ブドウを詠んだ短歌1  日本人が150年近く食べてきたデラウェア.昭和30年代に種なしの出荷が始まったこともあり,人気は根強いものがあります.今年の栽培面積は巨峰を抜いたようです.日本では生食が主ですが,ワイン醸造にも用いられる品種とのこと. 手づくりの葡萄の酒を君に強い都の歌を乞ひまつるかな 山川登美子  沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ 斉藤茂吉  ひと房の葡萄をもてば君が手に流るる如く秋の紫 福田栄一

最も長く親しまれてきたブドウと言えば,デラウェアでしょう.現在でもブドウ売り場には必ず置いてあります.

 

導入されたのが1872年(明治5年),商業栽培開始は1886年

と言われていますから,日本人は150年近く食べてきたことになります.

https://specialtyproduce.com/produce/Delaware_Grapes_15002.php

https://www.kudamononavi.com/zukan/grape/delaware

 

昨日取り上げたように,今年,長く栽培面積1位だった巨峰に変わり,シャインマスカットが栽培面積1位になりましたが---巨峰は,同時にデラウェアにもぬかれていました.

デラウェアの根強い人気がわかります.

https://www.agrinews.co.jp/news/index/90812

デラウェアは,アメリカでみつかった自然交配種.

https://specialtyproduce.com/produce/Delaware_Grapes_15002.php

親は不明.アメリカのVitis labrusca /Vitis aestivalisに,ヨーロッパのVitis viniferaが混ざっているのではないかと考えられています.研究者へのサンプルの発送元がオクラホマ州デラウェアであったために,1950年代にデラウェア命名されたそうですが,最も古い記録はニュージャージー州フレンチタウンの農場にまで遡ることができます.

アメリカでは,生で食べられることはあるものの(ジュースやお菓子用を含めて),主にワイン醸造に用いられているとのこと.

日本でも,量は少ないようですが,デラウェアを用いた白ワインが製造販売されています.

https://lab.nomuno.tokyo/knowledge/2798 https://nihonwine.jp/enjoy-nihon-wine/delaware/

デラウェアのワインは「口中にデリケートな甘みを与え、青リンゴのニュアンスとわずかにスパイシーなニュアンスがある」とのこと.https://specialtyproduce.com/produce/Delaware_Grapes_15002.php

 

日本で,デラウェアが長く人気を保ち続けてきた理由の一つは,植物ホルモンのジベレリンによる種なしブドウの開発に成功したためといわれています.

今では,種なしブドウは他の品種でも当たり前になっていますが,少し前までは,種なしと言えばデラウェアだったように思います.

農林水産・食品産業技術振興協会の記事によれば

https://www.jataff.or.jp/senjin/dera.htm

ジベレリン処理の本格的な研究が始まったのが1957年.初めは植物の生長/徒長ホルモンであるジベレリンによって穂軸を長くしようと考えて始めた研究の途中,偶然,種なし果がみつかったとのこと.

そして,種なしブドウの初出荷が1960年.とても短期間の内に実用化に成功したことは,驚くべき事です.

 

 

ブドウを詠んだ短歌1

(古今短歌歳時記より)

 

幼きは幼きどちのものがたり葡萄のかげに月かたぶきぬ  佐佐木信綱 思草

 

手づくりの葡萄の酒を君に強い都の歌を乞ひまつるかな  山川登美子 恋衣ー白百合

 

山の上は秋となりぬれ野葡萄(えび)の実の酸(す)きにも人を恋ひもこそすれ  土屋文明 ふゆくさ

 

沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ  斉藤茂吉 小園

 

葡萄の実ふくらみそめし下陰よひそかにひそかに雨のふり出づ  高安国世 真実

 

童貞のするどき指に房もげば葡萄のみどりしたたるばかり  春日井健 未青年

 

黒きぶどうのごとき血縁遠くに持つ おそれよ闇に冴えゆくまなこ  荻本清子 河と葦

 

ひと房の葡萄をもてば君が手に流るる如く秋の紫  福田栄一 きさらぎやよひ