イアン・ブレマー2  “私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く” NHK Eテレ 「普通の市民にも責任があるということ.自分事として関わり,世界で起きていることを理解するという責任です.そして声を上げるべきです」「4週間の間に起きたことを見て,『問題ない.これからも大丈夫だ』と言える人はいません」 “時計の針を戻すことはかなわない絶望の中で,それでも希望は私たちが語り続け行動することにあると,アレクシエービッチさんは語りました”

ウクライナ侵攻が変える世界  私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く」

NHK Eテレ 初回放送日: 2022年4月2日

 

イアン・ブレマー2

(+「それでも希望は」 スベトラーナ・アレクシエービッチ)

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「ウクライナ侵攻が変える世界 私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く」 - ETV特集 - NHK

道傳「あなたは,『キューバ危機から60年たって,我々は何も学んでいない』とツイートしましたね.アメリカが学べていないことは何ですか?」

ブレマー「まず6000発の核弾頭という存亡に関わる脅威を削減する方法を見いだしていません.これらはアメリカにもロシアにも一発たりとも使用させてはならないものです.この30年間,世界は核の危機が再び起きることは基本的にはないだろうと考えてきました.ずっとそう,ふるまってきました.しかし,いまやそんな時代ではありません.その可能性はあるのです.

ロシアによる黒海からのミサイルが1000キロ離れたポーランド国境に近いリビウを直撃しました.ロシアのミサイルがNATO加盟国を攻撃しないといくらなら賭けますか?そんな賭けはできないはずです.つまり,このような恐ろしい核兵器がある環境に私たちは存在しているのです.

民間人に悪意を持って投下されたのは2回だけ.いずれも日本に対してです.もう二度とあのようなことを起こしてはならないと,みんなが理解しているはずです.しかし,二度と起きないようにするために私たちはこの60年間,何もしてこなかったのです.

私たちは軍備縮小に真剣に取り組んできませんでした.最悪の状況を回避するための軍縮の合意は,ソ連が崩壊したときより数が減っています.そしてこう受け止める国があると思うのです.核兵器は役に立つ.『ウクライナも核があればロシアによる侵攻を防げたはず』『我々にも核兵器が必要だよね』と.この状況において核兵器はさらに有益になったと.

しかし,そんな会話はしてはならない.恐ろしく危険です.

 

道傳「多くの命が犠牲となっている今回の悲劇から,私たちが教訓とすべきことはなんでしょういか?」

ブレマー「一つは,既に述べたとおり,敵を侮辱しないということです.もう一つは,教訓から学んでより効果的に国々を統合すること

ソビエト連邦が崩壊したとき,ロシアのための復興支援計画はありませんでした.それは失敗でした.いわば,ショック療法だけで,経済の立て直しや,新たな政治システムを作る支援はしなかったのです.東欧諸国のように支援しなかった.それは失敗でした.

やっても無駄だったかもしれません.でもそもそもやろうともしなかったのです.そのことは,プーチンの現在の姿を見るといかに大きな間違いだったかがわかります.

また,ならず者の国家が容認しがたい振る舞いをしたとき,それがたとえGゼロの世界だったとしても,国際社会は対応し,自分達の基準を示すべきです.

でも,これまではやってきませんでした.その点はGゼロに責任があります.アメリカは世界の警察官になりたくない.グローバルな貿易をリードしたくいない.グルーバルな価値観を広めたくない.アメリカが重要視していない国でロシアが行動を起こしても見逃されるのです.

数十年にわたって,このGゼロ問題は深刻化しています.そして,ロシアはこの脆弱さを悪用しているのです.これも大きな失敗です.」

 

道傳「最後の質問ですが,あなたは最近,ニュースレターで,ウクライナ人のツイートを引用していました.

『あなたがウクライナのニュースを読み,拡散しているなら,あなたはレジスタンスに参加している』という内容でした.あなたの伝えたかったメッセージは何ですか?」

ブレマー伝えたかったのは,普通の市民にも責任があるということ.自分事として関わり,世界で起きていることを理解するという責任です.そして声を上げるべきです.

あまりにも長い間,もう何十年も,市民の多くが受け身でありすぎました.

私には関係ない.ここでは起きない.私にはどうでもいいことだ.

その結果,国際的なのけ者,悪党,殺し屋が人類を破滅させる余地を増やしたのです.

私は,人生を賭けて,世界がどこへ向かっているのかを人びとが理解できるように取り組んでいました.

このような危機の時代,あなたに発信する場があるなら,声を上げる義務があります.地球をよくするためにです.もっと多くの人がこのことを理解する必要があります.」

 

道傳「今回のインタビューを受けたのも,その思いからですか?」

ブレマー「そうですね.わたしは政治学者ですから,人びとが地球のことを理解するための手助けをすることを大事に思っています.

私がGゼロについて書いたのは10年前のことです.今,それが本当でなければよかったのにと思います.でも私は,自分が心地よいことだけを書けばいいという,贅沢な立場にはないのです.

今,私たちの立ち位置は?これから何が起こるか?人びとに伝える義務があると思っています.

今,私の顧客は,ビジネスに必要な知見だけではなく,自分の子どもにどう説明すべきかを聞きに来るんですよ.友人や家族にどう話したら良いのか,心配なのです.世界は今,金儲けよりもっと深い不安の中にあるのです.それは,自分が暮らすこの地球についての不安です.持続可能なのか.どこへ向かっているのか.

この4週間の間に起きたことを見て,『問題ない.これからも大丈夫だ』と言える人はいません.」

 

道傳「有り難うございました」

 

 

 

私たちが目撃している,この現実の背後には何があるのか.

3人の話から見えてきたことは,ソビエト崩壊から30年の間の無関心と不作為の積み重ねでした.

時計の針を戻すことはかなわない絶望の中で,それでも希望は,私たちが語り続け行動することにあると,アレクシエービッチさんは語りました.

 

アレクシエービッチ「これは長い戦いなのです.人間社会は、三つのゾーンに分かれています.

一つはアクティブゾーン.つまり行動する人です.一方で彼らに反対する人もいます.

そして,いわゆる『グレーゾーン』があります.どっちつかずの人たち.このゾーンが一番大きい.

こういうときには物陰に隠れてやり過ごそう.自分の生活の質さえ変わらなければいいという人たち.

私たちは,この人たちと対話する術を学び取らなければなりません.

ジャーナリズムは真実を語り,このグレーゾーンに働きかけなければなりません.グレーゾーンが広がるのなら,私たちが目指す未来は訪れません.」