まんじゅうのルーツ訪ねて春日大社と漢國神社(1)
古都.一歩足を踏み入れれば悠久の歴史と出会えるまち.そこには,人々の祈り,心の支えとしてきたお寺や神社があります.そしてお参りの後に欠かせないのがこちら.おいしい名物です.
さあ,「門前ぐるめぐり」で,おなかも心もみたしましょう.
歴史あるお寺や神社が集まるまち,奈良.門前には人々に愛されてきた名物がいっぱい.その中でも今回は,二つの神社の門前を舞台に,和菓子のルーツを訪ねます.
春日大社に伝わる1300年前のお菓子.
漢國神社(かんごうじんじゃ)の境内にあるのは,日本で唯一の饅頭のお社.
ここに饅頭誕生の物語が.
今回の旅人はMEGUMIさん.
「和菓子は,実はちっちゃい頃すっごく苦手で,十年ぐらい前に頂いた和菓子を食べたときに『こんなにおいしかったんだ』と思って,なんかこの辺で(おなかのあたりをさすって)『ああ,おいしい』みたいな.深いところで,『おいしいな』って思う存在になりましたね」
「MEGUMIです.よろしくお願いします」
今回の案内人は前川佳代さん.
奈良女子大学で菓子文化を研究しています.
NHK Eテレ「趣味どきっ!」で本学が紹介されます奈良女子大(5月16日放送予定)
「奈良に和菓子のルーツがあるというふうに聞いてきたんですけど」
「唐菓子(からがし)っていうお菓子がありまして,それが日本の和菓子のルーツではないかと--」「唐菓子(からがし)?」
「いつ伝わったかというと,遣唐使が奈良にレシピを持ち帰ってきて,今もその唐菓子をつくっているところがある」「えー」
「しかも,1300年ずっと変わらないレシピで,作り続けているところがあるので」「1300年,変わらないで?」
「そうです」「すごーい」
さあ,前川さんの案内で,和菓子のルーツを訪ねる旅のスタートです.
番組はこの様に始まり,
最初に訪れたのは,奈良時代に平城京の守護のため創建された建物・春日大社.
以下http://datazoo.jp/tvまんじゅうのルーツ訪ねて春日大社と漢國神社/
の記載も拝借しながら番組内容に沿いつつ,
適宜,石毛直道「日本の食文化」の記載事項を取り入れ,饅頭のルーツを追います.
唐菓子
春日大社が1300年前のレシピで作り続けている.
「とうがし」「からくだもの」と呼ぶ場合もあるようです.
春日大社の「旬祭(毎月1・11・21日)」では,「神饌(しんせん:かみさまのしょくじ)」を供えます.平安時代から900年もの間,変わらぬ作法で受け継がれてきました.
お盆に盛った神饌は米や餅,旬の野菜や果物など.その中の一つに唐菓子があります.
生活科学研究グループ |奈良県(奈良市) ぶと饅頭/発見!ご当地「油」紀行
作られている場所は境内の「酒殿」(国の重要文化財).中は撮影禁止.
作り方は“米粉を蒸して形をつくりごま油で揚げる”.というもので,8世紀頃,中国から伝来したと考えられています.いろいろな形がありますが,上の写真で示したものは,代表的なものの一つ「ぶと(餢飳)」.
「縄目をキレイにつくるのが難しい」とは,つくっている神職の方の言.
「味はありません」
次にMEGUMIさんがやってきたのが奈良女子大学前川さんの研究室「古代学学術研究センター」
唐菓子を再現.
そして,おもむろに取り出されたのが「甘葛煎 アマズラセン」.
前川さんが「甘葛煎再現プロジェクト」で試行錯誤のなかで,ツタからつくった古代の甘味料.45キロのツタから僅か100ml採れただけとか.
味については,「メープルシロップより甘く,クセのない上品な甘み」と紹介されていました.
NHK Eテレ「趣味どきっ!」で本学が紹介されます奈良女子大(5月16日放送予定)
石毛直道「日本の食文化」によると,日本ではハチミツの生産は18世紀まで行われず,養蜂が盛んになるのは明治になってから.そして,日本への砂糖の輸入が増え,甘いお菓子が食べられるようになるのは16世紀以降とのことで,古代の甘味料はこのアマズラだったようです.
(ただ,「日本の食文化」によると
「甘葛煎 アマズラセン」は「アマズラ(アマチャヅル)」の茎を切り,そこから滴り落ちる甘い樹液を煮詰めてシロップ状にしたもの.とありました.ツタとアマチャヅルは別の植物.アマチャヅルのことをアマヅラとも呼ぶため,起源はアマチャヅルと考えられていたのかもしれません)
そして,枕草子には「あてなるもの(上品でこころひかれるもの)」として,アマヅラをかけた氷の描写が.
枕草子 第三十九段
あてなるもの,
淡色(うすいろ)に,白がさねの汗衫(かざみ).
雁の卵(かりのこ),
削り氷(けづりひ)に甘葛(あまづら)いれて,新しき鋺(かなまり)にいれたる.
水晶(すいさう)の数珠(ずず).
藤の花.
梅の花に雪の降りかかりたる.
いみじううつくしき稚児(ちご)の苺など食ひたる.
鎌倉時代に作られた「厨事類記」には,唐菓子に「アマヅラ」をぬりてたべたという記述が.
「甘葛煎」は,とうてい庶民の口に入るものではありませんが,貴族の間では唐菓子も甘いお菓子として食べられていた可能性が大.
「600年ぐらい前に甘葛煎が廃れてしまった.唐菓子も600年前には神饌になったので,普通に食べることはなくなった.っていうことは」
「唐菓子に甘葛煎を塗って食べるのは600年以上ぶり?」
「そう」
「スゴイことに選ばれている感じがするんですけど!」
「じゃあ,かけますね」
「はいちょっとで,ほんとうに.うわっ.そんなにたくさん---.もう大丈夫ですよ」「のばしますからね」
いよいよ幻の古代スイーツを味わいます.
「このままいった方が良いですね.じゃあ頂きます」
「どうぞ」
「ん〜.おいしいです.染みこみますね.アマヅラ.この米粉の生地に,すごく絡んでるといいますか」
「ああそうなんだ」
「味がしっかり,上だけじゃなくて,中にも入っているって感じが,すごくします」
「そうなんだ」
「たけど,やっぱりいつまでも甘さは,私はいないわよ,そんなに,みたいな,つれない感じもあって,---」
「そういうこともね.やっぱり食べてみないとっていうか.実験って言ったら失礼なんですけど,してみないとわからない事なので」
「すみません.私が先で,先生より」
「とんでもないです」
前川さんも食べてみます.
「こんな味なんですね.食べた人にしか分からない」
「でも他にないですよ」
「うん,こんな味なんだ.何て言ったら良いでしょうか.もう胸がいっぱいで.私」
(以下続く,予定)