食材探検 おかわり!にっぽん「雪下にんじん」(2)
そして,フレンチの藤木徳彦シェフ(長野県茅野市蓼科オーベルジュエスポワールオーナーシェフ http://www.auberge-espoir.com/ ).
畑ではブランド人参「ふかうら雪人参」を試食しました.
「甘い.お菓子食べてるみたい」
「ニンジン臭くないけど,味はあって,甘みもあって,このまま食べても飽きない味」.
そして,地元の郷土料理「にんじんの子和え」には---
「おいしい」
「ニンジンとタラコを合わせるっていうのが,発想になくて---.おいしい.これビックリです」.
雪下にんじん(1) - yachikusakusaki's blog
畑で美味しかった雪下ニンジン.
「もっと美味しさを倍増させようかと.アツアツのホクホク系に」と藤木シェフ.
出来上がったのは「ニンジンの蒸し焼き」を使った「雪下ニンジンのグラタン仕立て」
【雪下にんじんのグラタン仕立て】
《ニンジンの蒸し焼き》
まずは,ぬらしたキッチンペーパーでにんじんをくるみ,その上から更にアルミホイルでくるみます.
200℃のオーブンで,1時間ほど蒸し焼きに.
「イメージは焼き芋」
焼き上がりの目安は,金串がスッと入るくらい.
◎ポイント
ホクホクに焼き上がったニンジンは,このままでも美味しそう.そのままアイスクリームや生クリームを添えれば,デザートのなります.
「焼くことで,ニンジンの水分がとんで,うま味が凝縮します.甘みも増して,ものすごく甘くなります」
《蒸し焼きニンジンとマダラのムース》
マダラを小さく切ってフードプロセッサーで,ペースト状に.ここに生クリーム,卵,塩,こしょうを入れ,隠し味にみそを加えます.
しっかり混ざったらボウルに移し,切った蒸し焼きニンジンを加え,マダラとニンジンのムースを作ります.
《蒸し焼きニンジン入りグラタンソース》
まずはバターとニンニクを弱火にかけます.ニンニクの香りが立ってきたら,牛乳を加え,一煮立ちさせ,すぐに氷水で冷まします.
焼きニンジンをミキサーに入れ,
冷ましたソースとビーフコンソメ,ナツメグ,塩を加え----,
そして卵黄を加えます.
卵黄はグラタンだとかクリーム系のソースの仕上げに入れることがよくあるとのこと=フランス語で「リエ(Lier)する=結びつける」.
味に深見を出し,いろいろな材料をつなぐことができる.
⇒ミキサーにかけると,鮮やかなオレンジ色のソースが出来上がります.
◎ポイント
ここではソースと混ぜてからミキサーにかけましたが,ニンジンをそのままミキサーにかけたニンジンピューレは,その鮮やかなオレンジ色を料理に活かすことができます.パスタなどとからめれば食卓を華やかにしてくれます.
《仕上げ》
ホウレンソウとたらこ(ここでは多分“マダラコ”を使用していました)を焦がしバターで炒め,グラタン皿に引き詰めます.
蒸し焼きニンジンとマダラのムースを載せ,蒸し焼きニンジン入りグラタンソースをたっぷりかける.
230℃のオーブンでおよそ10分焼いて,出来上がり.
試食会の感想
「なんぼでもいける」「ニンジンすごく甘いです」「生で食べる倍以上」
「ニンジン独特の臭みがなくて美味しい」
「お魚とニンジンがマッチして」「白身の魚だからいいんじゃないの」
「魚もニンジンみたいな感じで食べられる」「まだらは柔らかくってすーっと入っていって,ニンジンはかみ応えがあって,そのバランスがすごい」
「鍋だとニンジンがちょっと入るぐらいなんですけど,これだとお魚とニンジンが両方一緒に食べられて,ニンジン様々です」
「塩けがないのにご飯のおかずになる」
▽なぜ,雪下ニンジンは甘くなるか?
雪下ニンジンや雪室ニンジンの広報サイトには,「糖度が増す」と書かれているのが一般的です.例えば,
「雪下野菜は,雪中野菜,越冬野菜などの呼び方もあり,雪の下で越冬させた野菜たちのこといいます.秋に収穫するニンジン,ダイコン,キャベツなどの野菜を収穫せず,そのまま雪の中に寝かせることで春先まで野菜を保存しておけるのです.
また,雪の多い地域では,古くからの生活の知恵として,冬場の野菜づくりがままならないため,秋のうちに収穫した野菜を雪の中に埋めて保存する雪室野菜で,冬の野菜不足を補ってきました.
雪の中は温度がおよそ0°C程で一定で凍らず,野菜は,冷たさから命を守るため,糖度が高くなり,旨みが増していきます.( http://www.city.joetsu.niigata.jp/uploaded/attachment/125970.pdf )
宣伝している雪下野菜は,誰が食べても甘く感じるのは確かなようです.
しかし,“寒締めホウレンソウ”とちがって,
「寒締め」ホウレンソウって? 糖度とビタミンCが上がって美味しくなるそうです. - yachikusakusaki's blog
実際には,「糖度が増すため」に甘くなるのではないようです.
雪室野菜はなぜおいしい?
一般的には,雪の中で冷やされると糖度が増しておいしくなると言われています.
でも,どうやらそうではないらしいのです.
高冷地農業技術センターでは,いくつかの野菜で秋の収穫時と雪の中で貯蔵したデータをとったけれども,すべての野菜で糖度が増すという明らかなデータは得られなかったそう.糖度はそのまま保たれるけれども,増すわけではない.
変ですよね.雪下ニンジンは,まるで果物のように甘いのに.なんででしょう?
それは,甘み以外の雑味に秘密がありました.
ニンジンに関していうと,独特の青臭さや香りがありますが,雪の中で貯蔵することで,こうした雑味が少なくなる.雑味が少なくなることで,ニンジン本来の甘みが引き立つ.これが,雪下ニンジンのスッキリとした甘さ,おいしさの秘密だったんですね.
▽なぜ,蒸し焼きニンジンは甘くなるのか?
焼き芋の場合は,ゆっくり温度を上げることで,デンプンから麦芽糖ができることが分かっており,蒸し焼きニンジンの場合もこのメカニズムも働いている可能性があります.「サツマイモとかけて,『ピュアな恋愛』と解きます」 「その心は,『ゆっくり温めた方が,甘〜くなりますよ』」 yachikusakusaki's blog
しかし,ニンジンはデンプン量がサツマイモよりずっと少なく,他のメカニズムが主ではないかと思わせる記事が2つありました.
1. “ニンジンでは,苦味にも関与する“テルペン”という揮発性物質の量が少ないほど,甘く感じる.”(J. Food Sci. Vol. 60, 145-148, 2001)
http://www.yasaitobunka.or.jp/oishisa/report/pdf/005.pdf
熱することで揮発性テルペンはなくなってしまうでしょう.このメカニズムは,確実に働いていますね.もしかすると雪下ニンジンの甘さにも関与している可能性が十分あります.
2.「蒸し焼きニンジン」ではありませんが,「蒸し加工したニンジン」に関しては,その甘さがなぜ増すのかについて,別の研究論文がありました.
結論を簡単にまとめると,
“ニンジンは,蒸すことにより甘く感じるようになりますが,糖の量は増えていません.ニンジンを蒸した時に甘く感じるのは,口の中にしみ出てくる糖を含んだエキス量が増加し,感覚的な甘さやジューシーさが増えてくるためと考えられます.”(日本調理科学会誌 Vol. 42,No. 3,194~197, 2009)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/42/3/42_194/_pdf
ニンジンを甘く感じるのは,単に糖分が多いためではないことは確かでしょう.蒸し焼きニンジンの甘さには,上記のような様々な要素が重なっているためと思われます.