アストラゼネカ社製ワクチンの行方 “国産”であって,しかも薬事承認されているこのアストラゼネカ社製ワクチン1億2000万回分(国産は9000万回分)が,国内では使われていません.血栓症という副反応から,薬事承認はしても公的接種には使用しない方針がとられました.現在の政府の方針は,「国際貢献」に用いるというもの.しかし,この国際貢献は,真の国際貢献ではなく「ワクチン外交」の範疇に入る代物.わたしが相手国民なら軽蔑の対象としたかもしれません.

「国産ワクチンが望まれますね」

これは,あるテレビニュースのコメンテーターの言葉.

 

コメントの対象となったニュースは,“新型コロナウイルスワクチンの職域・大規模接種への供給が追いつかず,新規中止”という内容.外国からの搬送が間に合わない,国産だったらそのようなことはないという,素朴なコメントですが---

かのコメンテーターは,日本で既に新型コロナワクチンの製造が開始されていることを知らなかった,もしくは忘れていたのでしょう.

 

以下,改めて,日本国内のアストラゼネカ社ワクチンの行方についてまとめてみます.少しでもワクチンに興味がある方ならば,既にご存じのことばかりですが.

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「アストラゼネカ」のワクチンとは? 新型コロナ|NHK

 

ファイザー-ビオンテック社製とモデルナ社製の2種類に限れば,日本国内での需要に供給が追いついていけなくなった現状があります.

しかし,台湾その他へ「無償供与」しているアストラゼネカ社製のワクチンは1億2000万回分契約を結んでいます.しかも,その内9000万回分は日本国内で生産.ライセンス生産とはいえ,立派なmade in Japan.

 

ご存じのように,アストラゼナカ社製のワクチンは,およそ10万人に1人の割合で血栓症を引き起こすおそれがあると伝えられています.アメリカは使用を控え,デンマークも一時使用停止していました.また多くのヨーロッパ諸国では,若い女性への接種を規制しています.

一方,2~8度の冷蔵保存も可能で効果も保障済み(ファイザー社製などに比べてると劣るものの).途上国を含めて考える必要があるパンデミック終息に向けたワクチン接種においては切り札的な存在と目されてきました.

しかし,“国産”であって,しかも薬事承認されているこのアストラゼネカ社製ワクチンが,国内では使われていません.現在の新型コロナワクチンの接種は予防接種法上の「臨時接種」の位置づけで,厚労相自治体に対して実施を指示して初めて接種できるようになるとのこと.

血栓症という副反応から日本国内では使ってもらえないと考えたのでしょう.公的接種には使用しない方針がとられました.これは,管首相がファイザー社へ電話したパフォーマンスの前から既定の方針だったと思われます.

 

結果として,1億2000万回分のアストラゼナカ社製のワクチンが宙に浮いた存在になってしまいました.

 

国内での使用に向けて調整中との報道もありますが,現在の政府の方針は,「国際貢献」に用いるというもの.

手始めは台湾.

厚労省のホームページには次のように発表されました.

 

国内製造の新型コロナウイルスワクチンによる国際貢献について

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19070.html

 6月2日に開催されたCOVAX ワクチン・サミットにおいて、日本政府は、 環境が整えば、しかるべき時期に、日本国内で製造するワクチンを、 3,000 万回分を目途として、 COVAX ファシリティ等を通じて各国・地域に供給していく考えを示しました。

 今般、台湾側からのワクチン提供依頼について関連の調整が整ったことを受け、我が国で製造したアストラゼネカ社製ワクチンについて、124万回分を無償で台湾の人々にお届けすることとしましたので、お知らせします。

 厚生労働省では、引き続き、国民の皆様に対して確実にワクチンを供給できるよう、様々な取組を進めるとともに、国際社会の新型コロナ感染症との戦いにも貢献できるよう、 政府方針に沿って 、 国内製造の新型コロナウイルスワクチンによる国際貢献 に協力してまいります。

 

しかし,この厚労省の発表には,意味の異なる二つの「国際貢献」がゴチャゴチャに組み込まれています.

一つは言ってみれば「ほんものの国際貢献」で,国際的な枠組みCOVAXを通したもの.

(COVAX:新型コロナウイルスワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際的な枠組みで、2020年に発足した。世界保健機関が主導し、途上国へのワクチン普及を進める国際組織Gaviワクチンアライアンスや感染症流行対策イノベーション連合などと連携して取り組んでいる。)

 

もう一つは「ワクチン外交」と呼ばれている2国間供与.

中国やロシアに対抗する思惑が見え見えの戦略的な供与とも言えるでしょう.果たしてこれを国際貢献と呼んで良いのかどうか意見が分かれるかと思います.対象国は更に広がってベトナム,マレーシア,インドネシア,フィリピン,タイ---

このようなワクチン外交は,ワクチンの政治利用であって,コロナ抑制に有効ではないとの警鐘も.

https://www.jiji.com/jc/article?k=2021060200251&g=int

途上国のワクチン接種を推進する国際組織GAVIワクチンアライアンス)のバークレーCEO:  

有力国が友好国などに優先的にワクチンを供給しても、その他に行き渡らなければ「感染は続き、拡大する」と警告。GAVIなどが主導するワクチンの国際共同調達制度「COVAX(コバックス)」こそ、公平なワクチン普及を進め、パンデミック(世界的大流行)を抑える助けになる.

 

この意見が正論でしょう.厚労省のホームページは欺瞞を含んでいると言えます,

ただし,「ワクチン外交」は,パンデミック終息には限定的な効果しかないとしても,政治的な意味はあるという考え方も成り立つでしょう.しかし,この立場に立ったとしても,「宙に浮いたアストラゼナカ社製ワクチン」を使った「ワクチン外交」では.政治的な意味も半減するように思います.

相手国には,このような「施し物」を快く思わない国民もかなりの数いるにちがいない.わたしが相手国の国民なら,「宙に浮いたワクチン」を提供する日本を軽蔑していたかもしれません.

ちなみに,アメリカが台湾に供与することを表明したワクチンはモデルナ社製のものと報じられています.同じように「宙に浮いたアストラゼナカ社製ワクチン」を抱えていますが.

 

なお,アストラゼナカ社製ワクチンはファイザー・ビオンテック社製ワクチンと併用すると,とても高い免疫が得られるとする報告が相次いでいます.

例えば,

https://www.nature.com/articles/d41586-021-01359-3

アストラゼナカ社製ワクチンは,決して軽んじてはいけないことは確かです.

その他,日本におけるアストラゼネカワクチンの現時点のメリットについても,感染症専門医の忽那医師がまとめています.

アストラゼネカ社新型コロナワクチン どのような対象者に接種すべきか(忽那賢志) - 個人 - Yahoo!ニュース

 

 

 

参考記事

新型コロナ: 宙に浮く1億2000万回分 アストラゼネカ製ワクチン: 日本経済新聞

「国産ワクチン」いつ打てる? アストラゼネカに聞いた [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル

“アストラゼネカのワクチン接種で血栓” 医学雑誌に論文掲載 | 新型コロナ ワクチン(世界) | NHKニュース

英政府の諮問委 40歳未満にアストラゼネカのワクチン推奨せず | 新型コロナ ワクチン(世界) | NHKニュース

CNN.co.jp : 台湾へのワクチン提供、3倍以上に拡大 米