シソ目の植物について,簡単な解説を探してまとめるシリーズ第七回.シソ目シソ科の第二回
セイヨウニンジンボク,ハマゴウ,ニンジンボク
ハマゴウ属に分類される植物たち.どれも古来,薬効がうたわれてきた仲間です.
セイヨウニンジンボク
今日の夕方散歩で,ご近所のセイヨウニンジンボクに出会いました.花が痛み始めていましたが,それでもしっかり楽しませてもらいました.
見かけたのは二軒目.鎌倉でも庭木として植える方が増えてきている? 園芸店で苗木も見ることがあります.
NHK趣味の園芸は「花が少なくなる7月から,さわやかなすみれ色の花を咲かせる,生育旺盛で育てやすい落葉低木」としています.お薦めです.(https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-545)
ただ,「低木」といっても,育て方次第ではかなり大きくなるようです.
https://en.wikipedia.org/wiki/Vitex_agnus-castus
セイヨウニンジンボクは昨年取り上げました.
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2022/07/15/163143
以下,ほぼ同様の内容になります.
セイヨウニンジンボクは,英語名chaste tree.日本語訳は貞節の木・純潔の木となるのでしょうか?
学名(Vitex agnus-castus)にあるcastusも「純潔な」を意味し(ランダムハウス英語辞典),古代ローマでは,この木は貞節・禁欲を象徴する木とされてきました.
Healing Plants of Greek Myth: The Origins of Western Medicine and Its original plant remedies derived from Greek myth (著者: Angela Paine)
によれば,
・パウサニアス(2世紀ギリシャの旅行家で地理学者)は,「貞節・結婚の女神ヘラはサモス島のリゴスの木(Vitex Agnus-castes,chaste-tree)の下で生まれ,育った」と述べています.
・かつてローマ神話の女神ウェスタ(かまど の女神. ギリシャ神話ヘスティアと同一視)の処女たちは,自分たちの貞節を徴するためにチェストツリーの小枝を持っていました.また,チェストツリーの花は,今日でもイタリアの修道院で,修道生活の禁欲を象徴する儀式に使われています.
・プリニウス(ローマの博物学者)は「chaste treeは性欲を抑制する」と言っています.
chaste tree セイヨウニンジンボクの薬効は,その後見直され,現在は,性衝動を抑える薬効ではなく,月経前症候(PMS)および月経前不快気分障害(PMDD)に対する薬効が注目され,「効果がある」とするレビューも発表されるまでに.
ただし,NIH(アメリカ国立衛生研究所)による最終評価では,「決定的な科学的根拠(エビデンス)は得られていません」とされています.
https://www.nccih.nih.gov/health/chasteberry
https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c04/11.html
チェストベリーの木はチェストツリーとも呼ばれ,地中海地方やアジアが原産です.
「チェストベリー」という名称は,この木が伝統的に純潔を守るのに役立つと信じられていたことに由来します.中世の修道僧は性欲を減退させるのにチェストベリーを使ったと報告されています.昔は,婦人科疾患や皮膚疾患の治療にチェストベリー抽出物(エキス)を使用していました.
現在では,チェストベリーはサプリメントとして月経前症候群,月経周期に関連する乳房痛,不妊症,そのほかの症状・疾患に良いとされています.
▽これまでに解明されていること
どの疾患に関しても,チェストベリーが有効であることを示す頑健な研究はあまり多くありません.チェストベリーの安全性に関する確かな情報がいくつか得られています.
▽研究で明らかになったこと
チェストベリーが月経前症候群の症状や月経周期と関連する乳房痛に有用である可能性が予備試験によって示唆されていますが,決定的な科学的根拠(エビデンス)は得られていません.
女性の不妊症に対するチェストベリーの研究がおこなわれましたが,効果の有無に関する信頼性の高いエビデンスが不足しています.
▽安全性について
少量を使用した場合,チェストベリーの忍容性はおおむね良好であると考えられます.副作用の多くは軽度で,悪心,頭痛,胃腸障害,そう痒などがみられます.
妊娠中または授乳中のチェストベリーの摂取は,安全ではない可能性があります.
ハマゴウ(蔓荊/浜栲)Vitex rotundifolia
https://ja.wikipedia.org/wiki/ハマゴウ
https://ja.wikipedia.org/wiki/ハマゴウ属
本州から沖縄,および朝鮮半島,台湾,中国からアジア・アフリカの熱帯,オーストラリアに分布する海岸生の低木です(ニッポニカ https://kotobank.jp/word/ハマゴウ-861661).
「果実は球形で径五~七ミリメートル,漢方では乾燥したものを蔓荊子(まんけいし)といい,強壮・頭痛・清涼・感冒薬にする」(日本国語大辞典)とのこと.
参照:https://www.uchidawakanyaku.co.jp/kampo/tamatebako/shoyaku.html?page=145
ニンジンボク(人参木/牡荊)
five-leaf chastetree/Chinese chaste tree Vitex negundo var. cannabifolia
(タイワンニンジンボク(黄荊) Vitex negundo)
https://en.wikipedia.org/wiki/Vitex_negundo
https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/004874.php
中国に広く分布し,日本では庭木として植えられる落葉低木です.
ニッポニカによれば(https://kotobank.jp/word/ニンジンボク-1574804)
漢名ではニンジンボクを牡荊(ぼけい),果実を牡荊子という.牡荊子は,鎮咳,鎮痛,健胃,止瀉(ししゃ)剤として喘息,感冒,胃病,消化不良,腸炎などの治療に用いる.中国では葉,茎,根もほぼ果実と同様に用いる.
なお,小葉が全縁(ギザギザがない)であるものをタイワンニンジンボクV. negundo L.とよび,台湾,中国,東南アジア,インド,マダガスカル島,アフリカに分布する.漢名では黄荊(おうけい)といい,前種と同様に用いる.