鎌倉おんめ様(大巧寺)の小径に,ハマユウ(浜木綿)が咲いていました.
少し花が痛んではいましたが,他にはない花姿は印象的.
万葉集,枕草子にも取りあげられ,古代から目を惹いてきた(湯浅浩史)植物.
柿本人麻呂,清少納言は,花よりむしろハマユウの葉に注目していたようです.
み熊野の 浦の浜木綿百重(ももへ)なす心は思へどただに逢(あ)はぬかも 柿本人麻呂 (万葉集 巻四 四九六)
枕草子 63段
草は菖蒲(しょうぶ).菰(こも).葵(あおい),いとをかし.-----
山菅(やますげ).日かげ.山藍(やまあい).浜木綿(はまゆう).---
ただし,花に注目した「浜に咲く白い幣(ぬさ: 木綿ゆうでつくられた)」説が,ハマユウの語源として有力とされています.
日本国語大辞典では,
「和名は、白色の葉鞘を白い幣(ぬさ)にたとえたもので、」(「はまゆう 浜木綿」の解説)
とし,幣(ぬさ)の項で
「ぬさ【幣】 神に祈る時にささげる供え物。麻・木綿ゆう・紙などで作った。後には織った布や帛はくも用いた。----後世、紙を切って棒につけたものを用いるようになる。」(「ぬさ 幣」の解説)
「ゆう【木綿】 楮こうぞの樹皮をはぎ、その繊維を蒸して水にさらし、細かにさいて糸としたもの」(「ゆう 木綿」の解説)
としています.
改めて
冒頭に記した柿本人麻呂の短歌について,山田卓三先生の「万葉植物つれづれ(大悠社)」の記事を転載します.
み熊野の 浦の浜木綿百重(ももへ)なす心は思へどただに逢はぬかも 柿本人麻呂 (万葉集 巻四 四九六)
「熊野灘の海岸に生える浜木綿のように,幾重にも繰り返しあの人のことを思うが逢うことができない」というものです.
浜木綿は,海岸の灼熱の太陽の下に生え,厚い根性葉( 地上茎の基部についた葉のことで、地中の根から葉が生じているように見える)が幾重にも茎を抱き,見るからに力に満ちているたくましい植物ですが,花は柔らかく優しい感じがします.
この歌は,これを熱烈な恋心に託しています.
ハマユウは関東南部以西の海岸に自生する常緑の多年草で,葉の基部の白い葉鞘(葉柄の基部が発達して鞘状となり茎を抱擁または包囲する部分)が重なり,太い円柱形の茎をなしています.
夏に花茎を伸ばし,白い花をつけます.花は夕方開き,夜中に全開して強い芳香を放ちます.
果実は球形で,おおきな種子が数個入っています.
別名ハマオモトで,これは浜に生えるオモト(万年青)の意です.