ジャック・アタリ1 ”私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く”NHKEテレ  「最悪の事態がいつもおこりうることを忘れてはなりません」「起きていることは,明らかにロシアの利益に反しています.ロシアは長期にわたって孤立することになり,ロシアは貧しくなる.破産するでしょう」「全体主義の国々が民主主義に向かわないかぎり,私たちは戦争の危機にあります」「ネガティブにならない.どんな交渉のチャンスも逃さないこと. ウクライナやロシアなどの国で抵抗する勇気のある人たちを支援すること」

ウクライナ侵攻が変える世界  私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く」

NHK Eテレ 初回放送日: 2022年4月2日

 

2. ジャック・アタリ

f:id:yachikusakusaki:20220409234005j:plain

「ウクライナ侵攻が変える世界 私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く」 - ETV特集 - NHK

 

インタビュー二人目は,ヨーロッパを代表する知性の一人,経済学者で思想家のジャック・アタリさん.

フランスの歴代大統領の政策顧問を務めた彼に,何故,ヨーロッパとロシアの距離が縮まらないのか聞いてみたいと思いました.

 

道傳「おはようございます.アタリさん.ご機嫌いかがですか?」

アタリ「とてもよいです」

道傳「それは何よりです.お目にかかれてうれしいです」

 

アタリさんは,以前から,世界大戦を引き起こす危機が地球上にはいくつもあると,警鐘を鳴らしてきました.

 

道傳「ロシアのウクライナ侵攻について,あなたは6年前に著書で警鐘を鳴らしていました.世界大戦の危険性にも言及していました.いま,私たちが目撃していることは,あなたが恐れている以上のことだと言えますか?」

アタリ「未来を予測し,過去を振り返ろうとするとき,最悪の事態がいつもおこりうることを忘れてはなりません.歴史が悲劇をくり返してきたように,大惨事の可能性を排除してはならないのです.人類はこれまでにたくさんの悲劇をくり返してきました.ですから,今回のことも起きる可能性はありました.そして,今後起きうる更にひどいシナリオを想定するのも簡単なことです.

例えば,キーウ(キエフ)の全面爆撃が行われ,国々も破壊される,でもNATOの範囲外だからと民主主義国家が動こうとしない.それによって,クレムリンは西側諸国を弱腰と捉えるかもしれない.そして,西側諸国は核兵器を使うだろうかと考えながら,バルト三国を攻撃するかもしれない.

それが中国に影響して,『台湾にも同じことをしていいのでは』と思わせるかもしれません.そして,中国が台湾に侵攻した場合,アメリカが核兵器を使用するのかどうか.

アメリカが何もしなかった場合,今度は日本がアメリカには守ってもらえないと考えるようになる.そして日本も自営のために核兵器保有を主張する.

これらが今後起きうる最悪のシナリオです」

 

 

道傳プーチンが予想しきれなかったことの一つが,ロシア国内からの抵抗かもしれません.クレムリンの内情はどんな状況と言えますか?」

アタリ「戦争が始まって以来,起きていることは,明らかにロシアの利益に反しています.ロシアは長期にわたって孤立することになり,ロシアは貧しくなる.破産するでしょう.ロシア国民は,多くの富を失い,世界とのつながりを失うでしょう.つまりロシアにとって,よいことは何もないのです.」

 

 

道傳「この事態で,地政学が大きく変わる可能性があると考えますか?」

アタリ地政学の変化ではありません.これまでも存在していた“蛇の結び目”のクライマックスを迎えたと言えるでしょう.私たちの頭上には何千もの核兵器があります.ロシアは控えめに言っても民主主義の世界の仲間入りをしたとは言えません.中国もです.

全体主義の国々が民主主義に向かわないかぎり,私たちは戦争の危機にあります.

忘れてはならないのは,民主主義の国家間で戦争は一度も起きていないということです.

しかし,全体主義体制にとって,民主主義は脅威です.それが戦争を仕掛ける強い理由になります.民主主義の方がよいと国民に気づかせるから脅威なのです.」

道傳「では,その結び目を解くには何が必要でしょうか?」

アタリ「ネガティブにならない.悲観的になりすぎない.弱気にならないこと.どんな交渉のチャンスも逃さないこと.

そして,ウクライナやロシアなどの国で抵抗する勇気のある人たちを支援すること.この状況下でリスクを負う,勇敢なロシア人を歓迎すること.ロシアや中国の人たちの気持ちが変わるよう,できる限りのことをすること.私たちは敵ではないことを気づかせ,民主主義の方がよいと思ってもらえるようにすること」

 

 

道傳「あなたはずっと,私たちがロシアやロシアの人びとの味方になるべきだと主張してきました.今でもそのようにお考えですか?」

アタリ「はい,私はロシアはヨーロッパであるべきだと思います.少なくとも領土の一部は.そして,民主的なロシアは,EUに歓迎されるべきと考えます.

実際,私が桜集復興開発銀行の構想を思いついた当時,私も西側諸国の多くも,ロシアを民主化へ導きたいと考えていました.して私たちは最善を尽くしました.」

 

1989年,ベルリンの壁が崩壊.東欧諸国が次々と市場経済に移行し,民主化に動き出します.アタリさんは、フランス,ミッテラン大統領に東欧の復興や開発を支援する銀行(欧州復興開発銀行)の設立を提言.その後,初代総裁に就任し,崩壊へと向かうソビエトを巻き込みながら,新たなヨーロッパを構築しようと模索を続けました.

 

道傳「あなたが初代総裁と欧州復興開発銀行(EBRD)設立の話が出ましたが,今回のような危機こそあなたが全力で防ごうとしたものだったのではないですか?」

アタリ「ええ,私はEBRDのアイデアを思いついたことを誇りに思っています.当時のフランス大統領フランソワ・ミッテランとともに設立のための活動を開始し,パリで協議を行い,速やかに協定を締結しました.

アメリカがソ連,後のロシアと交渉することをよく思わないなかで,私たちが押し切ったのです.アメリカはロシアを民主主義陣営に引き入れることに後ろ向きでした.この銀行では,国際機関として初めて民主主義に関わる融資条件があり,民主主義に向かっていない国には融資をすべきではないとされました.それにロシアも同意していました」

 

道傳「私は,ヨーロッパに責任があると非難するつもりはありませんが,EBRDにはロシアなどの国の懸念や不満を受け止める役割もあったはずではないですか?

我々が現在直面しているようなリスクに発展する兆候は,当時ありましたか?」

 

続く