「国連総会ではワクチン格差が議題となった.接種完了者が1%に満たない貧困国がある中,先進国で進む追加接種は必要か.必要だとして,いつ,誰を対象にすべきか.感染予防と重症化予防の両面を考え合わせる必要がある」青野由利(毎日新聞) まさにその通り.しっかり議論を積み重ね,それを生かした決定を願うばかり.とはいえ,ワクチン接種を受けるのは国民.少しでも理解し,納得して接種を受ける必要があるでしょう.今日は,ブースター接種に関連した科学誌Natureの記事の抜粋を掲載しておきます.

新型コロナウイルスのワクチンの接種が進む一方で,接種を終えて2週間以上たってから感染が確認される,いわゆる「ブレイクスルー感染」が報告されています.

こうした中,世界ではワクチンの効果を高めようと接種が完了した人を対象に,3回目の「ブースター接種」の動きが出てきています.日本でも行う方針が決まりました.

 

このような書き出しで,「ブースター接種」の現状や問題点をNHKがまとめています.

https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20210921b.html

www.nhk.or.jp

とても良くまとめられたサイトで,一読をお勧めします.

 

しかし,本当にこの3回目の接種が必要かどうかは,まだ分からない点が残されており,そもそも,日本ではまだ2回のワクチン接種も完了していません.

 

毎日新聞「土記」(2021年9月25日)では,青野さんが次のように警告しています.

 

 専門家も驚く高い有効性を示した新型コロナワクチンだが,課題も浮上している.

 国連総会ではワクチン格差が議題となった.接種完了者が1%に満たない貧困国がある中,先進国で進む追加接種は必要か.必要だとして,いつ,誰を対象にすべきか.感染予防と重症化予防の両面を考え合わせる必要がある.

 日本の流行第5波では30~50代の未接種者の死亡も毎日のように報告され,暗たんたる気分になる.東京都で2回接種完了者の割合は30代4割,40代5割,50代6割強.裏を返せばそれぞれ6~4割が未完了で,守られていない.

 追加接種の準備は必要だが,前のめりにならず,まず2回接種を行き渡らせなくては.科学者の積み重ねが詰まったワクチンをどう生かすか.私たちの科学的な知恵も試される.

 

まさにその通りかと思います.

ただ,

「追加接種は必要か.必要だとして,いつ,誰を対象にすべきか.感染予防と重症化予防の両面を考え合わせる必要がある」

は,なかなか素人では判断がつきかねる内容で,専門家がしっかり議論を積み重ねること,そしてそれを生かした政府決定がなされることを願うばかり.

とはいえ,ワクチン接種を受けるのは国民.その中身について少しでも理解を進め,納得して接種を受ける必要があるでしょう.

このブログはそのための個人的な学習のまとめです.今日は,ブースター接種に関連した科学誌Natureの記事の抜粋を以下に掲載しておきます.

 

Nature NEWS EXPLAINER

2021年9月17日

COVIDワクチンの免疫力は低下していますが,それはどの程度重要なのでしょうか?

ブースターショットに関する議論が活発化する中,ワクチンによる免疫の持続期間についての知見はまだ発展途上です.

エリー・ドルギン

    

(原文英文 DeepL翻訳  抜粋)

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COVID vaccine immunity is waning — how much does that matter?

 ワクチンを接種した人の抗体レベルが着実に低下していることが報告されています.

ワクチン試験参加者の長期追跡調査では,ブレークスルー感染のリスクが高まっていることが明らかになっています.イスラエルやイギリスなどの医療記録によると,COVID-19ワクチンは,少なくとも感染を防ぐという点では,その力を失いつつあります.

しかし,ワクチンを接種した人を重症化や入院,死亡から守る免疫系の保護機能が,どの程度衰えているのかは不明です.

今週,世界の主要な保健機関がブースタープログラムに反対を表明し,英国政府が50歳以上のブースターを支持し,米国の規制当局のアドバイザーが9月17日にこの問題を議論するなど,ブースタープログラムをめぐる議論が活発化しています.

 

ワクチンによる免疫はどうなっているのか?

ウイルスが細胞に侵入する前にそれを阻止する「中和抗体」は,あまり持続力がないかもしれません.これらの分子のレベルは,通常,ワクチン接種後に上昇し,数ヵ月後にはすぐに減少します.「それがワクチンの仕組みです」(米国国立アレルギー・感染症研究所免疫学者.ニコル・ドリア=ローズ氏).

しかし,細胞レベルの免疫反応はより長く持続します.

ウイルスに再感染した場合に迅速に抗体を増やすことができる記憶B細胞と,すでに感染した細胞を攻撃することができるT細胞は,持続する傾向があります.これらの細胞は,SARS-CoV-2が身体の第一防衛ラインを突破した場合に,追加の防御手段となります.

 

抗体,B細胞,T細胞という免疫系の3つの要素を同時に検討した数少ない長期研究の1つで,研究者たちは,ワクチン接種が持続的な細胞レベルの免疫を促進することを発見しました.記憶B細胞は,少なくとも6カ月間は数を増やし続け,時間の経過とともにウイルスとの戦い方も上手になっていきました.T細胞の数は比較的安定しており,研究期間中にわずかに減少しただけでした.

「循環している抗体は減少しているかもしれませんが,あなたの免疫システムは再び行動を起こすことができるのです」(ペンシルバニア大学ペレルマン医科大学免疫学者John Wherry)

ミズーリ州セントルイスにあるワシントン大学医学部の免疫学者Ali Ellebedy氏の研究は,記憶B細胞反応の活発さを説明するのに役立ちました.エルベディの研究グループは,ワクチン接種を受けた人のリンパ節からサンプルを採取し,時間の経過とともに,より強力な免疫細胞を生み出す胚中心と呼ばれる小さなB細胞の最終学校を発見しました.胚中心のB細胞は,遺伝子をランダムに変異させ,まったく新しい抗体を作り出します.このような進化の過程を経て,デルタウイルスをはじめとするSARS-CoV-2を撃退する免疫システムが強化されるのです.研究者たちは,生殖細胞センターを6カ月間にわたって追跡した未発表のデータを入手しました.エルベディは,「訓練所はまだ続いています.驚くべきことです」と言っています.

 

この免疫記憶は,重篤な疾患に対して永続的な防御となるのでしょうか?ほとんどの場合,そうなるでしょう.

しかし,ニューヨークにあるロックフェラー大学のウイルス学者であるTheodora Hatziioannou氏は,「もし病気からの保護が循環中和抗体に依存しているとすれば(中和抗体は明らかに減少傾向にあります),自然感染やワクチン接種から時間が経てば経つほど,病気は悪化するでしょう」と言います.

診断テストの記録や病院のデータベースから得られた現実のデータは,これが事実であることを示唆しています.例えば,イスラエルでは,年初に予防接種を受けた高齢者は,最近になって予防接種を受けた同様の人と比べて,7月の流行時に重症化するリスクが約2倍になったようです.今週,研究者たちが報告したように,3回目のワクチンを接種した高齢者は,3回目のワクチンを接種していない人に比べて,感染する可能性が低く,重症化する可能性もはるかに低いことがわかりました

イスラエル政府にCOVID-19の問題について助言しているワイツマン科学研究所(イスラエル・レホボト)の計算生物学者エラン・セガールにとって,その意味するところは明確です.「3回目の投与で防御力が劇的に向上するという,説得力のある証拠があります」.

しかし,ペンシルバニア大学の生物統計学者Jeffrey Morris氏が指摘するように,この種の観察研究から得られる推論は,批判的な目で見る必要があります.日常生活を送っている人々は,臨床試験の参加者ではありません.行動や人口統計学的な違いを考慮して無作為化されているわけでもない.また,統計的なモデル化により,これらの変数の一部を補正することはできますが,すべての潜在的な交絡因子を考慮することは不可能です.

Morris氏は,「要は,慎重なモデリングと,これらすべてを分解するための本当に綿密なデータが必要だということです」と述べています.

 

イスラエル以外の国ではどうでしょうか?

イギリスとカタールの予備データは,イスラエルの経験を裏付けているようです.英国公衆衛生局(Public Health England)の研究者は今週,入院や死亡に対するワクチンの効果が,わずかながらも低下したことを示すプレプリントを発表しました.

一方,カタールのLaith Abu-Raddad氏らは,先月,ファイザー・バイオンテック社のワクチンが,接種後6カ月まで一貫して重篤な疾患に対する高い防御効果を示したことを発表しました.

そして,接種後7カ月のデータを見たとき,彼はこう言いました.この結果は予備的なものですが,入院や死亡を防ぐワクチンの効果は落ちているようです.Abu-Raddad氏は,「このデータを見て,考え方を変えざるを得なくなりました」と言います.(米国で行われた同様の研究では,今のところ感染防御力の低下のみが報告されており,重症化は報告されていません).

しかし,世界的に見ても,ワクチンを接種した人の重症化率が大きく上昇しているという事実はまだありません.

 

ワクチンを接種した人の多くが実際に病気になっていないとしても,予防接種には他のメリットがあるのでしょうか?

感染率が下がれば,ウイルス感染のサイクルを断ち切ることができ,結果的にCOVID-19の重症化や死亡を減らすことができるはずです.また,オーストリア科学技術研究所(クロスターノイブルク)の進化遺伝学者であるFyodor Kondrashov氏によれば,ワクチン抵抗性の亜種の出現を抑えることにもつながると言います.「疫学的に良いことは,進化論的にも良いことなのです」.

コンドラショフ氏のモデリング研究が示すように,耐性ウイルスは感染がコントロールされていないときに最も出現しやすいのです.感染率を低く抑えるためには,より多くの人にワクチンを接種することが唯一の効果的な方法ですが,ワクチンの効果を高めることも効果的です.

 

しかし,ブースターの必要性についての議論は,何も考えずに行うことはできません.被接種者の免疫動態を考慮することに加えて,ワクチンの公平性と入手のしやすさの問題もあります.

英国オックスフォード大学の進化疫学者であるKatrina Lythgoe氏によれば,ワクチンを接種した人が病院や死体安置所に行かずに済むのであれば,ワクチン抵抗性に関する理論的な議論は二の次になります.「私の考えでは,特に脆弱な人々を除いて,世界中の人々にワクチンを接種することに力を注ぐべきです」.