ギリシャ神話では,おおぐま座は,ヘーラーによって牝熊に変身させられたカリストーとされていますが,天空では対をなすこぐま座は,幼いゼウスを養育したニンフ(ニムフ,ニュンペー)とするのが一般的.
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ニンフは,ギリシャ神話の様々な場面で登場します.
しかし,ニンフって,何者?
辞典/事典にはどのような書かれているか,調べてみました.
ニンフは妖精?
ニンフと近い言葉に「妖精」があります.
今でこそ,ニンフはギリシャ神話にのみ登場することは理解していますが,ギリシャ神話を読み始めるまでは,私の頭の中で,両者はほぼ同じ意味でした.
ニンフの前に妖精から調べることに.
日本の「妖精」は,もともと妖怪と同じ意味で,化け物のこと(日本国語大辞典).
英語fairyに当たるものを意味するようになるのは後世になってから.日本国語大辞典②にある解説とその使用例(寺田寅彦)からすると,fairyの訳語と考えてもいいのか?と思っていたら---
ブリタニカ国際大百科事典には,「英語のフェアリー fairy,フランス語のフェ féeの訳語」とはっきりと記載.ほかの辞典/事典も,先ずこのように書いてほしかった.
そして,日本大百科全書によれば,「ニンフは妖精に含まれる」と考えていいようです.
実際,“オウィディウス「転身物語」(田中秀央,前田敬作 訳)人文書院”では,「妖精」と書いて「ニュムペ」とふりがなをつけています.私が妖精とニンフを同じように捉えていたのも無理のないように思えてきました.
精選版 日本国語大辞典の解説
よう‐せい エウ‥【妖精】
〘名〙
① 人を惑わすあやしいばけもの。妖怪。〔大唐三蔵取経詩話‐六〕
② 人間の姿をした自然物の精。西洋の昔話などに、不思議な術を持つ美しい女の小人として出てくることが多い。フェアリー。
※田園雑感(1921)〈寺田寅彦〉四「御伽噺にあるやうな淋しい山中の妖精の舞踊を想ひ出させた」
せい【精】
〘名〙
⑦ ある物に宿る魂。多く、その魂が別の姿形になって現われた場合にいう。性。
※続日本紀‐天平三年(731)一二月乙未「謹撿二符瑞図一曰、神馬者、河之精也」 〔宋書‐符瑞志下〕
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説
妖精
ようせい
英語のフェアリー fairy,フランス語のフェ féeの訳語。広くヨーロッパの民間伝承で信じられていた魔力をもつ超自然的な存在。地上または地下の妖精の国にすみ,人間よりも才能にすぐれ,長生する。(以下略)
日本大百科全書(ニッポニカ)の解説
妖精
ようせい
人間界に密接した世界に住み、変幻自在の超自然的な存在。その美醜、大小、善悪などの性状は地域や時代によって甚だ異なるが、一般にはきわめて人間に近い姿や性質をもち、良心や節操に欠けることが多く、気まぐれで、人間からの親切には大げさな返礼をし、じゃけんにされると手ひどい仕返しをするという。近世まではどちらかといえば邪悪な存在として恐れられたが、童話や漫画によって美化されてしまった。英語のフェアリーfairy、フランス語のフェfeやドイツ語のフェーFeeなどは、ラテン語のファトゥムfatumつまり運命の女神に由来し、半神的性格を伝えている。したがって、ギリシア神話に登場する海、川、泉、森、丘などに住む美しい女精ニンフや、オデュッセウスを誘惑した半女人半鳥のセイレンも妖精のなかに含めることができよう。ペルシア神話では天使のように飛翔(ひしょう)するペリ、スラブ世界では凶悪このうえないババリジャガ、スカンジナビアの醜悪・巨大なトロール、そしてわが国のすだま(木の精や山の霊)、アイヌ伝説のコロボックルなども妖精と考えられよう。(以下略)
ニンフ
ニンフは英語nymphをカタカナ表記したもの.
発音記号では[nímf]で,ニムフと表記したり,また,ギリシャ語に近づけてニュンペー,ニュムペとも.
なお,ギリシャ語nýmphē は,花嫁を意味しているとのことです.
ランダムハウス大辞典
nymph
[中期英語 nimphe<ラテン語 nympha<ギリシャ語 nýmphē 花嫁]
コトバンクにある辞典/事典の一部を以下にコピペしましたが,一文でニンフを説明するとしたら,
ブリタニカ国際大百科事典にある
「ギリシア神話中,山,水,森,木,場所,地方,都市,国などに固有な神的力を擬人化した精で,若い乙女の形をとる」
が,最も簡潔で要点をついた解説と思います.
ただ,ブリタニカでは「---若い乙女の形をとる『女神』」と続けています.
しかし,『女神』とするのは厳密に言えば間違いのようです.
ギリシャ神話では,神・女神は不死.
ニンフたちは
「神でも人間でもない存在」(日本大百科全書)で,
「歌と踊りを好む若く美しい女性で,ホメロスの叙事詩ではゼウスの娘とされるが,神と異なって不死ではなく,そのかわりに非常な長命の存在と考えられた」(世界大百科事典)
「おおむね舞踊と音楽を好み,ディオニュソスと踊り,庭や牧場に花を咲かせ,あるいはアポロンやヘルメスとともに家畜の群れを牧し,また清い泉の主となって病を癒やし,森や山でアルテミス(ディアナ,ディアーナ)らに従い狩りの成功を助け,歌と予言の力によって人間を力づけたり,サチュロスやシレノス,パンと愛をかわしたりする」(ブリタニカ国際大百科事典)
と解説されています.
山,水,森,木,場所,地方,都市,国など,ニンフとして擬人化される対象はとしても広い.
しかし,山のニンフであれ,水,森のニンフであれ,性格は同じ;舞踊と音楽を好み,パーンと踊り-----
そして,脇役として登場するだけではありません.よく知られたギリシャ神話の物語の主人公にもなっています.
・森のニンフのエコー(こだま)はナルキッソスへのかなわぬ恋にやつれ死に、
・海のニンフのガラテイアは一つ目の巨人ポリフェモスを恋の虜(とりこ)にした。
・エケナイスは、誠実を誓ったダフニスがほかの女に誘惑されたことを知って彼の視力を奪い、
・ ヘラクレスの侍童ヒラスはその美しさのために、ペガイの泉のニンフたちによって水の中へ引き込まれた。
・オルフェウスの妻として名高いエウリディケは、木のニンフである.
(日本大百科全書)
精選版 日本国語大辞典の解説
ニンフ
〘名〙 (nymph)
① ギリシア神話に登場する、山・川・樹木・花・洞穴などの精。若く美しい女の姿で現われ、歌と踊りを好み、予言力をもつといわれる。
※恋慕ながし(1898)〈小栗風葉〉二二「ブルイッシが描(か)いたニムフの神女の浴泉の図を始め」
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説
ニンフ
Nymphē; Nymph
ギリシア神話中,山,水,森,木,場所,地方,都市,国などに固有な神的力を擬人化した精で,若い乙女の形をとる女神。ホメロスはゼウスの娘としている。おおむね舞踊と音楽を好み,ディオニュソスと踊り,庭や牧場に花を咲かせ,あるいはアポロンやヘルメスとともに家畜の群れを牧し,また清い泉の主となって病を癒やし,森や山でアルテミスらに従い狩りの成功を助け,歌と予言の力によって人間を力づけたり,サチュロスやシレノス,パンと愛をかわしたりする。ときに森を通る旅人を驚かせたり,乗移ったり,また人間を恋してその妻や愛人となり,またヒュラスやボルモスのようにさらったり,愛を裏切ったとしてダフニスのように殺したり,仇をなすこともある。代表的なニンフにアルセイデス (森) ,ナパイアイ (谷間) ,ドリュアデス (木) ,オレイアデス (山) ,ナイアデス (泉,河川) らがいる。
世界大百科事典 第2版の解説
ニンフ【nymph】
ギリシア神話で,山・川・泉・樹木やある特定の場所の精。古代ギリシア語ではニュンフェnymphē(普通名詞としては〈花嫁〉〈新婦〉の意)といい,ニンフはその英語形。歌と踊りを好む若く美しい女性で,ホメロスの叙事詩ではゼウスの娘とされるが,神と異なって不死ではなく,そのかわりに非常な長命の存在と考えられた。彼女たちは,狩猟の女神アルテミスとともに山野をかけめぐり,酒神ディオニュソスに付き従って踊り狂う女たちの仲間に加わり,牧神パンや山野の精サテュロスたちと戯れる。
日本大百科全書(ニッポニカ)の解説
ニンフ
にんふ
Nymphe
ギリシア神話の自然界の精。その性質やすみかによって、川や泉の精(ナイアデス)、水の精(ヒアデス)、樫(かし)または木一般の精(ドリアデス)、トネリコの精(メリアイ)、山の精(オレイアデス)、森の精(アルセイデス)、牧場の精(レイモニアデス)などに分けられるが、このほかアケロオス川の精(アケロイデス)、ニサ山の精(ニシアデス)、アレトゥサの泉の精(同名)、ロードス島の精(ロデ)のように、地名と結び付いたものもある。ギリシア語のnymphが「若妻、若い娘」を意味するように、神話上のニンフはすべて美しい女性であり、神でも人間でもなく、また不老長寿ではあるが不死ではない。民間信仰では、草木の栄えや家畜の繁殖、健康、預言の力などを授けてくれる恵み深い下位神格として、森や祠(ほこら)などに祀(まつ)られていた。
ニンフたちは狩りの女神アルテミスに従って山野に遊び暮らすが、処女神とは正反対に、恋に対しては非常に積極的で(病理学用語ニンフォマニアnymphomaniaはこれにちなむ)、ゼウスやアポロン、ヘルメスなどの有力な神々の愛を受ける一方、パンやシレノス、サティロスといった好色な牧神たちとも戯れ、人間の美青年にも恋をしかけた。森のニンフのエコー(こだま)はナルキッソスへのかなわぬ恋にやつれ死に、海のニンフのガラテイアは一つ目の巨人ポリフェモスを恋の虜(とりこ)にした。またエケナイスは、誠実を誓ったダフニスがほかの女に誘惑されたことを知って彼の視力を奪い、ヘラクレスの侍童ヒラスはその美しさのために、ペガイの泉のニンフたちによって水の中へ引き込まれた。オルフェウスの妻として名高いエウリディケは、木のニンフである。
なお、これにあたるラテン語リンパlymphaが「澄んだ水」を意味することから、古人は色のついた血液に対し、透明な体液をリンパ液と名づけた。[中務哲郎]