「植物をたどって古事記を読む」シリーズ
「ひさご」(瓢.ヒョウタン)2
前回は,若いヤマトタケル(ヲウス)の髪型を表す「ヒサゴバナ」として登場する場面を取り上げました.
yachikusakusaki.hatenablog.comこの時には,オホウス(ヤマトタケルの兄)はひとかどの男じゃったが,年の離れた弟のヲウス(ヤマトタケル)は,髪をヒサゴバナに結うての,ヤマトヲグナと呼ばれておったのじゃ.(“三浦祐介訳・注釈 口語訳古事記” 其の三 ヤマトタケルの戦いと—天翔ける英雄)
今日取り上げる場面での「ひさご」は,器としてのヒョウタン(もしくはユウガオの実).
ヲウス(ヤマトタケル)の父オホタラシヒコオシロワケ(第12代景行天皇)の次の大君は,ヲウスとは母が異なるワカタラシヒコ(第13代成務天皇).
しかし,その後を継いだのは,ヲウスと,11代垂仁天皇の娘フタヂノイリビメの息子タラシナカツヒコ(第14代仲哀天皇).
この后となったのがオキナガタラシヒメ.一般には神功皇后として知られています.
ヒサゴが登場するのは,オキナガタラシヒメに依り憑いた神(ソコツツノヲ,ナカツツノヲ,ウハツツノヲ,この三柱の大神)の言葉“真木の灰をヒサゴの中に入れ”.
何を意味するか詳細は不明なようですが,三浦祐介氏は,航海安全のための呪術と推測.
オキナガタラシヒメに依り憑いた神の言葉をないがしろにし,心を込めずに琴を弾いていたタラシナカツヒコ(第14代仲哀天皇)は,そのまま息をひきとってしまいます.
これに驚き畏れ,国を挙げての大祓をした後,改めて神の言葉を聞くことになります.
其の四 海を渡るオキナガタラシヒメ—戦う女帝
------罪という罪をあれこれ探し求めてきての,それらの罪をすくうための国を挙げての大祓(おおはらえ)をした上で,ふたたび,タケウチノスクネが沙庭(さにわ)に座って,神のお告げを請うたのじゃった.
するとまた,オキナガタラシヒメに依り憑いた神が教えたまうさまは,何から何まで先の日とおなじでの,それに加えて,
「およそこの国は,そなたの腹の中に坐(いま)す御子が統べだもう国であるぞ」と告げたのじゃった.
それで,タケウチノスクネが,
「恐れ多いことでございます.わが大神よ,その神の腹に坐す御子は,いずれの子でありましょうや」と申しあげるとの,
「男の子である」とお答えになるのじゃった.
それで,今ひとつ詳しい教えを請うて.
「今,かくのごとく教えたもう神はいずれの神にいますや,その御名を知りとうございます」と問うとの,すぐさま答えて,
「これは,アマテラス大神の御心である.また,われは,ソコツツノヲ,ナカツツノヲ,ウハツツノヲ,この三柱の大神であるぞ.
今,まことにその国を求めたいと思うならば,天つ神,国つ神と,山の神と,河や海のもろもろの神とに,ことごとく幣帛(みてぐら 神に祭る捧げ物)を捧げ祭り,わが御魂(みたま)を船の上に置き祀りて,真木の灰をヒサゴの中に入れ,また,箸と平たい皿とを山のごと作り備え,それらを皆,大海に散らし浮かべながら渡り行くがよいぞ」
とお教えになったのじゃった.
ここで初めて,太后に依り憑いていった神は,みずからの名を明らかにしたのじゃった.
現代の私たちが思い描くヒョウタンは,くびれた形の果実で,くりぬいて液体を持ち運ぶ容器に用いられるイメージ.
上記の容器として用いられたヒサゴもこのヒョウタンで,真木の灰を入れて大海に浮かんだ姿が想像できます.
ただし,古代には,このようなヒョウタンだけではなく,丸形・長形のユウガオ(ユウガオとヒョウタンは同一種)も器として用いられていたと考えられ,くびれたヒョウタンから丸形・長形のユウガオまで一括して扱うのがヒョウタン/ユウガオ(Lagenaria siceraria (Molina) Standl.)の世界標準.
ちなみに英語ではBottle gourdと呼ばれているようです.
https://www.researchgate.net/publication/312465074_Gourds_Bitter_Bottle_Wax_Snake_Sponge_and_Ridge
そして,「世界各地で土器に先だつ歴史があり、生活に深く結び付き、神話・伝説に登場し、儀式や儀礼、呪術などにもかかわり、ヒョウタンは文化に値する意義をもつ」とのこと.
https://www.nodai.ac.jp/application/files/7514/8601/3550/11.pdf
もちろん,日本の遺跡からも数多くの破片や種がみつかっています.
ヒョウタンの世界は奥深い!