昨日取り上げた早春の花のうち,スミレ,タンポポ,ミツマタ,コブシは名の知られた歌人により短歌に詠われています.今日はその内のいくつかを転載させていただきます. 浅茅原ゆくへも知らぬ野辺に出でてふるさと人はすみれ摘みけり/ 源実朝  君の指す君の耕地を風わたり緑の沼雪なすみつまたの花/ 三国 玲子  清浄と喪のごとく咲く花白し谷のこぶしに舞ふ春の雪/ 武川 忠一 

昨日取り上げた,鎌倉中央公園の早春の花.

古今短歌歳時記(鳥居正博 教育社)によれば,スミレ,タンポポミツマタ,コブシは名の知られた歌人により短歌に詠われています.

それぞれかなりの数の歌が取り上げられていますが,思ったより少ないと感じたのがスミレ.山部赤人源実朝以下,余りに高名な歌人に歌われているため,後世の人が遠慮してしまったのでしょうか?

 

今日はその内のいくつかを転載させていただきます.

 

なお,万葉集にある「三枝(さきくさ)」は,ミツマタを指しているとされてはいますが,古今和歌歳時記によれば,「ヤマユリジンチョウゲ,ササユリ説もあり,ササユリ説が有力」とのこと.

 

 

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春の野にすみれ摘みにと来しわれぞ野をなつかしみ一夜寝にける (万葉集・八・一四二四)  山部赤人

 

 

浅茅原(あさじはら)ゆくへも知らぬ野辺に出でてふるさと人はすみれ摘みけり (金槐集・春・四二)一二一三? 源実朝

 

 

かの世阿弥あきらめきれず老いゆきし春の小さきつぼすみれはも (雪木せつぼく)一九八七  馬場あき子

 

 

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多摩川の砂にたんぽぽ咲くころはわれにもおもふひとのあれかし (路上)一九一二  若山牧水

 

 

雨霽(は)れてつよき陽のなかのたんぽぽの花のつむ葉のしなしなと揺る (乳鏡にゅうきょう)一九五九  田村 鋭

 

 

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春さればまづ三枝(さきくさ)の幸くあれば後にも会はむな恋ひそ我妹(わぎも) 万葉集・一〇・一八九五)  (柿本人麻呂歌集)

 

 

君の指す君の耕地を風わたり緑の沼雪なすみつまたの花  (花前線)一九六五  三国 玲子

 

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春さむき辛夷の花はこの沼の水にしづきて散りがてにせり (寒雲)一九四〇  斎藤 茂吉

 

 

清浄と喪のごとく咲く花白し谷のこぶしに舞ふ春の雪 (青釉)一九七五  武川 忠一