ロシアによるウクライナ侵略について大量の報道がなされる中から,少し視点が異なった記事を二つ. 人のすること / 師岡カリーマ(東京新聞) 戦争やそれに準ずる憎しみは,人間から信じがたい狂気と暴力性を引き出す.だから,戦争はもう絶対に起こしてはならないのだ. きれいごとでも理想論でもない.高度に洗練された外交理念だ. 敗戦への備え/フランシス・フクヤマ(AMERICAN PURPOSE)1. ロシアはウクライナで完敗に向かっている.8. 今回の侵攻は,世界中のポピュリストに大きなダメージを与えた.----

新型コロナの報道に代わって,ニュースのトップがロシアによるウクライナ侵略となっておよそ二ヶ月.

大量の報道がなされる中から,少し視点が異なった記事を二つ取り上げます.

 

一つは東京新聞「本音のコラム」師岡カリーマさんの“人のすること”.

もう一つは,American PurposeのFrancis Fukuyamaによる“Preparing for Defeat”(敗戦への備え).

 

師岡カリーマさんは差別への鋭い指摘が群を抜いている方.東京新聞の記事はその通りと全面的に支持したいと思います.

またフランシス・フクヤマは著名な政治学者.内容の正しさについて私には全く評価する力はありませんが,彼の「予言」通りであってほしいと思う部分が少なからずあります.

 

人のすること

師岡カリーマ

東京新聞 2022年(令和4年)4月23日 朝刊

「ロシア人は人間じゃない」「奴らは獣だ」.

ウクライナの人々が侵攻軍の蛮行を見て,テレビカメラの前でこう吐き捨てる気持ちは十分理解できる.

でも毎日のようにそれをそのまま放送する各国メディアには,やや違和感を覚える.誰かを憎みたくて,誰かを差別したくてウズウズしている人々に,材料を提供するようなものでは.

 

 ホロコーストは,ナチス時代にドイツ人が主導した.ベートーヴェンゲーテを生んだ国だ.

その主な犠牲者はユダヤ人だが,イスラエルではユダヤ人が人権侵害をくり返す側にいる.

その犠牲者はアラブ人であるパレスチナ人だが,アラブ同士も内戦などで互いに酷(ひど)いことをする.

アメリカは原爆を二個も投下し,日本人もアジアで非道を働いた.

そしてアジア各地では---.

「人じゃない」?

いやこういうことは人しかしない.獣と言っては獣に失礼だ.

 

 戦争やそれに準ずる憎しみは,人間から信じがたい狂気と暴力性を引き出す.だから,戦争はもう絶対に起こしてはならないのだ.

きれいごとでも理想論でもない.高度に洗練された外交理念だ.

 

 白人の征服者が南米で犯した蛮行を,同行した神父は「これが人のすることか」と言った.歴史としてこれを語るのは別の話.

今,特定の国民に関し「人にあらず」といった差別的な言葉の拡散は,たとえ引用でも避けるべきでは.

(文筆家)

 

 

 

Preparing for Defeat

Francis Fukuyama

AMERICAN PURPOSE 10 Mar 2022

https://www.americanpurpose.com/blog/fukuyama/preparing-for-defeat/

www.americanpurpose.com

(以下,DeepL翻訳)

敗戦への備え

フランシス・フクヤマ

2022年3月10日

私は今,北マケドニアスコピエからこれを書いている.先週から私は,リーダーシップ開発アカデミーのコースの一つを担当しているのだ.ウクライナ戦争を追うことは,私が隣接する時間帯にいることと,ヨーロッパの他の地域よりもバルカン半島プーチンへの支持が多いことを除けば,入手可能な情報の点ではここでも変わりはない.後者の多くは,セルビアと,セルビアスプートニクをホストしていることに起因している.

 

私は首を突っ込んで,いくつかの予言をしておこうと思う.

 

1. ロシアはウクライナで完敗に向かっている.ウクライナ人はロシアに好意的であり,侵攻すれば直ちに軍隊は崩壊するという誤った前提に基づいたロシアの計画は無能であった.ロシア兵はキエフでの勝利のパレードのために,余分な弾薬や食糧ではなく,ドレスユニフォームを持っていたことが明らかである.プーチンはこの時点で全軍の大部分をこの作戦に投入しており,戦闘に追加して呼び出せるような膨大な予備兵力はない.ロシア軍はウクライナの各都市の郊外で立ち往生しており,膨大な補給の問題とウクライナの絶え間ない攻撃にさらされている.

 

2. 彼らの陣地が崩壊するのは,消耗戦によってゆっくりと起こるのではなく,突然,壊滅的なものになる可能性がある.野戦軍は,補給も撤退もできない地点に達し,士気は蒸発する.少なくとも北部ではそうである.南部ではロシア軍はよくやっているが,北部が崩壊すればその陣地を維持するのは難しいだろう.

 

3. そうなる前に,戦争に対する外交的解決策はあり得ない.ロシアとウクライナの双方が,現時点での損失を考えると,受け入れ可能な妥協案はないだろう.

 

4. 国連安全保障理事会が役に立たないことがまたもや証明された.唯一役に立ったのは,世界の悪しき,あるいは前衛的な行為者を特定するのに役立つ総会の投票であった.

 

5. バイデン政権が飛行禁止区域を宣言せず,ポーランドのミグを譲渡する手助けをしなかったことは,いずれも良い決断だった.非常に感情的な時期に,彼らは冷静さを保った.ウクライナ人が自力でロシア人を打ち負かす方が,NATOが攻撃したという口実をモスクワから奪い,明白なエスカレーションの可能性をすべて回避することができるのだ.特にポーランドのミグは,ウクライナの戦力にはならないだろう.それよりも,ジャベリン,スティンガー,TB2,医療品,通信機器,情報共有の継続的な供給の方がはるかに重要だ.ウクライナ軍はすでに,ウクライナ国外から活動するNATOの情報機関によって誘導されているのだろう.

 

6. もちろん,ウクライナが払っているコストは莫大だ.しかし,最大の被害はロケット弾と大砲によるもので,ミグも飛行禁止区域もたいしたことはできない.虐殺を止める唯一のものは,地上でのロシア軍の敗北である.

 

7. プーチンは自軍の敗北を生き延びることはできないだろう.彼は強者だと思われているから支持を得ている.無能さを示し,強制力を奪われたら,何を提供できるだろうか?

 

8. 今回の侵攻は,世界中のポピュリストに大きなダメージを与えた.彼らは侵攻前,一様にプーチンへの同情を表明していた.マッテオ・サルヴィーニ,ジャイル・ボルソナロ,エリック・ゼムール,マリーヌ・ルペン,ヴィクトール・オルバン,そしてもちろんドナルド・トランプがそうだ.戦争の政治は,彼らの公然たる権威主義的傾向を暴き出した.

 

9. ここまでの戦争は,中国にとって良い教訓となった.ロシアと同様,中国もこの10年で一見ハイテクな軍備を整えたが,戦闘経験は皆無に等しい.ロシア空軍の悲惨な成績は,同様に複雑な航空作戦を管理した経験のない人民解放軍空軍でも再現される可能性が高い.中国指導部が,将来台湾への攻撃を考えたとき,ロシアと同じように自らの能力を欺くことがないよう願うことができる.

 

10. 願わくば,台湾自身が,ウクライナのように戦う準備をする必要性に目覚め,徴兵制を復活させたいものだ.早まった敗北主義者にならないようにしよう.

 

11. トルコのドローンはベストセラーになるだろう.

 

12. ロシアの敗北は,「自由の新たな誕生」を可能にし,世界の民主主義の衰退状態に対する我々の不安を解消してくれるだろう.1989年の精神は,勇敢なウクライナ人たちのおかげで生き続けるだろう.