ブドウを詠んだ短歌2 今日の青果売り場にはピオーネが.売られている葡萄は欧州系と米国系を掛け合わせた栽培種ですが,日本の自生種にはヤマブドウとエビネが知られています.古名は葡萄葛. 乾葡萄(ほしぶどう)喉より舌へかみもどし父となりたしあるときふいに 寺山修司  ぶだう呑む口ひらくときこの家の過去世の人ら我をみつむる 高野公彦  季節にも貌(かほ)ある如くマスカット白桃を剝く掌(てのひら)の冷え 深井美奈子  甲斐が嶺は白き夏雲夏空のま底は熟るる葡萄の大地 馬場あき子

現在私たちが食べているブドウは,欧州系(Vitis vinifera ),アメリカ系(Vitis labrusca ),もしくはこの両者を交配させた栽培種ですが,古来から日本に自生していたブドウ属の種として,ヤマブドウエビネが知られています.

「酸味と渋みが強く、生食には向いていない」https://www.tamagawa.jp/education/serial/friends/bn_201801.htmlと言われていますが,山の中で出会って口にすれば,その雰囲気だけでも美味しいと感じるのでは?

ヤマブドウエビネの古名はエビカズラ(葡萄葛).
 
古事記では,
約束を破って振り返ってしまい,黄泉の国から逃げてきたイザナギ
イザナミの命を受けて追ってきたヨモツシコメ(黄泉醜女)に向け,冠としてかぶっていたつる草・クロミカズラを投げます.その時,生えてきたのがエビカズラ.シコメたちが,その実を食べている間にイザナギは逃げます.
 
口語訳古事記(三浦祐介訳)
---それでイザナギは,頭(かしら)に巻いておったクロミカズラを取って,後ろにポイと投げ棄てると,すぐにエビカズラが生えてきての.シコメどもがその実をつまんで食うておる間に逃げたのじゃが----
 
 
一方,「日本固有の栽培品種」とされているのが,現在は,日本産ワインで注目されている甲州
欧州系(Vitis vinifera )に中国野生株が交雑した種とされています.

甲州は,奈良時代の僧,行基薬師如来から授けられたとも,平安時代末期に雨宮勘解由が見つけたとも言われている品種.

酒類総合研究所によれば.

https://nrib.go.jp/data/pdf/nrt/2013_1.pdf

「DNA解析の結果,大部分は欧州系のビニフェラで,一部に中国の野生種のDNAが含まれるハイブリッドであることが明らかになっています.祖先に当たるビニフェラが中国で野生種と交雑し,さらにビニフェラと交配して日本に伝わったと考えられます.」

 

 

今日のご近所のスーパーでは,果物売り場の前面にピオーネが並べられていました.

巨峰を更に大きくしたような人気品種.巨峰とカノンホールマスカットの交配種とされていますが,DNA解析の結果から巨峰の自家受粉種である可能性が指摘されています.

ピオーネ

「巨峰(母)とカノンホール・マスカット(マスカット・オブ・アレキサンドリアの4倍体枝変り)(父)を交配し,育成し,昭和48年にピオーネ(イタリア語で開拓者という意味)と改名され,種苗名称登録されました」とされています.

https://foodslink.jp/syokuzaihyakka/syun/fruit/budou-Pione.htm

しかし,九州大の白石等の研究では,

「‘ピオーネ’は ‘巨峰’の自家受精を行なった結果生じたものである可能性が高い」とされました.

https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/12700/p011.pdf

 

 

ブドウを詠んだ短歌

(古今短歌歳時記より)

乾葡萄(ほしぶどう)喉より舌へかみもどし父となりたしあるときふいに  寺山修司 血と麦

 

野葡萄の熟れてゆく昼 状況をまっしぐら指す矢印の朱(あけ) 西勝洋一 未完の葡萄

 

馭者は来て夜更けの広場月明へ葡萄の籠をおろしはじめる  角宮悦子 ある緩徐調

 

ぶだう呑む口ひらくときこの家の過去世の人ら我をみつむる  高野公彦 汽水の光

 

紫のぶどうの房はひらかれしオレゴン州の地図におかれて  松坂弘 石の鳥

 

巨峰という葡萄一房眼前の一粒一粒のあけぼのの紺  小野寺幸男 樹下仮眠

 

季節にも貌(かほ)ある如くマスカット白桃を剝く掌(てのひら)の冷え  深井美奈子 青き胡桃

 

甲斐が嶺は白き夏雲夏空のま底は熟るる葡萄の大地  馬場あき子 葡萄唐草

 

炎昼のしんかんとして一房の葡萄水より上げしきらめき  宮原包治 日月の河

 

転生の地上に葡萄の黄葉してただ一切は過ぎてゆきます  桜井登世子 夏の落葉