昨日訪れた鎌倉英勝寺で,ネジバナに出会いました.
「日本全土の草地や崖などに生え,都市の芝生にも多い」(ニッポニカ)ので,英勝寺の庭にもたまたま生えてきたと考えてよいのですが---
わざわざ移植したものかもしれません.
このお寺の庭師さんは,いわゆる雑草とされるものも残して手入れされていることは明らかなので,気に入った野の花を植えていてもおかしくありません.
花序がねじれている珍しい植物.
「ネジバナ捻花」はわかりやすい名前です.
ネジバナ属 Spiranthesの植物で,この属名 Spiranthesもねじれに由来しているとのこと.「古代ギリシャ語の"a coil" and "a flower"を意味する言葉から」とありました(https://en.wikipedia.org/wiki/Spiranthes).
「ネジバナがねじれるのは、つぼみが後ろ側に反転するからで,左巻きと右巻きがある.その比率は地域によって異なる」そうです(ニッポニカ).
英語の名前はひと味加えられていて---
ネジバナ属の植物は“ladies tresses, ladies'-tresses, or lady's tresses”と呼ばれています.
(https://en.wikipedia.org/wiki/Spiranthes)
tress [trés] ランダムハウス英語辞典
n. 1 ⦅通例 tresses⦆ (特に婦人の束ねてない)長い髪[巻き毛],ふさふさと垂れた髪. 2 (特に婦人の)一房の編んだ髪(plait,braid).
v.t. 〈髪を〉編む,結う tress hair髪を編む.
和名のネジバナは植物の形そのままですが,和名別名はかなり凝った素敵な名前になります.
別名:モジズリ 捩摺
もじ‐ずり【捩摺】 日本国語大辞典
①忍草の葉を布帛に摺りつけて,もじれ乱れたような模様を染め出したもの.また,ねじれ乱れたような模様のある石に布をあてて摺りこんで染めたものともいう.古来,陸奥国(福島県)信夫郡から産出する絹織物の模様として和歌・俳諧に多く歌われている.しのぶもじずり.しのぶずり.
②植物「ねじばな(捩花)」の異名.《季・夏》
「和歌・俳諧に多く歌われている」とありますが,
もじずりが詠われた短歌としては小倉百人一首の歌が有名です.残念ながらネジバナを詠んだ歌ではありませんが.
小倉百人一首14
『古今集』恋四・724
陸奥(みちのく)のしのぶもぢずり誰(たれ)ゆゑに乱れそめにしわれならなくに
https://www.samac.jp/search/poems_detail.php?id=14#:~:text=陸奥のしのぶもじずり
陸奥のしのぶもじずりの乱れ模様のように,私の心は忍ぶ恋のために乱れています.このように乱れはじめたのは誰のせいでしょうか.私ではなくて皆あなたのせいなのですよ.
花序のねじればかりに目がいってしまいますが,ネジバナはとても美しい花だと思います.
英勝寺で出会ったときも,小さい花なのにはっとさせられました.ラン科の花なので,当然と言えるかもしれません.
ネジバナは
なお,ネジバナが属する亜科の名前が,私が調べたところではチドリソウ亜科と呼ばれているようです(もう少し調べて間違えていたら訂正します).しかしチドリソウは,キンポウゲ科のヒエンソウを指すのが一般的だと思います.