーズ
「うり」(瓜)1
“三浦祐介訳・注釈 口語訳古事記” 其の三 ヤマトタケルの戦いと—天翔ける英雄
その言葉を申し終えたかとみるとすぐ,ヲウス(ヤマトタケル)は,まるで良く熟れたウリを切り刻むがごとく,クマソタケルの体をずたずたに切り刻んで殺してしもうたのじゃった.
大君オホタラシヒコ(第12代景行天皇)のクマソタケル追討の命を受けたヲウス(ヤマトタケル)は,クマソタケル兄弟の催す宴に女装して紛れ込みます.
兄を殺した後,逃げ出した弟は,尻から剣を刺し通されながら「われらに代わりて,ヤマトタケルの御子と名乗られよ」と伝えます.
上記の引用文は,その後のヲウスの行動の描写.
ヤマトタケルの猛々しく荒々しい心が生んだ凄惨な殺害の様子が,「まるで良く熟れたウリを切り刻むがごとく」と表されています.
大君オホタラシヒコのクマソタケル追討の命も,ヤマトタケルを畏れ,体よく追い出したというのが,三浦祐介氏の解釈.
古代のウリ(瓜)はマクワウリ
精選版 日本国語大辞典の解説では
瓜(読み)ウリ
① ウリ科のつる性草本,またはその果実の総称.キュウリ,スイカ,トウガン,カボチャ,カラスウリ,ニガウリなど.古くは特にマクワウリをいった.ふり.《季・夏》
※万葉(8C後)五・八〇二「宇利(ウリ)食(は)めば 子供思ほゆ 栗食めば まして偲(しぬ)はゆ」
「古くは特にマクワウリをいった」とあり,古事記の時代のウリは,マクワウリということになりますね.
実際,同じコトバンクにある日本大百科全書の文化史の項では次のように記載されています.
アフリカやインドが原産とされるウリは,古代エジプトの寺院の壁画に供物として描かれ,紀元前10世紀以前から食用にされていた.
中国には漢以前に伝わり,『詩経』や『礼記(らいき)』に瓜の名がみえる.
長沙馬王堆(ちょうさまおうたい)の漢墓の女性のミイラ(前175~前143年埋葬)の腹からは,種子が発見されている.
日本には紀元前に渡来し,弥生(やよい)時代前期の遺跡からやはり種子が出土している.
ウリの種類は多いが,『古事記』や『日本書紀』『万葉集』に出るのはマクワウリである.
[湯浅浩史 2020年2月17日]
マクワウリが,近所の青果売り場から姿を消して久しいように思います.最後に見かけたのがいつだったか,思い出すこともできません.
近年の味覚感覚からすれば,甘いとは決して言えない果実.しかし,弥生時代からつい最近に至るまで日本人に愛されてきた果実であることは間違いありません.
青果売り場でマクワウリに取って代わって現在並んでいるのがメロンですが----
マクワウリもメロンの一変種;
スミレ目 Violales,ウリ科 Cucurbitaceae,キュウリ属 Cucumis,
メロン C. melo,
変種:マクワウリ var. makuwa