初夏/夏来(なつく)/夏さる(夏去る)/夏まく(夏設く)/夏立つ を詠んだ短歌2  鎌倉浄妙寺には,多種類のヤマアジサイが植えられています.訪れてみると,もうすぐ満開といった所で,元気な美しい花姿を見せてくれていました. 夏されば茨(いばら)花散り秋されば芙蓉花咲く家に書(ふみ)あり 正岡子規  夏まけて咲きたる唐棣(はねず)ひさかたの雨うち降らば移ろひなむか 大伴家持  日はかすめ清(さや)にこごしき妙義嶺(みょうぎね)の檜山(ひやま)のなだり夏立ちにけり 北原白秋  五月六日立夏(りっか)のゆふべ緑

今日は,鎌倉浄妙寺まで行って来ました.

このお寺には,山紫陽花が沢山植えられていて,開花の様子を確かめるためです.

境内に入って,はじめに目に飛び込んできたのは,新芽の赤がとても美しいカエデ.

 

お目当ての山あじさい.もうすぐ満開といった所で,元気な美しい花姿を見せてくれていました.

アジサイの季節といえば梅雨が連想されるかと思いますが,山アジサイは一般のアジサイより早く咲くので,私は初夏を連想してしまいます.一般的な連想ではないと思いますが.

 

初夏/夏来(なつく)/夏さる(夏去る)/夏まく(夏設く)/夏立つ

を詠んだ短歌2

(古今短歌歳時記より)

短歌の世界では,直接初夏という以外にも様々な表現で初夏を表してきました.

昨日取り上げた「夏来(なつく)/夏きたる」もその一つ.

その他の表現としては,夏さる(夏去る)/夏まく(夏設く)/夏立つなどがあります.

▽夏さる

現代文で「夏去る」といえば,夏が過ぎ去ってしまうことを意味しますが,古文の「去る」は,移動する意で、古くは近づく場合にも遠ざかる場合にもいい,季節をあらわす「夏さる」は一般的には「夏になる」を意味するとのこと.高校時代に習ったような気がしますが,忘れていました.

 

夏されば茨(いばら)花散り秋されば芙蓉花咲く家に書(ふみ)あり  正岡子規 竹の里歌

 

篠懸樹(ぷらたなす)かげ行く女(こ)らが眼蓋(まなぶた)に血しほいろさし夏さりにけり  中村憲吉 林泉集

 

▽「夏まく」は「夏の季節がやってくるのを心待ちにする.待ちうける意」とのこと.まくは漢字では「設」.

ま・く【設】〘他カ下二〙 日本国語大辞典

①あらかじめ用意する。準備して待つ。もうける。
②心の準備をして待つ。
③特に、季節や時の来るのを心待ちに待つ。待ち受ける。待ち受けた結果、その時になるの気持をこめて用いることが多い。

 

夏まけて咲きたる唐棣(はねず)ひさかたの雨うち降らば移ろひなむか  大伴家持 万葉集 巻八 1485

 

▽「夏立つ」は夏の季節が来る意で,俳諧では初夏の季語.

夏立(た)つ  日本国語大辞典
夏の季節がくる。夏になる。《季・夏》

立夏とした場合には二十四節気の太陽の黄経が45度の時で新暦では5月5日頃)

 

日はかすめ清(さや)にこごしき妙義嶺(みょうぎね)の檜山(ひやま)のなだり夏立ちにけり  北原白秋 海阪

 

五月六日立夏りっかのゆふべ緑なる草蜻蛉(くさかげろう)は机に来たり  宮柊二 独石馬