前回,前々回に続いて,BuzzFeed岩永さんによる西浦博さん(京都大学)へのインタビューの第3回
「ワクチンだけでは流行を抑えられない」 西浦博さんが国民的な議論を呼びかける理由 岩永直子
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-nishiura-20210831-3
からの抜粋です.
本文を是非読んでください.
なお,政府の新型コロナ分科会による今後の見通しを示す提言(9月3日)についてもBuzzFeedがまとめています.
西浦さんの話からつながった内容とも言えます.
こちらも是非.
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-nishiura-20210831-3
(第5波の感染者が減少に転じているが)
今後どうなるのか,そして今後どんな未来を描いたらいいのか
ーー今後の感染状況の見通しを教えてください.
「さらにワクチン接種が進めばしばらく感染者数は減少する可能性が高い.でもそれは社会全体で接触も減って,なおかつワクチンで免疫を得ることとの掛け算の結果であることです.」
ーーワクチンだけではダメだということですね.
「そうなんです.実効再生産数(※)が1を下回っているのは,接触が落ちた上でワクチン接種を進めているからだと思います.ワクチンは未だに20〜30歳代には十分行き渡っていないし,それだけではこうはならないと思います」
※感染者一人当たりの二次感染者数の平均値.1を切ると減少傾向に転じる.
ーーどれぐらいまでその「掛け算」を続けるべきですか?
「接種のスピードによって変わります.希望者の数とその方々の接種のスピードを今後どれぐらい上げられるかが重要です」
ーー緊急事態宣言は9月12日までですが,ワクチン接種が完了するまで延長してほしいと考えているのですか?
「宣言をどこまで続けるかは,感染者数の減少はもちろんのこと,医療提供体制の状況を改善する目的を重視して専門家も考えるのではないかと思います.それを参考に政策判断もなされるでしょう.
判断に必要な感染者数を見通す上で,接触が増えてきた時にどれぐらいの人が感染する可能性があるかという“感受性”(免疫のある人がどれだけいるか)の情報がないのは痛い(自然感染の実態がモニターされていない)」
「少なくとも,近い未来を見据えて打つべき対策は,今,一過性に落ちているこの状況をできるだけ継続させる.それが必要なのだと思います」
ーー先ほど,大学や専門学校でICTを利用して接触を減らしてほしいとおっしゃっていましたが,小中高は休校などは必要ないのですね.
「小中高校生のデータを分析している限りでは,ここまでの対策レベルを維持していれば伝播がそこで続く状況ではありません.大学生以上は伝播が維持・拡大し得ます.そこに相当違いがありそうです」
「小中高生の感染リスクは,大学生より上の成人の流行に大きく左右されます」
「(イギリスの例をみると)接触がコロナ以前のレベルに戻ると,おそらく小学校でも中学校でも感染拡大し得ると思います.そういうことが日本でも起こる可能性があることは頭に置いておいた方がいい.今の自粛具合での対策と,接触が以前のように戻った場合の対策は切り分けて考えた方がいいということです」
ーー(元の生活に戻るために)ワクチンだけでは難しいということがだんだんわかってきましたね.感染対策はずっと続けるべきなのでしょうか.
「予防接種を進めながら接触削減をすれば,しばらくは制御が可能かもしれません.でも,それで世界が元に戻らないレベル(感染拡大が再び起きないレベル)で変わった,というわけではありません」
「予防接種を進めた他の国がどうなったか.僕たちはそこから学ばないといけません.
イギリス,イスラエル,フランスが典型例ですが,必ずまた感染者数が増加してきます.一時期減少していたとしても,その恩恵は期間限定のものなのです.
問題は,その時にどうするのか,です.
予防接種が行われている中で,どんどん状況は変わっていきます.何がリスクであり,どう対応しなければならないのか,先回りして考えて議論しておかなければなりません」
ーーワクチンの効果は思っていたよりも早く落ちることが最近の研究でわかってきました.3回目のブースター接種についても議論が始まっています.
「今,僕はイスラエルのデータを分析しているのですが,7ヶ月ぐらい経つと発病を阻止する効果は50%ぐらい落ちます.
逆算すると,日本ではまず医療従事者の免疫がなくなっていきます.次いで高齢者です.その頻度が高くなるのはこの秋が深まった頃です.それを認識することがまず必要です.」
「感染レベルを低く抑えながら,次に備えるプランをその間に構築しなければいけません.」
ーー3回目接種についてはどう考えますか?
「ブースター接種については慎重に考えた方がいいと思います.
高齢者のように死亡する可能性が高く,ハイリスクな人はもちろん接種するといいと思います.しかし,集団免疫を狙うには,6ヶ月で少なくとも効果が半減するワクチンでは厳しい可能性もあると思っています.
予防接種を半年に1回,人口全体でみんなうってこの先も生活していくかと言えば,それが明らかに正しいとは言えず,今後議論が起きると思います」
「イギリスやアメリカやイスラエルが3回目をうっているのが正しいかどうかは,それらの国からこの先,学ぶことができます.
今までの知見が示しているのは,それだけで流行を終わらせるのは厳しいということです.なので,具体的な計画をする前から私たちのこの感染症に対する向き合い方や考え方の姿勢自体を見直した方がいい」
「科学的に考えると,予防接種によって人口の相当の割合の人が常に感染から守られる免疫を保持し続けること,それが未来永劫続くように,この問題が消え去るまで,医療が逼迫しなくなるまで,何度もワクチン接種を繰り返すことは一つのアイディアではあります.むしろ有望な選択肢と言ったほうが良いのかもしれません.
しかし,それにしては効果が半減するまでの期間が短すぎるのです.人口全体が年に2回もうつことは,今までワクチン産業でも全く想定していなかったはずです.途方もないくらいの数の予防接種が世界中で行われなければならない.
だから,特定のハイリスクの人は接種を繰り返すとしても,イギリスのようにある程度の感染をコミュニティとしていずれ受け入れる,ということは一つの選択肢だと思います.
もちろん,医療が逼迫しない状態で,という条件が付きます.日本はこの条件を達成する流行レベルが他国よりも低いため,戦略とできる可能性が少ないように思われます.」
「自然感染を低いレベルで起こし,徐々に社会を開いていくことができるか,しかも,それが制御可能なレベルに留まりながら起こせるか,というと,これまでのコントロールを遥かに超える難しさがあるでしょうね.
医療を逼迫させずに少しずつ,少しずつ出口へ近づくことが必要とされますが,その願いはなかなかハードルが高い要求になりかけているところです.」
どんな社会を選ぶのか,経済学,人文学の専門家も交えて合意形成を
ーーワクチンパスポートの話も出ていますが,今の話と相まって計画を練り直さないといけないですね.
「ワクチンパスポートはワクチン接種のインセンティブ(動機付け)の一つですね.
呼称はともかく,インセンティブが必要であることは明白な事実です.」
「一方でデルタ株によって予防接種の効果が少し下がることや,ブレイクスルー感染が予防接種から時間が経つとどんどん起こることは,最近得られた科学的エビデンスです.
これらのエビデンスはインセンティブに伴う行動の緩和と対立してしまいます.今後も最新の科学的エビデンスを集め続け,ワクチンに伴う緩和に関しては一度仕切り直して考えなくてはならないのでしょう.
その上で,今後の戦略に関する選択肢を複数,社会に提示するべきだと思います.
例えば,ワクチン接種を全国民で年に2回繰り返し,接触の制限をしながら暮らすのか.一定の感染リスクを低いレベルで受け入れた上で,ハイリスク者のみブースター接種を行い,一定の行動の緩和を強弱をつけつつ行うのか.あるいは,その中間くらいで時間をかけて実施するのか」
「まだまだ,接種後の社会を具体的に考えられるほど,人口内の免疫保持者は多くありません.ですから,今後の選択は目の前ではなく,少なくとも半年から1年以上後に迫られる話になると思います.でも,いまから熟議してやれないものかと強く感じています.
医学の専門家だけでなく,経済学や人文学の専門家も交えて議論していただきたいところです」
「サイエンスはサイエンスとして実施するけれども,経済活動もそうですし,かけがえのない人生の時間をどう過ごすのかにも関わる議論です.
国民に各々の専門家の考えを伝えて,みんなで合意形成する.それが一番正常なプロセスだと思います」