エコー(エーコー,エコ)1 エコーは,ボイオーティアにあるキサイロナス山のニンフ.エコーの物語は,大きく分けて二つ. 一つは,ナルキッソスに恋したエコーの物語.オウィディウスが「転身物語(変身物語)」で描いています. もう一つは牧神パーンがからむストーリー.こちらでは,エコーは受け身? 恋におちたり,嫉妬したりするのはパーン.エコーは美しい声の持ち主で,牧神パーンの心を射止めます.ダフニスがクロエに語る挿話としてもパーンとエコーの物語が描かれます.ここでのパーンは余りに残忍.// シリーズ・ニンフ2 

昨日,ニンフって何者と調べたのに続き,

yachikusakusaki.hatenablog.com

名が通ったニンフを何回かのシリーズとしてとりあげていこうと思います.

先ずはじめは,誰もがその名を知るニンフ.

 

エコー(エーコー,エコ).

 

ランダムハウス英語辞典echoでは,6番目にニンフのエコーが記載されています.

ech・o

【1】反響(音); こだま,山びこ;エコー,反響効果音:

an echo in the canyon 大峡谷のこだま

produce an echo (effect) エコーをきかす

Echoes resound. こだまが響く.

【2】繰り返し,模倣,まね;(他人の考えなどの)追随;反映,投影⦅of, from⦆

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【6】⦅E-⦆〘ギリシア神話〙エコー:美青年 Narcissus を恋し,やつれ衰えてついには声だけになったという山のニンフ.

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[1340.中期英語 eccoラテン語 ēchō<ギリシャ語 ēchṓ(ēchḗ「音,反響」と同根)]

 

この記載からも分かるように,

英語echoは,ギリシャ神話のニンフの名前に由来するわけではありません.同じ意味;山びこなどを含めて反響(音),を持つギリシャ語ēchṓを語源としています.

 

echo/ēchṓ(山びこなどを含めて反響)を擬人化した精=ニンフの物語がギリシャ神話として伝わっているということになります.

 

エコーは,ボイオーティアにあるキサイロナス山のニンフ(オレイアスOread=山のニンフ)

Oreiad-nymph of Mount Kithairon (Cithaeron) in Boiotia. 

とされています.

その生まれについての記載は,どこにも見当たりません.

https://www.theoi.com/Nymphe/NympheEkho.html

紀元前4世紀のギリシャ壺絵では,ベールで顔を隠した翼をもった像として描かれています.

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https://www.theoi.com/Nymphe/NympheEkho.html

 

エコーの物語は,大きく分けて二つ.

一つは,ナルキッソスに恋したエコーの物語.

オウィディウスが「メタモルフォセスMetamorphoses 転身物語/変身物語/変形譚」で描いたストーリーはとても有名.

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エーコー - Wikipedia

 

もう一つは牧神パーンがからむストーリー.こちらでは,エコーは受け身?

恋におちたり,嫉妬したりするのはパーン.

 

オウィディウス版は明日以降にして.今日,取り上げるのはパーンとエコーのストーリー.

 

パーンとエコー

パーンは,ギリシャ神話ではかなり特異な神.

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PAN - Greek God of Shepherds, Hunters & the Wilds (Roman Faunus)

 

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

パンとは - コトバンク

パン

Pan

ギリシア神話の半人半獣神.牧畜の神で,アルカディア起源だが,ギリシア全土で崇拝され,ローマではファウヌスと同一視された.

ひげもじゃで,額に2本の角のある怪異な面貌と,やぎの下半身をもち,一伝ではヘルメスの子で,生後すぐ父にオリュンポスに連れていかれたとき,こっけいな姿がすべての神々の心を楽しませたので,ギリシア語で「すべて」を意味するパンという名をつけられたという.

別伝では,ペネロペイアがオデュッセウスの留守中に,すべての求婚者と不倫な関係を結び生んだ子であるので,この名を与えられたともいわれる.

すこぶる好色で,ニンフや美少年に恋しては跡を追いかけ,逃げられると自慰や獣姦にふけるとされ,また「恐慌 (パニック) 」を引起すとも信じられた.

 

 

エコーは美しい声の持ち主で,牧神パーンの心を射止めます.

下記にホメーロス風讃歌の一部(英文訳の拙訳)を載せます.

パーンの心を捉えたエコーの逸話は,ノンノス「ディオニューソス譚」にも,繰り返し描かれているようです.https://www.theoi.com/Nymphe/NympheEkho.html

 

夕方,パーンは狩から戻り,彼の楽曲を甘く低い葦笛で奏でます.---その時,澄んだ声のニンフたちが彼にあわせ(?),敏捷に移動して,深い色をたたえた泉のもとで歌います.一方,エコーはその山の頂についてもの悲しげな声を挙げています.ホメーロス風讃歌)

"At evening, as he [Pan] returns from the chase, he sounds his note, playng sweet and low on his pipes of reed . . . At that hour the clear-voiced Nymphai (Nymphs) are with him and move with nimble feet, singing by some spring of dark water, while Ekho (Echo) wails about the mountain-top."(Homeric Hymn 19 to Pan 1 ff (trans. Evelyn-White) (Greek epic C7th to 4th B.C.) https://www.theoi.com/Nymphe/NympheEkho.html

 

 

ダフニスとクロエ ロンゴス作)でも,ダフニスがクロエに語る挿話として,パーンとエコーの物語が描かれます.

ダフニスが語るエコーはミューズ(ムーサ)に学び,全ての楽器をたぐいまれな技量で弾きこなすことができます.しかし,パーンは,彼女の音楽的技量をうらやみ,一方では彼女自身を一方的に切望してかなわず,殺させてしまいます.

(この物語.私がいつも頼りにしているthe Theoi projectのサイトでは,取り上げていません.あたかも,ダフニスとクロエ (ロンゴス作)を文献とみなしていないかのように---

文献的価値は私には分かりませんが,ダフニスが語るパーンは,誰も読みたがらないような,余りにも醜い残忍な神.牧神のイメージとはかけ離れていますね)

 

以下,英語版ウィキペディアの一部を取り出して,拙訳.

 

エコーは,ニンフたちとダンスをし,また,楽器の弾き方の全てを教えてくれたミューズ(ムーサ)たちと歌って日々を過ごしていました.パーンは,エコーの音楽的技量をうらやみ,また,彼女の処女を切望しますが,彼女は人間にも神にもそれを許しません.怒りをつのらせ,牧人たちに命じて,まるで野生の動物のようにエコーをバラバラに切り裂き,依然として歌っている断片は地をこえてばらまいてしまいました.

Echo (mythology) - Wikipedia

Echo spent her days dancing with the Nymphæ and singing with the Muses who taught her all manner of musical instruments. Pan then grew angry with her, envious of her musical virtuosity and covetous of her virginity, which she would yield neither to men nor gods. Pan drove the men of the fields mad, and, like wild animals, they tore Echo apart and scattered the still singing fragments of her body across the earth.

 

 

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