コブシの別名としてよく知られているのが「田打ち桜」.コブシの開花を農作業の準備の目安に使ったことに由来します.また,コブシの漢字「辛夷」を「シンイ」と読むと,生薬の名前になります.そして,“辛夷はコブシではない.” のぼりつゝ 高湯の村に うら美(ぐは)し—辛夷の梢 輝くを見つ  釈 迢空

鎌倉英勝寺で,一昨日みかけたコブシ.

(名札にコブシとあったので,コブシとして扱いましたが,後日調べたところ,おそらくシデコブシ

英勝寺の3月の花々. 昨日,快晴で暖かな日和の中(今日はみぞれ!),鎌倉英勝寺の花々に会ってきました.フキノトウとヒマラヤユキノシタがお出迎え.梅や椿が終わった後の境内には,モミジの新芽が映えていました.今盛りの花は,ユキノシタ,ミツマタ,そして春を知らせる花としてよく知られるコブシ.英勝寺からの帰路,何本かのハクモクレンにも出会いました.. - yachikusakusaki's blog

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ピンクが強い花とほぼ白い花の2種.

コブシといえば白い花のイメージですが,花色が異なる園芸種も開発されているのか?ネット上では調べきれませんでした.

 

英勝寺のものはまだ若い樹で,背丈もそれほど大きくありませんでしたが,大木になることが知られています.

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四十九院のこぶし 白馬 - Google 検索

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里山のコブシ - Google 検索

「近縁のタムシバと混同され,北海道と関東以外では,コブシとよばれているのはタムシバの場合が多い」(ニッポニカ) コブシとは - コトバンク

とのこと.

見分け方は

「高木になり山麓や沢筋に多く見られ,がく片の長さが花弁の約5分の1で,花のすぐ下に1枚の緑色の葉があるのがコブシで,一方亜高木で山麓や尾根筋に多く、花弁は6枚,がく片の長さが花弁の約2分の1から3分の1で,花の下に葉のないのがタムシバです」生薬の玉手箱 【辛夷(シンイ)】 - 株式会社ウチダ和漢薬

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タムシバ - Wikipedia コブシ(辛夷) - 庭木図鑑 植木ペディア

 

また,ハクモクレンとも似ていますが---

「コブシは花の下に小さい葉がついているので.モクレンと区別できる」コブシ(辛夷) - 庭木図鑑 植木ペディア

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ハクモクレン(白木蓮) - 庭木図鑑 植木ペディア

花の下の一枚の葉がコブシの特徴!

 

コブシと農業

コブシの別名としてよく知られているのが「田打ち桜」.

 

「コブシには「田打ち桜」「種まき桜」「芋植え花」などの別名がある.これらはコブシの開花を農作業の準備の目安に使ったことに由来し,これに類する様々な地方名がある.また、コブシがたくさん咲いた年は豊作になるなど,豊凶の占いにも用いた」 コブシ(辛夷) - 庭木図鑑 植木ペディア

 

ただし,大辞林によれば,

「田打ち桜  田打ちの頃に花の咲く木.秋田県ではこぶし,岩手県では糸桜など,地方によって異なる」田打ち桜(たうちざくら)とは - コトバンク

とも.

 

 

コブシの漢字「辛夷」を「シンイ」と読むと,生薬の名前になります.

辛夷は蕾を乾燥したもの.

しかし,原料はコブシだけではなく,

モクレン(Magnoliaceae)タムシバ Magnolia salicifolia Maximowicz、コブシMagnolia kobus De Candolle、 Magnolia biondii Pampanini、 Magnolia sprengeri Pampanini 又はハクモクレンMagnolia denudata Desrousseauxのつぼみ」が生薬“辛夷https://www.kampo-view.com/jiten/syouyaku/syouyaku-sa/s-sa019.html

コブシからつくった生薬は和辛夷と呼ぶこともあるようです.

 

薬効の記載は次の通り.

「鼻カタル、蓄膿症、頭痛に用います」( コブシ,こぶし,辛夷,辛夷(しんい),Magnolia kobus,モクレン科モクレン属 )

「鎮静、鎮痛、抗炎症作用を有します」( コブシ:武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園 )

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主な配合漢方薬は,葛根湯加川芎辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ) 、辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)

https://www.kampo-view.com/jiten/syouyaku/syouyaku-sa/s-sa019.html

薬効成分は,アルカロイド(コクラウリン),精油(シトラール、シネオール、オイゲノール)とされています.コブシ:武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園  https://www.kampo-view.com/jiten/syouyaku/syouyaku-sa/s-sa019.html

 

辛夷はコブシではない.

辛夷」は正しくはモクレンの漢名.

 
植物「こぶし(辛夷)」の慣用漢名.〔色葉字類抄(1177‐81)〕
[補注]正しくはモクレンの漢名.

 

しかし,日本で辛夷と書けば,コブシ.

 

わが国では,『大和本草』の中で「辛夷」にコブシがあてられ,以後ずっと代用されてきました生薬の玉手箱 【辛夷(シンイ)】 - 株式会社ウチダ和漢薬

 

植物の漢字にたくさん見られる現象の一つと言えますね.

辛夷はこぶしではない」

yachikusakusaki.hatenablog.com

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更に加えると,

 

漢名で「辛夷」と書かれる植物は,生薬の名前から類推して,日本で「モクレン」と呼ばれている種のみではないかもしれません.

 

漢薬「辛夷」の原植物は、本草書の記載内容から、原植物は時代によって多少異なったようですが,古来 Magnolia 属植物であったことは間違いなさそうです.花色に関しては紫花と白花の二種があり、宋代以前は紫白色の花をつける味の辛いものを「辛夷」としていました.   生薬の玉手箱 【辛夷(シンイ)】 - 株式会社ウチダ和漢薬

 

 

のぼりつゝ 高湯の村に うら美(ぐは)し—辛夷の梢 輝くを見つ  釈 迢空

 

 

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