「新型コロナウイルスのワクチンについて,厚生労働省は3回目の接種を行う方針を決めました」 3回目の接種により感染予防効果・重症化予防効果がともに大幅に高まるというイスラエルのデータが一流の医学誌NEJMに掲載されたこともあり,この流れは当然のようにも思われますが--- 話しはそれほど単純ではありません.「3回目接種の効果がいつまで続くのかは全く分かっていない」「重症化予防は2回で十分」「ワクチンが不足している途上国などでの接種を進めるため、少なくとも年末までは追加の接種を行わないようWHOが呼びかけ」

新型コロナウイルスワクチンの3回目の接種を行う方針を厚労省が決めたとのこと.

(例えばNHKの記事は ワクチン“3回目接種”実施へ 時期は?対象者は?最新情報まとめ | 新型コロナ ワクチン(日本国内) | NHKニュース :とても良くまとまっているので,最下欄に一部引用させて頂きます)

 

イスラエルやフランスで既に行われ,アメリカでも検討されている(決定の報が1回流れましたが,もう一度審議しているとのこと)いわゆるブースター接種.

 

この3回目の接種により感染予防効果・重症化予防効果がともに大幅に高まるというイスラエルのデータが一流の医学誌NEJMに掲載されています.

 

 

www.bloomberg.co.jp

ブースター接種,コロナ感染の割合大きく減らす効果—イスラエル研究

ブルームバーグ

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-09-15/QZHUDDT1UM0W01

2021/09/16 08:03

著者:Robert Langreth

ファイザーとドイツのビオンテックが共同開発した新型コロナウイルスワクチンの3回目接種が60歳以上について新型コロナ関連疾患の発症の割合を大きく減らす可能性があることが,イスラエルの短期研究で明らかになった.

米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(The New England Journal of Medicine  NEJM)」に15日発表された論文によると,ブースター(追加免疫)接種を受けたグループは接種の12日後から,標準的な2回接種のグループに比べて感染の割合低下が11倍,重症化の割合低下も約20倍だった.

今回の研究は大いに期待を集め,初期の結果は米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のファウチ所長らバイデン政権当局者が20日に開始予定のブースター接種計画の推進に際して言及していた.ファイザー製ブースターの承認申請に関する米食品医薬品局(FDA)諮問委員会の17日の会合でも取り上げられる見込み.

イスラエルの研究はファイザー製ワクチン接種を完了している60歳以上の住民110万人余りが対象.今回の解析で留意しなければならないのは,観察期間が短いことだ.同国のブースター接種は7月31日に開始したが,研究対象期間は8月31日までだった.効果が出るまでの期間を考慮し,投与から12日たってからの感染率を調べた.

 

ここまではっきりしたデータが出されれば,第3回目の接種は必須のように思えてしまいますが---

話しはそれほど単純ではありません.

 

上記のブルームバーグ通信の記事にもあるように,NEJMのデータは第3回目接種の1ヶ月後にまとめられたもの.

3回目接種の効果がいつまで続くのかは全く分かっていません.

2回の接種で見られた感染予防の効果の急激な低下がまた起こってしまうなら,ワクチンを短期間で何回も打つ必要が出てきます.例えば世界中の人間が6ヶ月毎にワクチンをうつ?現実的ではないように思います.

 

また,ワクチンの二つの効果のうち,重症化予防の効果は2回接種で十分で,重症化予防効果が低下しているというデータは今のところない.

そういう内容のレビューが,NEJMと並ぶ世界的な医学雑誌Lancetに掲載されたとのこと.実際に報文を読んでいないので,どのようなディスカッションが行われているのか確かではありませんが.

 

www.nytimes.com

In Review, Top F.D.A. Scientists Question Imminent Need for Booster Shots - The New York Times

 

ワクチンの専門家の多くのが,「感染予防効果はいわば添え物の効果で,重症化予防こそがワクチンに期待される」と考えていることは間違いないでしょう.

重症化予防第一の観点からすれば,短期間の感染予防効果に目を奪われてワクチン接種をくりかえすことは本来の姿ではない.

「本当に第3回目の接種が必要なのは,重症化予防効果が低下してきたときだ」ということになります.

感染予防を第一に目指しているであろう公衆衛生の専門家と意見が分かれるところかもしれません.アメリカでの議論は今日17日にも決着する可能性があるとのこと.どのような結果になるか?ニューヨークタイムズによれば,かなりもめるような感じですが---

 

3回目の接種については,以上の議論とは別に,以前からなされているWHOの警告があります.

WHO世界保健機関はワクチンが不足している途上国などでの接種を進めるため、少なくとも年末までは追加の接種を行わないよう各国に呼びかけていて、ワクチンの供給をめぐる懸念も生まれています」NHK

本来あるべきパンデミック対策は,世界中にワクチンを行き渡らせること.これをお金持ちの国が責任を持って進めていかないかぎり,パンデミックの収束はありえない.しかし---

 

追記

「米FDA ワクチン3回目接種 “65歳以上などを対象”で承認」との報道が9月18日にありました.

米FDA ワクチン3回目接種 “65歳以上などを対象”で承認 | 新型コロナ ワクチン(世界) | NHKニュース

アメリカのFDA=食品医薬品局の委員会は17日、新型コロナウイルスワクチンの3回目の接種の必要性についてファイザーのワクチンを対象に検討を行い、16歳以上を対象とする案を反対多数で否決したうえで、65歳以上の人や重症化リスクの高い人を対象とする案を全会一致で承認しました。

アメリカ政府は新型コロナウイルスワクチンの効果が接種から時間がたつにつれ低下する可能性が高いとして、接種を終えてから一定の期間がたった人について追加の接種を行う方針を示しています。

17日に開かれたFDAの専門家の委員会では、ファイザーのワクチンについて3回目となる追加の接種が必要かどうか検討されました。

会議では、3回目の接種を進めているイスラエルの分析結果をもとに、60歳以上の人では感染のリスクが11分の1以下になるとするデータや、現時点では副反応についての懸念はみられていないとするデータが示される一方、FDAからは、ワクチンの重症化や死亡を防ぐ効果についてはこれまでの接種でも顕著な低下はみられていないことが報告されました。

これに対し、複数の委員からは、現在のデータでは特に若い世代で追加接種によって得られる効果が心筋炎などの副反応のリスクを上回ることが示されていない、などとする意見が出され、まず16歳以上の人に対し3回目の接種を可能にする案については反対多数で否決されました。

そのうえで、65歳以上の人や重症化リスクの高い人に対して3回目の接種を可能にする案については、追加の接種による利益がリスクを上回るとして、全会一致で承認されました。

追加の接種は2回目の接種が終わってから少なくとも6か月がたった人が対象で、今回の結論を受けてFDAは、今後正式に緊急使用の許可を出すものとみられます。

モデルナのワクチンについても今後追加接種についての検討が行われることになっています。

 

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ワクチン“3回目接種”実施へ 時期は?対象者は?

最新情報まとめ

NHK NEWSWEB 2021年9月17日 19時53分 新型コロナ ワクチン(日本国内)

ワクチン“3回目接種”実施へ 時期は?対象者は?最新情報まとめ | 新型コロナ ワクチン(日本国内) | NHKニュース 

新型コロナウイルスのワクチンについて,厚生労働省は3回目の接種を行う方針を決めました.

▽いつ,誰を対象に行うのか?

▽効果や,気になる副反応は?

▽海外の接種状況とは…?

3回目の接種をめぐる国内外の最新の情報です.

 

追加接種を行う方針了承 “原則同じワクチン使用”

厚生労働省によりますと,新型コロナウイルスのワクチンは時間がたつと効果が低下することが国内外で報告され,イスラエルやフランスなどがすでに追加で3回目の接種を行っているほか,アメリカも今月から追加接種を始めることを検討しています.

 

厚生労働省は17日,専門家でつくる分科会を開いて,ファイザーやモデルナ,それにアストラゼネカのワクチンについて原則,同じワクチンを使用して追加接種を行う方針を示し了承されました.

 

  1. いつから実施?

国内では2月から医療従事者,4月から高齢者への接種が始まりました.

分科会では,2回目の接種を終えて8か月以上たった人を対象とする案も示されましたが,委員から「科学的な根拠が不足している」という指摘が相次ぎ今後,科学的知見を踏まえて検討していくことになりました.

また,追加接種の時期について「すでに接種を受けた医療従事者が感染するケースが増えている」として早期の開始を求める意見が出た一方「まずは2回の接種を終えることを優先すべきだ」といった声も多く,引き続き協議していくことになりました.

 

  1. 誰に接種?

対象者についても,全員を追加接種の対象にするか重症化リスクの高い人に限定するかなど,海外の状況などを踏まえて改めて判断することになりました.

 

海外の状況ですが,対象者は国によって異なります.

イスラエルは12歳以上

▽フランスは65歳以上の人や重度の免疫不全がある人,高齢者施設の入居者など

▽ドイツは60歳以上の人や高齢者施設の入居者,免疫不全がある人,感染者と定期的に接触する医療従事者や救急隊員などが対象です.

▽イギリスは今月から50歳以上の人や現場で働く医療従事者や介護職員,基礎疾患がある人などを対象に追加接種を始める予定です.

アメリカも現在,対象としている中等度以上の免疫不全がある人に加え,今月から2回目の接種を終えて8か月以上たった人も対象に加えることを検討していて17日夜,判断することにしています.

 

厚生労働省は対象となる人や開始する時期について今後,検討することにしています.

 

専門家「まずは2回の接種を終わらせること」

日本ワクチン学会の理事長で福岡看護大学の岡田賢司教授は「3回目ありきの議論ではなく,まずしなければいけないのは希望する方々に確実にワクチンを届けて2回の接種を終わらせることだ.また,WHO=世界保健機関が指摘するように1回も接種できていない世界の人たちへの視点も大事だと思う」と指摘しました.

 

また,通常であれば3回目の接種を行うかは日本人での臨床試験を行ったうえで判断するとしたうえで「2回接種をした人でもいわゆる『ブレークスルー感染』が起こっている中では,3回目の接種について準備をしておくことは必要だ.抗体の上がり方に個人差があるのと同じく,下がり方にも個人差がある.また,抗体とは別に細胞性の免疫が免疫の記憶を獲得していると考えられていて,細胞性免疫も半年で効果が下がるのかどうかはまだ分かっていない.今後の感染状況も踏まえながら3回目の接種を急ぐのがいいのか,遅い時期になってもいいので毎年,接種を行うやり方にするのか考えておくことが重要だ」と述べました.

全国老人保健施設協会「優先的に3回目の接種を行ってほしい」

中略

 

“時間経過で感染予防効果減 デルタ株で発症予防効果も減”

厚生労働省によりますと,新型コロナウイルスのワクチンは時間が経過するにつれて感染を予防する効果が減少していく可能性があると,アメリカで指摘されています.

また,デルタ株に置き換わったことで発症予防効果も減少しているとされ以前,主流だったアルファ株に比べると

ファイザーのワクチンの発症予防効果が88%で5.7ポイント

アストラゼネカが67%で7.5ポイント

それぞれ低下するという報告もあります.

 

製薬会社“追加接種でデルタ株の働き抑える中和抗体増加”

こうした中,各製薬会社は3回目の追加接種によってデルタ株の働きを抑える中和抗体の値が増加するとしています.

ファイザー

追加接種から1か月後の中和抗体価が2回目接種の1か月後に比べて

▽55歳以下で5倍以上

▽65歳から85歳で11倍以上に

上昇したと報告しています.

<モデルナ>

追加接種の2週間後の中和抗体価が2回目接種の6か月後から8か月後までと比べておよそ42倍に増加したとしています.

アストラゼネカ

追加接種後に中和抗体価が増加したと報告しています.

 

追加接種後の副反応は?

追加接種後の副反応について海外では

ファイザーのワクチンでは2回目の接種に比べて「頻度が同程度か低かった」

▽モデルナでは「許容できる範囲だった」「副反応の半数以上は軽度か中等度だった」

アストラゼネカでは「1回目の接種後より少なかった」と

報告されています.

“追加接種に必要なワクチン 確保できる見通し”厚労省

厚生労働省によりますと,追加接種に必要なワクチンは確保できる見通しだとしています.

 

厚生労働省

ファイザーと年内に1億9400万回分の供給を受ける契約を交わし,来年初頭からさらに1億2000万回分の供給を受けることを前提に協議を進めています.

▽モデルナからは年内に5000万回分,来年初頭からもさらに5000万回分の供給を受ける契約を結んでいます.

アストラゼネカとは1億2000万回分の供給を受ける契約を結んでいます.

 

「手が回るのか…」 課題は“自治体の負担”

懸念されているのが自治体の負担です.

▽追加接種のために会場や人員を新たに確保しなくてはならず

▽対象者のうち2回目の接種から8か月以上たった人を確実に把握して,接種券を送る作業も必要になります.

 

まだ,多くの自治体が2回の接種への対応に追われている中で追加接種が始まれば負担が増えるだけでなく,手続きなどが複雑になって混乱するおそれもあります.

 

<東京 豊島区担当者>

「2回目の接種を行っている中で今から3回目の接種の準備にまで手が回るかが心配だ.必要なワクチンがきちんと配送されるのか,接種券をどう送るのか,会場をいつから確保するのかなど課題が多い」

 

<東京 足立区担当者>

「接種会場を常設することなども検討する必要があるので,3回目で終わるのか今後も毎年,接種を行っていくのか国は長期的なスケジュールを示してほしい」

 

国内 2回目接種を終えた人は全人口の53%

政府が17日に公表した最新の状況によりますと,国内で少なくとも1回,新型コロナウイルスのワクチンを接種した人は8267万7879人で,全人口の65.3%となっています.また,2回目の接種を終えた人は6720万4659人で全人口の53.1%となりました.

 

追加接種 世界の状況は…

世界ではワクチンの効果を高めようと,接種が完了した人を対象に追加の接種を始める国が出てきています.

 

イスラエル 先月から3回目開始 デルタ株で感染者再び増加

イスラエルでは,16歳以上の8割以上が2回のワクチン接種を終えていて,一時は一日の新規感染者が1桁にまで減りましたが,感染力が強い変異ウイルス「デルタ株」の拡大に伴って再び感染者が増えたため,先月から3回目の接種を始めました.

 

イギリス 来週から3回目を本格開始 対象は医療従事者など

イギリスでは「ワクチンの効果を保つため」として3回目となる追加の接種を来週から本格的に始めることにしています.

対象となるのは

▽高齢者施設の入居者や

▽医療従事者

▽50歳以上の人たちなどで

臨床試験の結果,高い効果が確認されているとして基本的にファイザーかモデルナのワクチンを接種し,モデルナの場合には半分の量にするとしています.

 

アメリカ 2回目接種から一定期間たった人に行う方針

アメリカは,ファイザーやモデルナのワクチンの2回目の接種から一定の期間がたった人を対象に3回目の接種を行う方針を示しています.

その理由として

▽ワクチン接種から時間がたつと感染や発症を防ぐ効果が低下するとみられ,中でもデルタ株に対してこれらの効果が低下するとみられること

▽3回目の接種によりウイルスの働きを抑える「中和抗体」の値が大きく上昇するという研究結果が得られていること

などを挙げています.

FDA=食品医薬品局は17日に専門家による委員会を開いて接種の是非について検討することにしています.

 

独・仏・スウェーデン 高齢者など対象に追加接種を開始

このほか,ドイツやフランス,スウェーデンでも,2回のワクチン接種を終えた高齢者などを対象に追加でワクチン接種を始めました.

 

 

WHO“途上国などでの接種促進のため 年末までは行わないで”

一方で,WHO=世界保健機関はワクチンが不足している途上国などでの接種を進めるため,少なくとも年末までは追加の接種を行わないよう各国に呼びかけていて,ワクチンの供給をめぐる懸念も生まれています.

 

WHO・FDA“現時点で広く一般の人に行う必要認められず”

また,WHOやFDAの専門家らは13日,これまでに公開された論文やデータに基づいて追加接種についての見解をイギリスの医学雑誌「ランセット」に発表しました.

この中で専門家は

▽患者が重症化するのを防ぐ効果はこれまでの接種によって保たれているとしたうえで

▽追加の接種によってどのような効果が得られるのかまだ明確に示されていないなどとして

現時点では広く一般の人に追加の接種を行う必要は認められず,まだ接種をしていない人を優先すべきだとしています.

 

ワクチンの追加接種をめぐっては,どのような効果を期待するのか,誰を対象にするのかなどをめぐって専門家の意見は分かれていて,議論が続いています.