第5波の感染拡大が,減少の様子を見せ始めています.
西浦京大教授によれば
「総合的にみると、今の状態が続けば、感染者の減少はさらに続くと判断していいと思います。もちろん,接触が増えると感染者数は増加します。」
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-nishiura-20210831-1
yachikusakusaki.hatenablog.com
朗報です.
buzzfeedの続報では,西村教授がこの減少の要因について考察しています.
デルタ株にオリンピック、お盆や連休......それでもなぜ感染者は減った?西浦博さんが4つの仮説を検証
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-nishiura-20210831-2?bfsource=relatedmanual
四つの仮説とは次の通り.
仮説1:リスク認識による自粛と緊急事態宣言での接触減
仮説2:ワクチンの普及
仮説3:若年世代の行動の変化と自然感染による免疫
仮説4:気温の影響
西浦さんが最もありそうだと考えているのは“仮説1+仮説2”.
「一番あり得るのは1+2です。リスクを認識してハイリスクの接触を避けたことと、予防接種が進んでいることが合わさって減っているのだろうと思います。」
仮説1に関しては
第4波時,緊急事態宣言を打つと再生産数が相対的に何%低下するのか,緊急報告をだしていますが
( まん延防止等重点措置と緊急事態宣言が新型コロナウイルス感染症の流行動態に及ぼした効果に関する定量的評価(暫定版) )
「それぞれの宣言でどれだけ減るかは、その要請がどれだけ皆さんの心に響いて、皆さんがどれだけ従ってくれるかにかかっています。だから科学的に措置内容で制御することは難しいのです」
とのこと.
そうですよね.
また,仮説2に関しては,
科学的アプローチが可能なのですが----
「今、人口のそれぞれの年齢群や社会リスク層の中で何%がまだ感受性(感染する可能性)を持っていて、今後感染する可能性があるかを定量的に(数値として)把握できていません。これが結構大きな問題です」
とのこと.
そんなことだろうとは思っていましたが,国レベルで現状を科学的にキッチリと把握する精神がないことの証しですね.
例えば,香港,オーストラリアなどは,血清中の抗体レベルをしっかりモニターしているそうです.
西浦さん「リアルタイムでその状況が把握できれば、感受性を持った人口サイズがわかりますので、結果としてデルタ株の基本再生産数もわかります。
いま何%の人が免疫を持っていて、自粛がこれぐらい行われているから、流行対策がなかった場合は血清データからすると再生産数はいくつだな、とわかる。そうすると、対策がもう少し客観化される。
日本ではそれを知ることができない現状は問題です。僕もとても興味のある学術課題ではあるのですが、毎日のリスク評価に必死になって手が回らず、このリアルタイム調査に手が付けられていないことを残念に思っています」
関連して
オリンピックの影響については
「接触とか夜間の繁華街でハイリスクの行動を取ることに関して言えば、オリンピックの影響はほぼなかった、つまり、明らかな増加も減少もなかった、と思います」
「主な影響として疑いなく言えるのは、心理的インパクトだと思います。心理的インパクトは数値化するのが困難ですが」
とのことでした.
要請レベルの「緊急事態宣言」.これからもその効果が発揮できるかどうかの保障はありませんが,感染力が従来株の2倍と言われる今回のデルタ株に対しても,その感染拡大を抑える効果を発揮しているようです.
前回の第1回目の記事には西浦さんは本当に嬉しそうな笑顔で語っていたと書かれています.
前回の繰り返しになりますが,改めて,西浦さんの喜びの言葉を今回も以下に引用します.
西浦さん
「基本再生産数(※何も対策しない場合の一人当たりの二次感染者数の平均値)で言うと5を超えるような感染症を、人の行動を制限することで食い止める経験は、過去に一切なかったことだと思います。
しかも、社会経済活動はそれなりに続いています。すごく制御にとって後ろ向きな条件下なのです。緊急事態宣言が長引いて、声が届いているとは言い難い。中でも、オリンピック開催の心理的な影響は相当大きかったと思います。
宣言に効果がなく、ますます医療が厳しくなったらさらに厳しい措置をしなければなりません。どうしても仕方なければ、立法でロックダウンを考えてほしいという議論もこれまでになされてきました。
そんな中、私権が制限され、経済的な影響も甚大である対策を打たずに済む可能性が出てきたのは、本当に良い兆候だと思います。
ですから、ここで再上昇が起きないように、さらなる対策が必要ならやる。確実に減らすことが必要です。学校再開がある9月に、社会全体で接触が増えて感染が再び増えてしまうことは何としてでも避けたいです。
ニュースでご覧の通り、政府はロックダウンをしようとしませんでしたよね。
専門家としては、その条件下でどんな措置ならできるのか、水面下で必死に検討していました。措置の中身によっては社会に大きな影響を与えるだろうし、かと言って自粛が限界を迎える頃です。どうすればいいんだと頭を抱えていました。
その中で、今のような対策を何重かに重ねてしっかり実行していれば減少傾向に転じたということは、まずみんなで自信を持つべきことです。自信を持ってそのままもう少し継続したい。しっかり頑張れば9月中に、安定的に減っているように見えてくるはずです。
近未来をどんどん皆さんの力で明るくしていけたらと思います。」
ロックダウンなしに感染を抑え込むことができれば,本当に嬉しいことです.
なお,ワクチン接種も,第5波の感染拡大を抑え込むには力を発揮していると考えられています.
接種開始が遅れたことは悔やまれますが,日本も,ようやく,先行国に近づきつつあり,接種が停滞気味のアメリカにはもうすぐ追いつくでしょう.
しかし,接種先行国イスラエル,イギリス,アメリカに見るように,ワクチンだけで感染拡大を抑えることはできません.
ワクチンの最大の効力は重症化を防ぐ働きですが,これとても感染が拡大してしまうと,非接種者の感染⇒死亡を抑えることは難しくなります.イスラエル,アメリカ,イギリスの人口当たり死亡者は,日本の何倍にもなっています.
逆に,素早いロックダウンと感染者の割り出しに力を注いでいる台湾,ニュージーランド,オーストラリアなどは,ワクチン接種が遅れていても死亡者をずっと少なくすることに成功しています.