5日前の記事も含めて,今まで書いてきたアヤメに関した話題をまとめてみました.1. 花札のアヤメ 実はカキツバタ.2. アヤメは漢字で菖蒲.菖蒲はショウブとも読みます.ショウブが芭蕉の時代までアヤメグサ等と呼ばれていた名残.「菖蒲(あやめ)の節句」(=端午の節句)では,しょうぶ湯に入浴し,ショウブを飾る風習が今も残っています.3. アヤメ属の学名はIris.Irisは虹の意味で,女神の名前でもあります.虹をみて,女神が雨雲に海の水を補給している姿を想像していたギリシャ人!素敵ですね.

アヤメは5月がお似合い.

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例年より早く4月半ばすぎに咲き始めていましたが---現在真っ盛り.

同じ仲間のシャガ,イチハツもまだ咲いていて,アヤメ属の三者そろい踏みを見ることができます.

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このブログで,今までも何回か,そして,5日前にも取り上げたアヤメ.

今日の話題として再びとりあげ,5日前の記事も含めて,今まで書いてきたアヤメに関した話題をまとめてみました.

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/04/28/234816

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/04/23/112218

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/04/22/003205

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/04/21/002450

1. 花札のアヤメ

“アヤメは5月がお似合い”と書きましたが,花札のアヤメも5月札とされていますね.

ところが,この花札のアヤメ.実はカキツバタが描かれているそうです.

アヤメとカキツバタは絵では区別がつきかねますが---

根拠となるのは高得点札「アヤメに八つ橋」

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花札の謎シリーズ!5月札『杜若に八つ橋(かきつばたにやつはし)』

・「アヤメに八つ橋」では水辺に咲く花が描かれている.このように水辺に咲くのはアヤメではなくカキツバタ

・「『伊勢物語』第九段東下りに出てくる『三河国八橋』(現在の愛知県知立市八橋町))が、花札の絵の元として有名」とのこと.

物語の内容は:

八橋伝説地(やつはしでんせつち)

三河の国の「水ゆくかわの くもてなれば はしをやつわたせるによりて」八橋という名のついた場所にて休息中,橋のほとりに美しく咲く燕子花(かきつばた)をみて,人公がかきつばたの五文字を各句の頭に置いて旅のこころを「から衣 きつつなれにし つましあれば はるばる来ぬる たびをしぞ思ふ」と詠み、乾飯(かれいい)に涙するという望郷の物語.

 

2. アヤメは漢字で菖蒲.

菖蒲はショウブとも読みます.

ややこしいことに,中国語の「菖蒲」は,日本では「セキショウ(石菖)」と呼ばれている植物.菖蒲の漢字を日本にとり入れた時に,もとの植物を確認していなかった!

重井薬用植物園 | 園内花アルバム ショウブ(ショウブ科)Acorus calamus

植物名ではよくある間違いですが.

そして,アヤメグサ等と呼ばれていた今のショウブにこの漢字をあてた!

その後の経緯は----

日本大百科全書によれば

アヤメとは - コトバンク

万葉集から芭蕉(ばしょう)に至るまで,アヤメ草,アヤメ,アヤメ吹きなどとあるのはサトイモ科(現在のAPG分類ではショウブ科)のショウブのこと.

現在のアヤメは,花アヤメとよばれていた.元禄時代(1688~1704)にサトイモ科(現在のAPG分類ではショウブ科)のアヤメが,ショウブの名に置き換わって,アヤメ科のアヤメをさすようになり,その後「花」がとれ,単にアヤメとよばれるようになったものである.”

 

このような歴史的背景をうけ,今でも,菖蒲をアヤメともショウブとも読むのでしょう.

なお,端午の節句は「菖蒲(あやめ)の節句」とも言われます.アヤメ科のハナショウブを飾ることを勧めているサイトも見受けられますが---

「菖蒲(あやめ)の節句」の菖蒲(あやめ)は,ショウブのこと.

端午 〜菖蒲の節句と五月人形〜|一般社団法人日本人形協会

”菖蒲(ショウブ)には,古来から健康を保ち,邪気を祓(はら)う力があると信じられていました.

菖蒲湯に入浴し,菖蒲酒を飲み,菖蒲枕に眠るなど,端午の節句は,まさに菖蒲づくしの一日でした.また,こうした薬効の活用だけでなく,家の軒に菖蒲を飾って邪気を祓うという風習も 古くから行われました.”

 

3. アヤメ属の学名はIris.

Irisはカタカナで書けばアイリス.

我が家でもダッチアイリスを昨年購入.今年は咲くかどうか心配していましたが,美しく咲いてくれました.今はもう咲き終わっていますが.

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Irisはギリシャ語Îrisに由来し,Îrisは虹.

虹の名前をもらった花がアイリス.素敵な名前です.

そして,ギリシャ神話では,虹を擬人化した女神が描かれています.日本語訳ではイリス,またはイーリス.

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IRIS - Greek Goddess of the Rainbow, Messenger of the Gods

この虹の女神イーリスは,海の神タウマース(タウマス)"the wondrous"(驚異)と雲のニュンペー(ニンフ)エーレクトラー(エレクトラ)"the amber(琥珀)"の娘.

海岸沿いに住むギリシャ人は,虹が描く円弧が海と雲との間をつないでいるのをよく見ていました.そのため,女神が雨雲に海の水を補給していると信じていました.

 

虹をみて,女神が雨雲に海の水を補給している姿を想像していたギリシャ人.

これも素敵な話.

 

ギリシャ神話として残されている物語では,イーリスはオリュンポスの神々,特にヘーラーやゼウスのメッセンジャーとして描かれています.

例えば

イーリアスホメーロスでは,ゼウスの言葉のほとんどがイーリスを通して伝えられます.

イーリアス(ホーマー 松平千秋訳 岩波文庫)より

“この時,アイギス持つゼウスの使いとして,脚速きこと風の如き虹の女神(イリス)は,危急を告げる報せを携えて,トロイエ勢の陣営に駆けつけた.”

 

・転身物語(変身物語 メタモルポーセース / オウィディウスでは,イーリスはユノ(ヘーラー)の使いとしてソムヌス(“眠り”の擬人化神 ギリシャ神話ではヒュプノスのもとを訪れます.

転身物語(オウィディウス 田中秀央/前田敬作訳 人文書院

“「イリスや,わたしの声の忠実な使者よ,いそいでソムヌスの住む城館へいっておくれ.そして,なくなったケユクスの姿をかりた夢をアルキュオネのもとに送り,不幸な出来事をつつみかくさずおしえてやるように,言いつけておくれ」

そこで,イリスは,美しい七色の衣をまとい,空に弓形の橋をかけ,ユノ(ヘーラー 結婚,夫婦生活の守護神)の命じた王(ソムヌス/ヒュプノス)が住む雲にかくれた館へとおもむいた.”

 

 

5月はアヤメ以外の花も美しい季節です.

庭の白花を集めてみました.ヒメウツギはほぼ全て散ってしまって,何故か残っていた最後の花です.

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この白花のシャクヤクが咲いたのは嬉しい誤算でした.

まだ株が小さくて,つぼみもつかないかなと思っていたので.