NHK ETV特集「緊急対談 パンデミックが変える世界 〜海外の知性が語る展望〜」
パンデミックとなった新型肺炎(新型コロナウイルス,cobid-19)。都市の封鎖や大量死が連日報じられている今、人類は大きなチャレンジを突きつけられている。世界はどう変わるのか。人類は今後どこに向かうのか。歴史学、政治学、経済学の各分野で独自の思想を展開する世界のオピニオンリーダーたちに徹底的に尋ねていく緊急特番。【出演】ユヴァル・ノア・ハラリ,イアン・ブレマー,ジャック・アタリ,道傳愛子
[Eテレ] 2020年4月11日(土) 午後11:00~午前0:00(60分)
https://www.nhk.jp/p/etv21c/ts/M2ZWLQ6RQP/episode/te/PVVG5MVMGG/
3人目はフランスから.ヨーロッパを代表する知性,ジャック・アタリ.経済学者で,歴代の政権の顧問を務めました.
アタリ氏は,グローバル化の中で世界が直面する様々な危機について,これまでも警鐘を鳴らしてきました.
(4月1日収録)
道傳「今日は時間をとってくださってありがとうございます.ご家族の安全の心配など,やるべき事が多くてお忙しい時間ですよね」
アタリ「そうですね.そちらも同じでしょう」
アタリ氏は,11年前の著書で,未知の感染症によるパンデミックが起こる危険性を警告していました.(「危機とサバイバル」 2009年)
“市場のグローバル化や自由な流通により,今後10年間で破滅的なパンデミックが発生する恐れがある.パンデミックは,多くの個人・企業・国家のサバイバルにとって,非常に大きな脅威である”
道傳「あなたは,パンデミックが起きると2009年に警告しています.今回のことは驚くにあたらない.予告した通りのことが起きたとお考えですか?」
アタリ「ええ,10年前,確かにパンデミックのことを書きました.確率が低くても,そうした声には耳を傾けるべきだし,リスクが高いときには行動を起こすべきなのです.私たちの生きている時間は短いのですから」
道傳「このパンデミックは,私たちに何を警告しているとお考えですか」
アタリ「多くのことです.衛生,社会の透明性,そして,パンデミックの警告を世界で共有するルール作りの重要性について」
道傳「パリでは,都市の封鎖が実施されていますが,感染拡大が収束する兆しは依然見えていません(4月1日現在).パリ市民はこの困難にどう対処していますか」
アタリ「フランスは規律を守る中央集権型の国家で,政府がひとたび決定すれば,皆,最善を尽くします.もちろん,とても困難な状況ではありますが.
日本やフランスでも多くの人たちが今もなお任務についていることに感謝したいと思います.医療や食料品,流通,メディアなど,仕事をしている大勢の人が家の外へ働きに出ています.例えばゴミの回収や病院の清掃を行う人などもそうです.彼らは私たちの都市が生き延びる上で絶対的に必要な仕事を担っています.
また,社会階級や社会的要求の違いによっては困難も生じます.都市が封鎖されて家に閉じ込められても,裕福な人は家にいれば良いでしょう.しかし,狭い場所に詰め込まれる人にとっては困難が伴います」
アタリ氏は,3月半ば,自らのサイトでこのパンデミックの及ぼす深刻な影響を分析しています.
“今,世界を襲っている危機を乗り越えることほど,緊急の課題はない.
もし,国家がこの悲劇をコントロールできないと証明されてしまったら,市場と民主主主義というメカニズムは崩壊してしまうだろう”
道傳「経済学者であるあなたから見て,世界経済に与える打撃はどれほど深刻になると思いますか?」
アタリ「最悪に事態を避けるためには,最悪を予想する方が良いと思います.
私たちは,今,1929年(大恐慌)以降,最悪の危機に陥っており,2008年(金融危機)と比べても遙かに深刻です.世界経済の損失はGDPで20%に及ぶかもしれません.プラス1%とか,マイナス1%ではなく.
もちろん,これは,世界経済の最も重要な牽引力の一つであるアメリカが,ほとんど備えなしに,この危機的事態に突入していることと明らかに関係しています.
この損失は,決して小さくは済まないでしょう.
もちろん,各国の政府は状況を改善するために,中央銀行による金融政策,思い切った財政など,できることは全てやっています.うまくいっているかどうかはともかく,世界中で多くの支援が行われていることは確かです.
ただ,それは結果を先延ばしにしているに過ぎません.
レストラン,ホテル,店舗,スタジアムや航空業界など,人々が集まることが予想される業種は,とても大きな影響,10%などではなく,60%,あるいはそれ以上の影響を受けるでしょう」
道傳「とても怖ろしい見通しですね.あなたはさらに第2波,第3波にも備えるように警告されています.この状況は,あとどれぐらい続くのでしょうか?」
アタリ「分かりません.私は医者ではないので.
ただ,過去の例を見るとパンデミックの最初の波が封じ込めや都市封鎖によってうまく収束したときに,外出して感染するという間違いを多くの人が犯しています.1918年のヨーロッパでスペイン風邪と呼ばれた伝染病(起源は現在でも不明.ヨーロッパへはアメリカ軍が持ち込んだとされる)が蔓延しました.
第一波ですでに多くの犠牲者を出しましたが,外出するタイミングが早すぎて,第2波では更に多くの犠牲者を出してしまいました」
道傳「私たちは医者でもなければ,未来を占う水晶玉も持ち合わせていません.ですが,コロナ語の世界はどうなっているでしょうか.最悪のシナリオとは」
アタリ「最悪のシナリオは,世界的な恐慌,失業,インフレ,ポピュリストによる政府の誕生.そして,長期不況による暗黒時代の到来です.
そうならないとは思いますが,最悪のシナリオが起こるとすれば,さっき言ったように,早く外出しすぎて第2波に遭遇し,経済に打撃を受けると言うことでしょう.
他にも非常に悪いシナリオが起こり得ます.
新しいテクノロジーを使って国民の管理を強める独裁主義の増加です.例えば中央ヨーロッパでハンガリーの政府がしたように,パンデミックを独裁主義に向かうための口実にするのです.それがもう一つの脅威です.
さらに経済,健康,そして民主主義への脅威もありますね」
道傳「緊急事態が民主主義に与えるインパクトについてお尋ねします.緊急時になると,例え民主的な指導者であっても前例のない権力を手に入れることがあります.
大衆も厳しい政策を支持することがあります.それは,民主主義にとってどのような意味を持つでしょうか」
アタリ「確かに,安全か自由かという選択肢があれば,人は必ず自由でなく安全を選びます.それは,強い政府が必要とされることを意味します.
しかし,強い政府と民主主義は両立しうるものです.
第二次世界大戦のさなかのイギリスが良い例です.強力な政府を持ちながら民主主義でもありました」
続く