や座2 ゼウスに息子アスクレーピオスを殺されたアポローンは,ゼウスが使った雷電の製作者キュクロープスを殺してしまいます. その時の矢がや座となりました.キュクロープスは神統記に「大地はまた 傲慢な胆(きも)もつキュクロプスどもを生んだ」「円いひとつの目がかれらの額についていた」と描かれた三兄弟.鍛冶の名手です.「海中の島に住み,野蛮で人を食い,牧畜を行なう」巨人属とは別の神格を持つキュクロープス.

や座 Saggita 2

 

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星座図鑑・や座

や座1 ギリシャでも,さかのぼって,古代メソポタミアでも矢と呼ばれていた星座.

ギリシャ神話では,や座の矢の持ち主とされているのは,とてもよく知られた弓の名手二人. アポローンとヘーラクレースです.

始めにアポローンから:アポローンは,よこしまな者,横暴な者を罰して破滅させる神で,ヘーパイストスが送った弓矢の神として描かれています.添え名は遠矢の神.

しかし,や座のギリシャ神話では---- http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/09/12/230609

 

⇒神々の王である父親のゼウスに,息子を殺されたアポローンは,ゼウスが使った雷電を作ったキュクロープスを殺してしまいます.

その時の矢がや座となりました.

アスクレーピオス(⇒へびつかい座)と共に.

 

アポローンは,キュクロープスの業でつくられた雷電で,(ゼウスにより)息子アスクレーピオスを殺されました.報復として,(アポローンが)キュクロープスを殺戮するため,その矢は用いられました.アスクレーピオスと矢は共に星々の間に置かれました.へびつかい座とや座として (Hyginus 2.15 on Eratosthenes.)  Star Myths | Theoi Greek Mythology”より拙訳 ”

 

まるで「名刀○×で息子を殺されたので,殺した本人ではなく,刀の作者の○×を殺す」といった理不尽な話ですが---

 

この星座物語の中には,余り聞き慣れないキュクロープス,アスクレーピオスという名前が登場.

 

キュクロープスは上の例なら「刀の作者○×」に当たる人物ですが---

 

ヘーシオドス「神統記」にキュクロープスの記載があります.

しかも「ガイアの子」の章で.

キュクロープスは,

「ガイアとウーラノスの子(すなわちティターン12神の兄弟といえる),“円いひとつの目がかれらの額についている” 三兄弟」

とされています.

 

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やや長くなりますが,引用します.

 

「神統記」(ヘシオドス 廣川洋一訳 岩波文庫

大地(ガイア)の子

さて大地(ガイア)は,まずはじめに彼女自身と同じ大きさの

星散乱(ちり)ばえる 天(ウラノス)を生んだ 天が彼女(ガイア)をすっかり覆いつくし

幸(さきわ)う神がみの 常久に揺ぎない御座となるようにと.

また大地は 高い山々を生みたもうた

緑陰濃い山々に棲む女精(ニュンペ)の女神たちの楽しい遊山(ゆさん)の場所を.

また(大地は)大浪荒れる不毛の海

ポントスを生んだ 喜ばしい情愛の契りもせずに.

さてつぎに 天に添寝して生みたもうたのは 深渦(ふかうず)の巻く大洋(オケアノス)

コイオス クレイオス ヒュベリオン イアペスト

テイア レイア テミス ムネモシュネ

黄金の冠つけたポイベ 愛らしいテテュス

これらのあとから 末っ子 悪知恵長けたクロノス

子供たちのなかでいちばん怖るべき者が生まれた この者は強壮な父親(天 ウラノス)を憎んだ.

さて大地はまた 傲慢な胆(きも)もつキュクロプスどもを生んだ

ブロンテス ステロペス 心たくましいアルゲスがこれで

ゼウスに雷鳴を贈り 雷電を造りやった者どもである.

まことにこの者どもは その他の点では神々(の御姿)に生き写しであったが

額のまん中に 目はたったひとつしかなかったのだ.

そこで円い目(キュクロプス)と綽名(あだな)されたが それというのも 

円いひとつの目がかれらの額についていたからである.

すでに体力 腕力 技術ともにそなわっていたのだ 彼らの業を 為すにあたっての.

 

神統記のキュクロープスは,神格をもつものとして描かれて,や座となったアポローンの矢で虐殺されるキュクロープスと同じ三兄弟です.

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ただし,ややこしい話があって:

ギリシャ神話には別の一つ目の怪物キュクロープスがいる!

 

一般の日本の辞典/事典類では,この別の解説が掲載されています.

 

日本国語大辞典 キュクロプス

ギリシア神話巨人族.額に一眼がある.海中の島に住み,野蛮で人を食い,牧畜を行なう」キュクロプスとは - コトバンク

 

ルドンの名作とされるキュクロプスも,こちらのキュクロープスキュクロープス (ルドン) - Wikipedia

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キュクロプスデジタル大辞泉プラス キュクロプスとは - コトバンク )

フランスの画家オディロン・ルドンの絵画(1898-90).原題《Le Cyclope》.ギリシャ神話を題材として,巨人族キュクロプスと海の精ガラテイア(⇒*)を描いた作品.モノクロの幻想的な画風から,色彩豊かな画風へ移行して間もない頃に描かれた.ルドンの代表作の一つとして知られる.オッテルロー,クレラー・ミュラー美術館所蔵.

⇒*ガラテイア( ガラテイア - Wikipedia )

オウィディウスの『変身物語』によれば,ガラテイアはシチリア島で川のニュンペーの息子である青年アーキスと恋に落ちた.しかし,かねてよりガラテイアを恋慕していたキュクロープスのポリュペーモスがこれに嫉妬し,巨石を投げつけたポリュペーモスによってアーキスは殺される.死んだアーキスの血はエトナ山のそばを流れる川となった.