ナーイアス4
ミント(ミンタ)/メンター/メンテー Mint (Mintha)2
ハーデーズによって掠奪され連れてこられたペルセポネー.嫉妬からこの新たな冥界の女王をさげすみ,ハッカ(ミント)に変身させられたナーイアス,ミント.
その記述は,オウィディウス転身物語にもあります.
ただし,メインの物語としてではなく,ウェヌス(アプロディーテー)の台詞中に1行だけ.
しかし,その台詞は,恋人アドニスが死に瀕し,かれをアネモネに変身させる有名な場面で語られたものです.
ウェヌスは,冥界の女王ペルセポネーに対し,「あなたも死んだものを薄荷(はっか)として蘇らせましたよね」と言い,自らの行いを正当化します.
(ウェヌスは)空からすでに意識をうしなって血の中をころげまわっているアドニスを見つけると,いそいで地上に降り立ち,胸をはだけ,髪をむしり,はげしくわれとわが胸を打った.
「しかし,なにもかもおまえたち(復讐の三女神フリアエ)の言いなりにはさせないぞ.
おお,アドニス,わたしの悲しみの記念がいつまでも残るようにしましょう.あなたの死が年ごとにくりかえされた,そのたびにわたしの悲しみも人びとが真似るようにしましょう(アドニス祭:アドニスとウェヌスの像を持ち出して,アドニスの死とウェヌスの悲しみ,アドニスの蘇生を象徴する神事を行う).
しかし,あなたの血は,やがて一つの花となるでしょう.
ペルセポネよ,そなただってある女を香りたかい薄荷(はっか)に変えることをゆるされたというが,このわたしがキニュラスの若い息子(アドニスのこと)にあたらしい姿をあたえたとて,どうして嫉まれることがあるだろう」
こういうと,女神は,若者の血の上に豊穣な神酒(ネクタル)をそそぎかけた.血は神酒にふれると,ちょうど褐色の泥沼の底から透明な気泡が立ちのぼってくるように,ふくらんだ.
やがて一時間もたたないうちに,その血から同じ色の花が咲きでた.それは,かたい外皮の下に種子(たね)を隠している石榴(ざくろ)の花に似ている.
しかし,この花を長いあいだ愛でることはできない.というのは,この花はくっつき方がよわくて,あまりにも華奢なので落ちやすく,その名前のもとになった風(アネモネは風を意味する「アネモス」から来ている)に散らされてしまうからである.
なお,この一文が載っているのは,転身物語 巻10の九 「アタランタ アドニスの転身」.
巻10は,一「伶人オルペウスとエウリュディケ」で始まります.
二「キュパリッススの悲しみ」は,冥界からエウリュディケを連れて帰ることができなかったオルペウスのまわりに集まってきた樹々の中の糸杉の物語.
そして,三「美少年ガニュメス」以降は,伶人オルペウスが,集まってきた樹々に向かって歌い継いだ物語で構成され,九「アタランタ アドニスの転身」で巻10が終わります.
巻10はいずれもよく知られた物語で構成され,その全てにオルペウスが関わっています.