小暑・温風至  今日は暑中の始まり「小暑.温風至」.二十四節季の夏では小暑は後半ですが,二十四節気は太陽の運行に厳密に従っているため,暑さの時期はこれから.温風至は今日の気候にピッタリですですが,今一般化している読み方には問題ありかと思います.温風至は,「おんぷういたる/あつかぜいたる」の二つの読み方がありますが,本来は前者でしょう.無理矢理「あつかぜ」と読ませて,わかりやすくしていますが---「温風至」について考察してみました.

線路脇のカンナがすでにほぼ満開でした.

関東地方は,明日明後日が雨模様とのことで,梅雨明けは来週のようですが---

今日は暑中の始まりですね.

二十四節季では小暑.72候では温風至.

 

 

先日の「夏至半夏生」に続いて,「小暑・温風至」について少し調べてみました.

平安時代に中国から伝わった二十四節気・七十二候は,太陽の運行に従った季節を知る目安.

月の満ち欠けで月日を決めていた先人は,この節月区切りで気候を知り,農作業に励んできました.

暦Wiki/季節 - 国立天文台暦計算室

https://www.i-nekko.jp/meguritokoyomi/nijyushisekki/

二十四節季の夏は立夏から秋分に至る期間で,小暑は夏の後半に当たります.

ただし,1日で最も暑い時間は午後二時頃になるのと同様に,厳密に太陽の運行に沿った二十四節気では,最も暑いのは大暑から立秋のころになってしまいます.

従って,小暑は暑い季節の開始点に当たると言っても良いでしょう.

なお,中国黄河流域で作られた二十四節季は,この地方の気温の変化と,かなりしっかりした対応が見られるという指摘があります.

http://chugokugo-script.net/koyomi/shousho.html

洛陽と東京を比べると,暑い季節は洛陽の方が早い.二十四節気の夏が,洛陽の夏の季節感とほとんど一致していたんですね.

http://chugokugo-script.net/koyomi/shousho.html

 

二十四節季は,一年を二十四等分した日付(等分点)と期間(約15日)の二つの意味を持ち,2023年7月7日は小暑ですが,今日から約15日間も小暑となります.

七十二候は二十四節気を細分化したもので,一気を初候・次候・末候の三候に分ける(約5日ごと)ので,合計72個になります.

 

今日から約五日間は小暑の初候の「温風至」になります.この時期にピッタリ.72節季侮るべからず.

 

しかし---

ほとんどのウェブサイトが採用している「温風至」の読み方,意味の取り方にやや問題があるように思います.

引用・参考

1 暦Wiki

https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/B5A8C0E12FBCB7BDBDC6F3B8F5.html

2 中国語スクリプト 

http://chugokugo-script.net/koyomi/shousho.html

3 *日本国語大辞典

https://kotobank.jp/word/温風-456149

4 **元の呉澄による二十四節気七十二候の解説/試訳

https://kodakana.hatenablog.jp/entry/2018/02/25/140841

 

以下は,単なるイチャモンのような気もしますが---,より正しさを追求した結果の現時点での私に理解でもあります.もとより専門家ではありませんので,間違いかもしれません.

▽「温風」は「あつかぜ」と読む?

72候を解説しているウェブサイトのほとんどが,温風を「あつかぜ」と読ませています.

しかし,新字源(角川)をみても漢字の「温」に「あつい」という意味はありませんし,手元の並びにウェブ上の辞書に,「温」を「あつい」と読ませる例は見つかりません.ウェブ上の「温風至」に限った読み方かと思われます.

 

▽「温風」を「おんぷう」と読んでいる例は,ウェブ上で三例見つけました.

上記の表の引用・参考2〜4です.最も頼りになるのは何と言っても日本国語大辞典でしょう.日本の国語辞典では最上級とされる辞書ですから.「温風至」の本来の読み方は「おんぷういたる」でしょう.

 

おん‐ぷうヲン‥【温風】〘名〙 日本国語大辞典

https://kotobank.jp/word/温風-456149

①梅雨が明ける、陰暦六月頃に吹く南風。《季・夏》

俳諧・滑稽雑談(1713)六月

「温風オンプウ至いたる」

 〔礼記−月令〕

②あたたかみを感じる春の風。季題としては「風あたたかし」で表わす。

虞美人草(1907)〈夏目漱石〉一二

「出て見ると春の日は存外長閑のどかで、平気に鬢びんを嬲なぶる温風オンプウはいやに人を馬鹿にする」

③暖房装置などが送り出す、あたたかい風。

 

この①の意味は,広辞苑など他の辞書には掲載されていませんが,歴史的には最も古い「温風」の意味でしょう.「温風至」は中国の72節季で使用されてきたものですから.そして,日本語で読む場合は「おんぷう」になります.

そもそも「温風至」は漢文です.日本語で読む形=書き下し文にしたとき,「一字の動詞は必ず和訓」「二字以上の熟語は原則として漢音で音読」が漢文の作法.

https://kambun.jp/izanai/04-06tokucho2.htm

従って,「温風至」の「温風」は,漢文の読み方として「おんぷう」が正しいと言うことですね.

 

▽「温風」を「あつかぜ」と読ませたい気持ちはよく分かります.

「温風」が吹くでは,季節感が感じられないからです.実際,上記日本国語大辞典の②では「あたたかみを感じる春の風」の意味で,これがより一般的な使われ方でしょう.この意味では小暑の初候にはあいません.

季節感に合い,意味もわかりやすくするため,無理矢理,どこにも存在しない訓読み「あつかぜ」と読ませたのだと思います.

清明の初候「玄鳥至る」も,はじめは漢文の法則に則って「げんちょうきたる」だったのに,今は「つばめきたる」とよませるのがウェブ上では一般的です.ただし,こちらは意味をそのままもってきた,他の当て字でもよく見られる訓読み.「おんぷういたる」では,「温風」には「あつかぜ」の意味はないと思われている.

とはいってもぎりぎりOKかとも思います.ただし無理矢理の読み方であることには変わりない.このことは留意しておくべきで,一部のウェブサイト(https://www.premium-j.jp/premiumcalendar/20230707_28230/#page-1)が「おんぷうは間違った読み方」としているのは,論外です.

繰り返しになりますが,「おんぷう」が正しいのですが,現在では意味がわからなくなるので無理矢理「あつかぜ」と読ませたのでしょう.しかし,現代では,温風は「③暖房装置などが送り出す、あたたかい風。」が最も一般的な使われ方でしょう.③の意味と捉えれば「おんぷう」で意味が通じる?

 

▽「至」は「極まる」の意.温風至=「温熱の風がここに至って極まる」

「温風至」の意味が,通常の漢文の書き下し文でわかりづらくなってしまうのは,「温風」の最も古い意味を知らないことに加え,「至」の本来の意味をほとんどの方が知らない/忘れているためかと思われます.少なくとも私は気づきませんでした.

角川新字源の「至」の解説は次の通り.

シ漢呉 [去声]寘 章至 zhì

常用音訓シ/いたる

なりたち甲骨 金文 篆文  指事。矢が地面につきささったさまにより、

「いたる」、ひいて、きわまる意を表す。

意味

❶いたる。類到。 ㋐くる。到着する。類来。 ㋑とどく。ゆきつく。達。

㋒きわまる。このうえない点にまで達する。極。

❷いたり。きわみ。きわまり。極。

❸いたって。このうえなく。はなはだ。「至尊」

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「温風至」の至は,上記「❶㋐くる。」の意味だと思ってしまいますが,「㋒きわまる。」の意味との解説が元の時代にある!

二十四節気72候は,『呂氏春秋』『礼記』など中国のいくつかの書物に記載されてきたとのことですが,元の呉澄による二十四節気七十二候の解説を,日本語に訳している方がおいでです.小暑温風至は次のように訳されています.

https://kodakana.hatenablog.jp/entry/2018/02/25/140841

小暑(しょうしょ)は六月の節気。『説文』に曰く、暑は熱である。熱い時期を分けて大小とし、月初は小、月中は大とする。この時は熱気がまだ小さいからである。

温風至(おんふうし)(温風の至り) 至は極である。温熱の風がここに至って極まるのである。

 

温風至=「温熱の風がここに至って極まる」