ステレオタイプの「怒る黒人」,レベル低い歴史認識…NHK,米抗議デモ解説動画を削除,謝罪
毎日新聞2020年6月9日 19時40分(最終更新 6月9日 23時31分)
藤沢美由紀 和田浩明
NHKのニュース番組「これでわかった!世界のいま」の公式ツイッターアカウントが,米国の抗議デモについて「背景には黒人と白人の貧富の格差がある」としたアニメ動画を投稿し,その説明や黒人の描き方について「差別を助長している」と批判が集まっている.NHKは9日,動画の掲載を取りやめ,おわびの文書を投稿し,同日夜のニュースでも謝罪した.なぜ,動画は「炎上」したのか.【藤沢美由紀,和田浩明/統合デジタル取材センター】
タンクトップ姿の黒人男性が訴え 背景にも黒い肌の人ばかり
問題が指摘されているのは,毎週日曜放送の国際ニュースを解説する番組.
白人警官による黒人男性暴行死事件を受けて起きた米国での抗議デモを取り上げた7日,番組のキャラクターが「アメリカの白人と黒人の格差について」説明するとした約1分20秒のアニメ動画を番組内で放映し,公式ツイッターにも投稿した.
動画では,白いタンクトップ姿で筋肉質の黒人男性が登場.
「俺たちが怒る背景には,俺たち黒人と白人の貧富の格差があるんだ」と話す.白人の資産平均が黒人の7倍であることや,新型コロナウイルスの影響による失業などで黒人が打撃を受けたことを挙げ,「こんな怒りがあちこちで噴き出した」としている.
背景の路上で拳を振り上げる複数のキャラクターもすべて黒い肌の人として描かれている.
ツイッターでは,番組と同じ時間帯に
「白人警察官には黒人に対する漠然とした恐怖心があって,今回の抗議デモの発端となったような事件がなくならないとも言われている」
と投稿した.
こうした動画や投稿に対し,「数百年の歴史,根本的な原因,そして警察による暴力に全く触れず,偏見と差別を助長する」「こういった描き方が漠然とした恐怖心を植え付ける」などと批判や抗議のコメントが多く寄せられた.
「暴徒化」はデモのごく一部なのに……
動画は何が問題だったのか.
林香里・東京大教授(ジャーナリズム研究)は,そもそも「放映された番組自体に違和感があった」と指摘する.
番組では黒人男性が白人警察官に殺された事件などを説明した上で,背景の解説としてアニメ動画を使用していた.しかし,ツイッターの投稿内容と同様に「銃社会のアメリカで白人警官は黒人への恐怖の中で仕事をしている」と,まるで「黒人=暴力」とするかのような説明やデモの「暴徒化」という側面を強調していた.
林教授は「銃を持つのは黒人だけではないし,デモのほとんどは憲法に保障された抗議活動だ.NHKは米国をこれほど理解していないのかと衝撃を受けた」と話す.
アニメ動画の描き方についても
「『怒る黒人』はステレオタイプ(固定観念)だ.こうした描き方が偏見を助長する.黒人差別の長い歴史を十分に説明せず,あまりにもレベルが低い」と指摘する.
さらに林教授が危惧するのは,番組に出演していた米国駐在の記者ら,国際報道を担うNHKの局員が総動員で携わっていたにもかかわらず,こうした放送がなされたことだ.
「世界各地で問題提起されているテーマなのにあまりに理解が浅い.日本と無関係な『対岸の火事』と思っているのではないか.日本の国内にもさまざまな差別があり,大規模デモは起きなくても苦しんでいる人はたくさんいる.人ごとのような報道はジャーナリスト失格です」と憤る.
「このような番組はいったん中止し,こうした内容のどこに問題があるのかを徹底的に検証すべきだ」
ニューヨーク市に住む弁護士の渡辺葉さんは,今回のNHKの動画に関し「あまりにも勉強していない」と嘆く.
全米各地で起きた抗議行動は,警察の黒人に対する差別的な暴力に対するものだが,それがきちんと説明されていないと指摘.動画が言及する「白人の平均資産は黒人の7倍」といった「黒人の怒りの背景」は,
「制度的差別の結果の表れで,現在の不満の原因ではない」
と強調した.渡辺さんは,NHKの番組が強調した抗議デモの「暴徒化」についても
「報道や現場に行った友人からの情報を元にする限り,平和的なものが大部分だ」
との見方を示した.
「日本にも針で刺すような差別が」
日本に16年住み,日本の人種差別問題などについて書いてきた黒人作家のマクニールさん(53)は,NHKの動画について
「黒人が攻撃的で危険な姿に描かれており非常に不快だ.日本人が黒人に持つステレオタイプだ」と指摘.番組制作者が,内容の妥当性について専門家らに事前にチェックさせたのかどうかについても疑問を呈した.
米国の抗議デモに呼応して日本でもデモが行われたが「日本には人種主義はない」といった反応がツイッターなどで出ている.
マクニールさんは「米国と形は違うが,日本でも小さな何千もの針で刺すような差別がある」と指摘.電車に乗ったとき隣の席に人が座らなかったり,警察官に頻繁に職務質問されたりする個人的経験にも触れた.
動画については「削除するなどでなく,今後のために学習する材料にしてほしい」と語った.
米臨時代理大使「侮辱的で無神経」
また,ジョセフ・M・ヤング駐日米臨時代理大使は「この動画ではもっと多くの考察と注意が払われるべきでした.使われたアニメは侮辱的で無神経です」と抗議した.
番組の公式アカウントは9日,「ツイッターに掲載した動画について,多くのご批判・ご意見をいただいており,動画の掲載を取りやめました.掲載にあたっての配慮が欠け,不快な思いをされた方におわびいたします」と投稿.番組ホームページにも同内容の文書を掲載した.
https://www.buzzfeed.com/jp/harunayamazaki/nhk-sekaima
NHKが動画を削除して謝罪。「これでわかった!世界のいま」の公式Twitterが投稿し、批判殺到していた。(ハフポスト日本版) - Yahoo!ニュース
https://www.nhk.or.jp/program/sekaima/sekainoima_doganitsuite.pdf
東京新聞 朝刊
フロイドさん葬儀、人種差別の解消求める 米ヒューストン
https://www.bbc.com/japanese/52989200
BBC NEWS JAPAN
2020 6月10日
米ミネソタ州ミネアポリスで警察官に拘束され死亡したアフリカ系米国人ジョージ・フロイドさんの葬儀が9日あり、人種にもとづく不公正をなくすよう求める熱のこもった訴えが続いた。
フロイドさんが長年暮らしたテキサス州ヒューストンのファウンテン・オブ・プレイズ教会で開かれた葬儀には、政治家や有名芸能人らを含め約500人が参列した。
人々は、「黒人として生まれたことが罪」などと述べ、フロイドさんの死を悼んだ。
葬儀の後、フロイドさんの棺は車列でヒューストン南部パーランドの墓地「ヒューストン・メモリアル・ガーデンズ」に運ばれ、母親の棺の隣に埋葬された。墓地までの最後の約1.5キロは、棺は馬車で移動した。
フロイドさんは先月25日、首を白人警官の膝で約9分間押さえつけられ死亡した。その様子は、近くにいた人が携帯電話で撮影していた。
現場にいた警官4人は免職となり、殺人罪や殺人ほう助罪などで訴追されている。
「法を変える必要がある」
葬儀では、フロイドさんの姪のブルック・ウィリアムズさんが、法律は黒人を不利にするようにつくられていると指摘。改められるべきだと訴えた。
「単なる殺人ではない、ヘイトクライムだ」 フロイドさんの姪、葬儀で涙ながらに訴え
「なぜ、この司法制度は腐敗し崩壊しているのでしょうか? 法は常にアフリカ系アメリカ人にとって機能しないように制定されてきました。こうした法は変える必要があります」
「ヘイトクライムはもうやめてください。ある人が『アメリカを再び偉大にする』と言いましたが、アメリカが偉大だったことなんてあったでしょうか?」
地元選出のアル・グリーン下院議員(民主党)は、「ジョージ・フロイドさんはかけがえのない存在だ。だから私たちはここに来た」、「彼の罪は黒人として生まれたことだった」と述べた。
長年、公民権活動に取り組んできたアル・シャープトン師は、「世界中で奴隷主の孫たちが、奴隷主の像を引きずり下ろしている」と説明。困難に見舞われたフロイドさんの人生について、「神は見捨てられた石を拾い、世界全体を変える運動の礎石とした」と述べた。
「お父さんは世界を変える」
11月の大統領選挙で民主党候補になるのが確実なジョー・バイデン前副大統領は、ビデオメッセージを寄せ、「ジョージ・フロイドさんに正義が訪れるとき、アメリカは人種間の公正さに向けて真に近づいていける」と述べた。
また、大統領選で対決するドナルド・トランプ大統領(共和党)について、先週末にフロイドさんに関する「軽蔑すべき」憶測を口にしたとして厳しく批判した。トランプ氏は5日、5月の雇用統計が改善していたと発表する際、フロイドさんが「見下ろしていて」「今日は素晴らしい日だと言っている」と述べた。
ただバイデン氏も最近、トランプ氏への投票をちょっとでも考えたアフリカ系米国人は「黒人じゃない」と発言。黒人が自らに投票することを当然視しているとして批判された。
バイデン氏は葬儀前日の8日、フロイドさんの遺族と面会。その後、CBSテレビで、「彼の小さな娘もいて、『お父さんは世界を変える』と言っていた。私も彼女の父親は世界を変えると思う」と述べた。
さらに、「ここで起きたことは本当に、アメリカ史における大きな転換点の1つだと思う。市民的自由、公民権、そしてただ尊厳を持って人に接することにおいて」と話した。
一方、ミネソタ州では9日、ティム・ウォルツ知事が州民に対し、フロイドさんが地面に押さえつけられていた時間と同じ8分46秒間の黙とうをしてフロイドさんの葬儀に敬意を表すよう呼びかけた。
フロイドさん暴行死事件の時系列
5月25日――ミネソタ州ミネアポリスで白人警官に首を圧迫され、ジョージ・フロイドさん死亡
5月26日――フロイドさんの死に対する抗議始まる
5月27日――抗議が各地に広がる
5月28日――トランプ氏、略奪者を「ごろつき」とツイート。「州兵を送り込む」、「略奪が始まれば、発砲が始まる」と書いた。ツイッター社は2つ目のツイートを「暴力賛美」として警告を表示した
5月29日――デモ取材中のCNN記者とクルーが生中継中に逮捕される
5月31日――6日目の抗議が各地で続く
6月1日――トランプ氏、事態鎮圧に軍の投入も辞さないと演説。トランプ氏の写真撮影の前に、連邦公園警察などが抗議者を催涙ガスなどで排除
6月2日――8日目の抗議続く。首都ワシントンの各地に州兵配備
6月3日――関与した元警官4人を州司法当局が殺人罪などで起訴
6月4日――ミネアポリスでフロイドさんの追悼式
6月5日――ワシントン市長、ホワイトハウス近くの交差点を「Black Lives Matterプラザ」に命名
6月8日――フロイドさんの地元ヒューストンで追悼式。民主党は警察改革法案を議会に提出
6月9日――殺人罪で訴追された元警官が初出廷。保釈保証金は1億円超に設定
(英語記事 Calls for racial justice at George Floyd's funeral)