「黒猫」(1): イギリスではちょっとした黒猫ブームとか.しかし復権してきたとはいえ,まだまだ偏見は根強いようです.愛らしさの陰に秘められた黒猫受難の歴史を追うNHKBS「ヨーロッパ 黒猫物語~愛しきネコたちの不思議な運命~」イタリア編

かっては黒猫のタンゴ,その後の魔女の宅急便ジジ.

日本では,黒猫の迷信は,かなり払拭されているように思います.

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【EP】 皆川おさむ / 黒ネコのタンゴ - レコードショップ オールウェイズ https://www.amazon.co.jpスタジオジブリ-魔女の宅急便-なかよし-ぬいぐるみ]/

 

外国に目をやると---.イギリスやフランスでは黒猫の復権が著しく,ちょっとした黒猫ブーム.でもまだまだ迷信が完全に払拭されたわけではなく,虐待されたり捨てられたりする黒猫も後を絶たないとか.

そんなヨーロッパでの黒猫の歴史と現状を,NHKBSが伝えてくれていました.

冒頭のイギリス編は割愛し,中間のイタリア編のみ再録します.

www.nhk.or.jp初回 2017年6月28日(水) 午後9時,再放送 2017年8月16日(水)午後4時

 

イタリアの首都,ローマ.古代ローマ帝国の栄光を今に伝える言わずと知れた永遠の都です.

その中心部にトッレ・アルジェンティーナ広場があります.

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トッレ・アルジェンティーナ広場 - Wikipedia

「ブルータスお前もか」で知られるあのカエサルが暗殺された場所がここ.

紀元前に立てられた4つの神殿は,ローマを代表する観光名所の一つになっています.

でも,観光客のお目当て.実は,遺跡だけではありません.

広場の中を良く見渡すと,ほら,あちらこちらに猫の姿が.2000年以上前の貴重な遺跡の中で,沢山の猫たちが勝手気ままに暮らしているんです.

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なんと!イタリアの猫はスパゲティ大好き!トッレ・アルジェンティーナ広場 - お写んぽなう トッレ・アルジェンティーナ広場 - Wikipedia

 

こうした猫たち.遺跡と共に,生きた文化財として認定されていて,勝手に処分されるなんてことはありません.そう,ここは猫の楽園.

イタリアではこうした野外で暮らす猫たちのことを,どう呼ぶかご存じですか?

Gatto Libero:自由猫と呼ぶんです.

 

猫が家畜として飼われ始めたのは,古代エジプトだといわれています.猫はネズミなどから穀物を守ってくれる,神の化身と考えられ,大切にされていました.

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http://www.ancient.eu/Bastet/

ローマ人は,エジプトから猫を連れて帰りました.やがてローマ帝国の支配が広がると,猫も一緒に海を渡って行ったのです.そう,ここローマは世界中で猫がくらすようになった,いわば,出発の地なんです.

 「猫は好きですか?」

「はい,好きです」「とても思慮深いしね」「哲学的な動物だからね.おとなしくて落ち着きを与えてくれる」

 

ところで,歴史的な遺跡の中で堂々と暮らす猫たち.どれも,きれいな毛並みをしていますが,いったい誰が面倒を見ているのでしょうか?

遺跡の一角に,猫の看板を見つけました.

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ローマ遺跡の中にある野良猫・捨て猫保護センター イタリア/ローマ特派員ブログ | 地球の歩き方

 

なにやら施設があるようです.実は,ここでボランティアの人たちなどが,猫の世話を行っているのです.資金は募金や寄付で賄われています.

ローマ市内には,こうした公共の場所に暮らす猫の世話をする猫コロニーと呼ばれる施設が400箇所もあります.

猫コロニーでは,猫の世話だけではなく,ここに保護された猫たちは,病気や怪我の治療,避妊手術といった処置を受け,引き取ってくれる里親を待つのです.

 

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http://oshanpo.com/italy-argentina/2/

あれ何だか,さっきイギリスで見た動物保護施設と似ています.イタリアにも,同じような施設があるんですね.

こちらはお休み中の猫たちかしら.でも黒っぽい猫が多い気がしますが.

 そうなんです.この施設に保護される猫の多くが,黒,または黒に近い毛並みの猫なのだそうです.

そしてご覧下さい.明らかに虐待を受けたと見られる猫も少なくありません.

 実はイタリアでは,黒猫を虐待する事件が,今も後を絶たないのです.

 

シルビア・ゼレンギさん

「黒猫に対する偏見は,とても根深いものがあるんです.残念ながら今でも多くの人々が無知で,そのため,世の中に愚かな偏見が蔓延しているのかもしれません.そう疑わざるを得ないような現状です」

 

こうした現状を憂えたシルビアさんたちは,黒猫を救って欲しいと,ローマ教皇に嘆願書を書きました.当時の教皇ベネディクト16世は動物好きとして知られていました.

しかし,シルビアさんたちには,それだけではない理由がありました.

 

「歴史的に見ると,残念ながらキリスト教の信仰と共に黒猫を取り巻く状況が悪くなっていきました.ローマ・カトリック教会が,猫,特に黒猫への迫害を公認したため,人々の偏見を助長したのです」

 

教会と猫.そこには一体どんなつながりがあったのでしょうか.

 

ヨーロッパの猫の歴史についた書かれた一冊の本.10年前,イタリアで出版されました(Fabio Nocentini  I Poteri Magici del Gatto).著者は猫と神秘学との関係などを研究してきたファビオ・ノチェンティーニさんです.

 

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https://www.macrolibrarsi.it/autori/_fabio_nocentini.php

 

ローマカトリック教会は,勢力を拡大する上で,キリスト教徒は認められない信仰を撲滅していきました.黒猫はそうしたものと結びつけられたのです.それが,黒猫たちにとって,まさに,暗黒の時代の始まりでした」

 

ローマ帝国勢力拡大と共に,ヨーロッパ全土に広がったカトリック教会.ローマ教皇を神の代理人とし,ほかの教義や宗教を一切認めませんでした.

中世に入ると東西二つに分裂.争いが激しくなる中で,11世紀,自らの教義に反する教えを異端としたり,異教徒を激しく排斥したりする動きが,強まっていきました.そして,12世紀.時のローマ教皇,グレオリウス9世が驚くべきお触れを出しましす.

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グレゴリウス9世 (ローマ教皇) - Wikipedia

「黒猫は悪魔の下僕(しもべ)」

悪魔の集会では,黒猫が悪の使いを務めているという,そのころ漠然と広まっていたイメージが,教会によって権威づけられたのです.そして,黒猫は排除すべきものと,見なされるようになっていきました.

「人々の間には,黒は死の色であり,不運の色,悪魔の色であるという恐怖心があったのです.なぜなら,当時は多くの無知と迷信にあふれていましたから」

当時,絶大な権威であった教会によって忌み嫌うべきものと,いわば,認定された黒猫.不吉なものとして恐れる心は,更にエスカレートしていきました.

15世紀の初め,教皇インノケンティウス7世は,聖人の誕生を記念した祭の日に猫を殺すことを認めました.

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インノケンティウス7世 (ローマ教皇) - Wikipedia

「イタリアでは,聖ジョバンニの夜,猫は生きたまま広場で火あぶりにされました.籠に入れられ,火の中へ.このお祭りで,人々は悪魔の力を封じようとしたのです」

更に輪をかけて大きな災難が黒猫に降りかかります.魔女狩りの爆発的な広がりです.

この本は,15世紀に出版された「魔女への鉄槌」.

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魔女に与える鉄槌 - Wikipedia

 

ローマ教皇に認められた異端審問官の手で書かれたということで,大きな影響力を持ったといわれています.その内容は,魔女の見つけ方,自白のさせ方や,拷問の方法など,いわば,魔女狩りのための実用マニュアルでした.

こうした書物にも後押しされ,魔女狩りはヨーロッパ各地に広まって行きました.

その中で,黒猫は,魔女や悪魔と結びつけられていくのです.

魔女は黒猫に姿を変えてあちこちに潜んでいる.そんな抜きがたいイメージが,人々の意識の中に形づけられていきました.

「正確な数字というのはありませんが,私は数百万匹の規模の猫が殺されたと考えています.数百万匹ですよ.処刑された女性の数に関しては,そこまでではなく,数万人だったでしょうが.いずれにせよ,大変な数の命が犠牲になったのです」

ヨーロッパ各地で魔女狩りの嵐が吹き荒れた時代.もう一つの恐怖がヨーロッパを覆っていました.

高熱にうなされ,うわごとを言いながら最後には全身が黒ずんで死に至る病,ペストの大流行です.14世紀から18世紀にかけて何度もヨーロッパを襲ったこの伝染病により,数千万人規模の人々が命を落としたと推定されています.魔女狩りで黒猫をはじめ,沢山の猫が犠牲になったいったその頃,ネズミなどによって媒介されるペストが猛威を振るうことになったのです.

何とも皮肉な歴史です.

 

さてちょっとここで,美術大好き,私,佐々木彩夏の解説コーナー.

こちら,死を象徴する骸骨が踊っています(ミヒャエル・ヴォルゲムート 『死の舞踏』1493年、版画).次々と人が死ぬペストの恐怖が,こんな絵を生み出したんですね.

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死の舞踏 (美術) - Wikipedia

こちらは,フランドル絵画の巨匠,ブリューゲルの「死の勝利」(プラド美術館).

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ピーテル・ブリューゲル - Wikipedia

誰もが逃れられない死への恐怖を描いた作品といわれていますが,そこには,ペストに対してなすすべのない絶望感も投影されているのかもしれません.

 

フランスの西部ルーアンには,かつてペスト病棟として使われた建物が残っています(サン・マクルー回廊).近くにはヨーロッパ最古とされるペスト犠牲者の墓地も.壁に施されたのは,おびただしい数の骸骨の彫刻です.

当時の人々は,ペストの原因や治療法が分からないまま,恐怖におびえ,悪魔の仕業だと考えました.建物の壁の改修工事が行われたとき,そんな歴史を物語るものがみつかりました.

壁に猫のミイラが埋め込められていたのです.

中世では悪魔の化身である黒猫をいけにえにすることで,ペストを封じることができると信じられていました.そのことでも,また,多くの黒猫が犠牲になったといわれています.

 

11月17日.

イタリアでは毎年この日は,黒猫の日.長い歴史の中で黒猫に対して行ってきた残酷な行為を振り返り,その罪をあがなう1日です.

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11月17日はイタリアの『黒猫の日』! 悪しき習慣から黒猫の皆さんをお守りする日だぞ!! | ロケットニュース24

ローマ市内の猫コロニーでも,ボランティアの人たちが集まって,黒猫たちを世話していました.

「黒猫へのばかげた歴史的偏見を払拭するために,この日が設けられたんです.最も悪いことは無知であるということを,ちゃんと分かって欲しいと思っています」

猫の世話を終えた女性たちが歌を歌い始めました.

おや,どこかで聞いたことがあるメロディーですね.

そう.「黒猫のタンゴ」.もともとイタリアの曲だったんです.

 

では,ここで改めて,本家本元の「黒猫のタンゴ」をお聞きいただきましょう.

 


Volevo Un Gatto Nero - Zecchino D'oro (1969)

(歌詞(一部)・日本語訳

黒ネコのタンゴ 歌詞と日本語訳

「Volevo Un Gatto Nero」

Coro: Lal-lal-lal-lal-lal-la la-lla

Un coccodrillo vero

un vero alIigatore

ti ho detto che l'avevo

e l'avrei dato a te.

Ma i patti erano chiari

il coccodrillo a te

e tu dovevi dare un gatto nero a me

 

本物のワニを持っているって君に言って

そのワニを君にあげた

でも確かに約束したよね

僕はワニを君にあげるかわりに

君は黒いネコを僕にくれるって・・・

 

Volevo un gatto nero nero nero

mi hai dato un gatto bianco

ed io non ci sto piu

Volevo un gatto nero nero nero

siccome sei un bugiardo con te non gioco piu

Coro: Lal-lal-lal-lal-lal-la la-lla

 

欲しいのは黒ネコ、黒といったら黒

君がくれたのは白ネコじゃないか

もう我慢できないよ

欲しいのは黒ネコ、黒といったら黒

嘘つきの君とはもう遊ばない!)

 

「ヨーロッパであれほど激しく吹き荒れた魔女狩りと黒猫への迫害の嵐.

それがそのあとどういう歴史をたどって,今の黒猫ブームにつながるのかしら.私はそれが知りたくて,専門家のもとを訪ねました」

 

(以下続く ⇒ 「黒猫」(2) イギリス編:各地で黒猫のアイドルが生まれています.---- - yachikusakusaki's blog )