「サツマイモの甘さを引き出すのは『低温でじっくり』が秘訣.
“チンいも” 電子レンジ(解凍モード)で約20分
“天ぷら” 分厚く切って,100℃の油で40分
が目安ですよ」
「“だご汁”のだんご(サツマイモ団子)は,揚げたらおやつに.白玉の代わりにぜんざいに入れてもおいしく頂けますよ」
※“だご汁”のだんご:
さつまいもをふかして麺棒で潰し、さつまいものでんぷん粉(かたくり粉でもOK)を加えて混ぜ、耳たぶぐらいの柔らかさになったら、ひとくち大に丸めて平らにしたもの
※http://www.nhk.or.jp/program/okawari/archives/20161102.pdf :番組で紹介されたレシピ全てを見ることができます
では「サツマイモとかけて,『ピュアな恋愛』と解きます」
⇒「その心は,『ゆっくり温めた方が,甘〜くなりますよ』
NHKBSプレミアム 食材探検 おかわり!にっぽん選「さつまいも~鹿児島・志布志市~」
番組最後の “おかわりポイント” 平泉成さんの言葉.
今回の放映は,この言葉でほぼ言い尽くされている内容でした.もちろん,料理人の技,伝統食の知恵がなくては,本当に美味しい料理は頂けませんが---
今日は,この番組を手がかりに,
サツマイモの保存,“チンいも”とβアミラーゼ,を中心に---
サツマイモの保存
生産者の保存法
鹿児島県サツマイモ農家上迫さんを訪ねた田中理恵さん.シラス(白砂)台地のサツマイモ畑で芋掘り.
収穫したサツマイモを生でかじってみても全く甘くない.奥が見えないほどのサツマイモ貯蔵庫に案内されて---
「保管することによって,まろやかさ,奥深い美味しさを出すんで,大体60日保存して出荷に入ります」とのこと.
貯蔵庫は “気温13℃,湿度80%" 2ヶ月の熟成でデンプンをしょ糖に変えるそうです.
他の農家の方は「暗闇・13〜15℃・湿度90%* 」で「6ヶ月までは保存可能」とのこと.
家庭での保存(生産者からのアドバイスから)
「熟成」は生産者の方々にお任せするとしても,家庭でサツマイモの保存も,基本条件は同じと考えれば良いようです.(ただ,買いもとめたものが「熟成」前か「熟成」後かは知って起きた方がよさそう.産地直送の場合は特に)
生産者からのアドバイス1
さつまいもの保存方法 - 鹿児島さつまいも農家・桜山ファーム
涼しい保管場所であれば、大体1ヶ月位は持ちます。(常温で13~15度が理想です)
台所の隅や流しのあたりに段ボールに入れて置いておけば大丈夫です。少し寒い地域では新聞紙にくるんで発砲スチロールの容器等に入れておく方が良いでしょう。
ただし、密閉すると多湿になり発根や腐敗の原因になりますので注意が必要です。(網やかごに入れて通気性を良くしたほうがなお良いです)
生産者からのアドバイス2
貯蔵温度は13~15℃、湿度は80~90%* が適当とされています。冷蔵庫には入れないで下さい。家の中でダンボールに入れて置いておけば大丈夫ですが、寒いようでしたら毛布等を掛けたり、1本づつ新聞紙で包むのも効果的です。(**品種により貯蔵性に違いがありますのでお気お付け下さい)特に寒い地域では温度管理に十分ご注意下さい。
さつまいもは、掘ってからすぐに食べるととてもホクホクするのですが、少し甘味が少ないような感じがします。そのような時には1~2週間程度置いてから食べると甘味が増してきます。しかし、あまり長期間放置しておくと糖化したさつまいもはとても甘くなりますが、少し水分が多くネットリとした食感になりますので、粉質でホクホクした感じを好まれる場合はあまり置かない方が良いです。
* 乾燥すると先端がしなびて病原菌が侵入しやすくなるため,湿度を高く保つそうです.でも家庭ではせいぜい新聞紙に包む程度しかできませんね.
** 関東地方に広く出回っているベニアズマは鳴門金時などの“高計4号”と呼ばれる品種よりやや貯蔵性が悪いようで,貯蔵適温も異なるとか.
https://www.pref.kagoshima.jp/ag06/sangyo-rodo/nogyo/nosanbutu/satumaimo/ziten/documents/06.pdf:この記事は生産者向けの専門的なアドバイス.
“チンいも”とβ-アミラーゼ
“チンいも”
「 電子レンジでサツマイモをふかすと甘くない」ことはよく知られていますね.でも手間を省きたいのは多くの方の願い.私を含めたそんな方々のために,電子レンジでのサツマイモの調理法がネット上でも沢山見つかるようになりました.
タネを明かせば全て「解凍モード」を使うという技.
番組では,更に「中空に置く」という工夫も.
皿に置くと加熱が均一では無くなる.茶碗の上にのせてムラを減らす技です.そして「解凍モード(500W)」で二十分.
http://www.nhk.or.jp/program/okawari/archives/20161102.pdf
ネット上では「初めに二分ほど普通モードで温めてから」という技も紹介されていました.
電子レンジの普通モードで一気に温めると甘くならない.その理由は「β-アミラーゼが働かないため(マルトース=麦芽糖ができない)」
この事もネット上で沢山解説されています.
やや専門的な解説2つ(主に前者)から,改めて,説明してみることにします.
http://www.jrt.gr.jp/yaki_imoF/sp.pdf
「サツマイモが調理により甘くなる」のは
「 β-アミラーゼによるサツマイモ中のデンプン分解
⇒マルトース麦芽糖の生成」によります.
しかし,デンプンはサツマイモの中ではデンプン粒としてアミラーゼから隔てられているため, 酵素の活性上昇だけではなく,デンプン粒の崩壊も甘さの増加に必要です.
デンプン粒の崩壊(デンプンの糊化)
& β-アミラーゼの活性上昇
⇒マルトースの生成
▽β-アミラーゼは
「デンプンなどのアミロースを分解してマルトース=麦芽糖をつくる酵素」アミラーゼの1つ.
ヒトの消化液中の酵素はα-アミラーゼ.それに対しサツマイモ・大麦・小麦・大豆などが持つ酵素はβ-アミラーゼと呼ばれ,作用する場所が異なります.ビールの醸造では,大麦・麦芽中のβアミラーゼが大活躍します.
▽一気に100℃まで加熱すると,
β-アミラーゼは活性を無くしてしまい,マルトースは増えません.
低温でも,弱いながらも活性はあります.しかし,デンプンの大部分は顆粒の中に閉じ込められていて,甘みの増加はわずか.40℃ほどでも活性は50%程度は見られるようですが,デンプンが顆粒中のままですから、どうしようもありません。
▽「低温での調理による甘みの増加」の条件:温度
・酵素活性を高く保ち,同時に
・デンプン顆粒の崩壊(専門用語では糊化:水溶きかたくり粉でとろみをつける時にその変化を見ていますね)を促す温度に保つ.
の2つ条件を満たして,マルトースの生成を最大限に引き出す.
・実験で確かめた方がおいでになります.http://www.jrt.gr.jp/yaki_imoF/sp.pdf
「60℃ごろからデンプンの糊化が始まるころからマルトースが生成し,75℃にマルトースがピークに達する」
「一方β-アミラーゼは65℃から熱失活が始まり,75℃では約30%が残り,85℃では失活する」
⇒以上の実験結果から温度設定の条件:
「サツマイモの内部温度を75℃に長時間保ち,85℃以上には決して上げないように調理する」
ことが甘みを増すための調理の基本的な条件とになりますね.
▽温度以外の条件“水分含量”
サツマイモの水分含量もマルトース生成量に関係してくるそうです.
水分が65%から55%に低下すると,マルトース生成量が約4倍にもなるというデータが示されていました.
調理前にサツマイモを天日干しにする技を「おかわりニッポン」で紹介していましたが,これはかなり有効なようです.
関連した2つの話題
1. サツマイモはもともと甘い
サツマイモにはしょ糖(いわゆる“お砂糖”)などの甘みの元(単糖)がもともとかなり,品種によって異なりますが4%〜6%含まれています.マルトースが加熱によって上手に増やされると,全ての糖類を合わせた重量は15%程度(2.5〜4倍)にまで増えますが,マルトースは二糖類で甘さがかなり劣るため,元の甘さの1.5倍程度の増加しかありません.
しかし,この変化は人間にとって大きなものと感じるのでしょう.調理前後では何倍も甘くなっていると誰もが思ってしまうので.
2. 1度お目にかかりたい品種「クイックトースト」
クイックトーストという品種が開発されているそうです.まだお目にかかったことがありません.説明は次の通り.カギは「デンプンの糊化温度が低い」こと.
クイックスイート:平成13年に命名,通常の品種よりデンプンが約20℃低い温度で糊状になる.早い段階からβ-アミラーゼが働き,電子レンジによる短時間調理でも甘くなる.食味は「しっとり感」がある.焼きいもに向く.
付録:各種のイモの分類
ウィキペディア(日本語版&英語版)