マッシュルーム.
日本では高級食材のイメージで用途も限られているようですが,和食にも良く合うおいしいキノコ.
その生産状況を中心に,あれこれまとめてみました.
▽マッシュルームとは
日本語の「マッシュルーム」は,一種類のきのこの名前として使われています.
ハラタケ属 のAgaricus bisporus.和名はツクリタケ
英語の“mushroom”は,本来は,キノコ全体のことを表していましたが,現在は,日本と同様に,このAgaricus bisporusやその仲間を指す言葉としても使われています.
mushroom (n.) ttps://www.etymonline.com/word/mushroom
「mushroomは,はじめは大きめの菌類(=きのこ)全てを指していたが,後にはハラタケ科のキノコ,特に食用の種を指すようになった.」
mushroom (n.) “A word applied at first to almost any of the larger fungi but later to the agaricoid fungi and especially the edible varieties.” mushroom | Origin and meaning of mushroom by Online Etymology Dictionary
▽ハラタケ属Agaricus のキノコ
ハラタケ属Agaricusには,マッシュルーム(ツクリタケ)以外に,食用になるハラタケA. bisporus.
また,ニセモリノカサA. subrufescensは,健康食品として話題になった「アガリクス:属名をとって命名された!)」
⇒「俗に,「抗がん効果がある」「免疫力を高める」などといわれ,アガリクスと名のつく健康食品も数多くみられるが,ヒトでの有効性と安全性については信頼できるデータが見当たらない」
「健康食品」の安全性・有効性情報 素材情報データベース 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
▽日本での栽培
日本への移入は明治期,「キノコ栽培の父」とも呼ばれる森本彦三郎が初めて栽培に成功したのが明治45年(1912年).その後,欧米での技術を更に学んだ森本が,マッシュルームの生産栽培を行ったのが大正期とされています.
(その後シイタケ等のおがくず栽培を成功させたのも,この森本彦三郎とのことです)
http://chibakin.la.coocan.jp/morimotoh.htm
現在生産トップの千葉県は,魚の値段高騰への対策として,マッシュルームの缶詰め向けの栽培を始めたのがきっかけで,栽培が広がったとのことです.
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?pag
▽日本の生産量
日本の消費量はフランスやドイツの1/10とのこと(▶ 日本の栽培きのこ - 日本きのこ学会).
生産量も日本で栽培されているキノコの中で7番目.これからもっと増えてくると思われますが----.
(シイタケは,生と乾燥シイタケを別々に集計してあります)
▽世界の食用キノコ
少し前のデータでは,マッシュルームは世界で一番沢山生産されているキノコとの記述も散見されましたが----
現在は,シイタケ,ヒラタケ,キクラゲの後塵を拝しているようです.
(文献中のデータで,元のデータが何年のものなのか確認できていません.下表のハラタケ属とされているものがマッシュルームに相当します)
世界のキノコ生産量
マッシュルームのみのデータは見付けられませんでしたが---
キノコ全体の生産国ランキングは下欄表の通り.
キノコの生産は,1978年から2010年代までに30倍になったそとのこと.https://www.researchgate.net/publication/319118795_Current_Overview_of_Mushroom_Production_in_the_World_Technology_and_Applications
この急激な増加を引っ張っているのが中国で,2位以下に大きく水をあけて生産量は断然トップ.
マッシュルームの生産がキノコのトップではなくなったのも,主要生産国の顔ぶれが変わったことと大いに関係している?
http://www.factfish.com/statistic/mushrooms+and+truffles,+production+quantity
(なお,この表中の日本の生産量の数値65,428トンと,先に示した日本の農水省の数値457,483トンが大きく離れています. 集計方法,集計対象など,どこかが違うのだろうと思いますが,調べられませんでした)
マッシュルームの栽培
マッシュルームの栽培法は,シイタケやブナシメジなどとは大きく異なります.
それは,シイタケなどが木材腐朽菌で,おがくずなどを利用した菌床栽培が主流なのに対し,マッシュルームは「腐植分解菌」で,堆肥を菌床にするためです.
マッシュルーム栽培における病害防除のための新技術開発 | プロジェクト | 地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+) | 千葉大学 | COC+
栽培の歴史は古く16世紀からとか.
日本キノコ学会の記事は次の通り:
ツクリタケ Agaricus bisporus
イネ科植物などの草本類の枯れ草を分解する腐植分解菌であり,木材腐朽菌の菌床栽培や原木栽培とは大きく異なる「堆肥栽培」という方法で栽培されている.
栽培の歴史は古く,16世紀頃にフランスでメロン栽培が導入された際に堆肥の発酵熱を用いた温床栽培が行われ,この廃温床となった堆肥に偶発的に発生していたものを食用に採集するようなったことに端を発し,1650年頃には人為的な栽培が行われるようになったとされる.
現在でも製法はあまり変わらず,まずワラ類や厩肥(きゅうひ)に,硫安,大豆粕などの窒素源,石膏などを加え,堆積・散水して堆肥を作る.この時発酵熱で堆肥内部は70〜80℃になり,害虫の卵などが死滅する.数回切り返しをして均質な堆肥とした後,厚さ20cmほどの発生用の箱に詰め,室に移す.
さらに発酵熱で殺菌し温度が下がるのを待ち,種菌を接種する.2週間ほど培養した後,表面に薄く覆土し子実体を発生させる.
我が国の国民一人あたりの消費量はフランスやドイツの1/10程度と少ないが,食生活の欧米化により今後増えて行く可能性も考えられる.
傘の色によって,ホワイト種,オフホワイト種,ブラウン種などに区別されるが,近年はハイブリッド種も導入されている.
ツクリタケが含まれるハラタケ科の菌は胞子が濃色で,成熟した子実体の傘の裏のヒダを見ると暗褐色〜黒色をしている.良く消費者が傷んでいると誤解することがあるが,子実体が成熟している証であり傷んでいるわけではない.