ジャック・アタリ2 ”私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く”NHK Eテレ   “いま起こっているのは,前世紀からの冷戦の最後の残骸なのだ.私たちは,最悪の事態を避けるために冷静さを保つべきだ.” 「ロシアの人たちに.これでは何も勝ち得ないことを理解させるのです.そして民主主義へシフトすることが最善策だと理解させるのです.彼らを侮辱したり悪者にはせず,民主主義と市場経済が自分達の利益になると説明するのです.」

ウクライナ侵攻が変える世界  私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く」

NHK Eテレ 初回放送日: 2022年4月2日

 

ジャック・アタリ2 

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「ウクライナ侵攻が変える世界 私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く」 - ETV特集 - NHK

ジャック・アタリ

”私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く”NHKEテレ  「最悪の事態がいつもおこりうることを忘れてはなりません」「起きていることは,明らかにロシアの利益に反しています.ロシアは長期にわたって孤立することになり,ロシアは貧しくなる.破産するでしょう」「全体主義の国々が民主主義に向かわないかぎり,私たちは戦争の危機にあります」「ネガティブにならない.どんな交渉のチャンスも逃さないこと. ウクライナやロシアなどの国で抵抗する勇気のある人たちを支援すること」

 

 

1989年,ベルリンの壁が崩壊.東欧諸国が次々と市場経済に移行し,民主化に動き出します.アタリさんは、フランス,ミッテラン大統領に東欧の復興や開発を支援する銀行(欧州復興開発銀行)の設立を提言.その後,初代総裁に就任し,崩壊へと向かうソビエトを巻き込みながら,新たなヨーロッパを構築しようと模索を続けました.

道傳「あなたが初代総裁と欧州復興開発銀行(EBRD)設立の話が出ましたが,今回のような危機こそあなたが全力で防ごうとしたものだったのではないですか?」

「ええ,私はEBRDのアイデアを思いついたことを誇りに思っています.当時のフランス大統領フランソワ・ミッテランとともに設立のための活動を開始し,パリで協議を行い,速やかに協定を締結しました.

アメリカがソ連,後のロシアと交渉することをよく思わないなかで,私たちが押し切ったのです.アメリカはロシアを民主主義陣営に引き入れることに後ろ向きでした.この銀行では,国際機関として初めて民主主義に関わる融資条件があり,民主主義に向かっていない国には融資をすべきではないとされました.それにロシアも同意していました」

 

道傳「私は,ヨーロッパに責任があると非難するつもりはありませんが,EBRDにはロシアなどの国の懸念や不満を受け止める役割もあったはずではないですか?

我々が現在直面しているようなリスクに発展する兆候は,当時ありましたか?」

アタリ「そうですね.洞察力をもってすれば,我々はもっとできたはずです.EUに加盟したいというメッセージが20年前にクレムリンから届いたはずです.確かにあったはずです.

クレムリンが加盟したいと言い続けていたら,法に支配,腐敗政治からの脱却,完全な民主化への意欲を見せていたのなら,ヨーロッパはロシアを歓迎したでしょう.ロシアが民主化の方向へ進めば進むほど,ヨーロッパは受け入れやすくなったはずです」

 

道傳「冷戦の終結が持続的な平和を意味していたわけではないのに,人びとの注目は,中国など他のことに注がれるようになりました.まるでロシアは2番手の国であるかのようでした」

アタリまず説明させて下さい.我々のやったこと全てが失敗だったわけではありません.というのも旧共産圏の国々の多くは民主化を果たし今やヨーロッパの国の一部となりました.ハンガリーポーランドチェコスロバキアルーマニアブルガリアなどの国々です.

そして,なぜ,ロシアが民主化ができなかったか?それはロシアが巨大な国だからです.ロシアでは,支配階級の素行が悪く,西側諸国が介入しづらかったのです.

また,アメリカという国は,常に敵を必要としていました.中国はアメリカの敵とされていますが,私の考えでは,当初,中国は敵国という存在からはほど遠く,アメリカの敵にはなり得ませんでした.

それで,アメリカは危機に陥りました.少なくとも軍産複合体は危機に陥りました.議会から軍事予算を得るためには脅威が無くてはなりません.そこでロシアの存在が必要なのです.軍産複合体クレムリンの過激派の中に利害関係が一致する人たちがいるのです.」

 

 

アタリさんは,3月,自らのホームページで,ロシアの人びとを歓迎しようという文章を公開しました.

“いま起こっているのは,前世紀からの冷戦の最後の残骸なのだ.私たちは,最悪の事態を避けるために冷静さを保つべきだ.”

 

 

道傳「冷戦の終結ソビエトの崩壊について話してきましたが,現在,我々が見ているのは,ポスト冷戦の終わりだと言えますか?」

アタリいま私たちが見ているのは,冷戦の最後の出来事だと思います.というのも,ポスト冷戦など実際にはなかったのです.双方とも6000発の核兵器保有しています.そして,ロシアは西側と同盟を結んだことはありません.

冷戦は終わることがなかったのです.これは冷戦のクライマックスの一つです.冷戦の終結はもう少し先のことかもしれません.」

道傳「冷戦が終わっていないとしたら,私たちは何に備えればいいのでしょうか?」

アタリ「今回の悲劇を通して,人びとが理解を深めることで,冷戦が終わりに向かうことを期待すべきです.冷戦では双方が負けて得るものは無い.失うものばかりです.そして,現代においては,それは大惨事を生みかねません.ですから,最善のシナリオは,今回の危機で,人びとが今度こそ冷戦を終わらせなくてはと気づくことです.

そのためには,西側でもロシアでも,全ての人の行動の変革が必要です.」

道傳「それはどのようにしてできますか?」

アタリ「ロシアの人たちに.これでは何も勝ち得ないことを理解させるのです.そして民主主義へシフトすることが最善策だと理解させるのです.

彼らを侮辱したり悪者にはせず,民主主義と市場経済が自分達の利益になると説明するのです.」

道傳「それは,ほぼ,あなたの『利他主義』の哲学ですね?」

アタリ「ええ,まさにそれです.『利己的な利他主義』と私が呼ぶものです.西側にとってロシアに民主化を働きかけるのは自分達のためにもなる.そして,ロシア人にとって,民主主義に加わることは,自分達の利益にもなるのです.

ロシアのオーケストラや音楽をボイコットするのは馬鹿げています.もっと歓迎して上演して彼らを理解すべきです.もちろん,クレムリンがバックにいる音楽家のことではありません.それ以外の音楽や演劇や文学をもっと深く知るべきです.両手を広げて彼らを一緒に何かをするのです」

道傳「わかりました.どうも有り難うございました.この困難な時期を乗り越えるため,いただいたお言葉を大切にしたいと思います.」

アタリ「お話しできてよかったです.私が話したことをどうぞ役立てて下さい」

「有り難うございました」「有り難うございました」