旧優生保護法(1948~96年)下で,知的障害を理由に不妊手術を強制された宮城県の60代女性が「重大な人権侵害なのに,立法による救済措置を怠った.旧法は憲法違反だ」として,国に1100万円の損害賠償を求める訴訟を1月30日,仙台地裁に起こしました.
https://www.47news.jp/1430070.html
旧優生保護法を巡る国家賠償請求訴訟は初めてで,「憲法が保障する自己決定権や法の下の平等原則に反する」と違憲性も主張する方針とのこと.
国は「当時は適法だった」としてこれまで補償や謝罪をしていません.日弁連によると,旧法による障害者らへの不妊手術を施されたのは全国で約2万5千人,うち約1万6500人は強制だったとされています.
https://www.47news.jp/1430070.html
女性が強制不妊手術をされたのは15歳の時.
同法下で障害などを理由に不妊手術を施されたとして宮城県で個人名記載の資料が残る859人のうち,最年少は女児が9歳,男児が10歳,半数以上は未成年だったとのこと.優生思想に基づき妊娠の可能性が低い児童に身体的負担を強いる非人道的措置が浮き彫りになっています.旧優生保護法で不妊手術、児童も | ロイター
弁護団によると,裁判では,同法は子供を産むかどうかの自己決定権や個人の尊厳を侵害しており,幸福追求権を保障する憲法に違反していると主張.さらに、障害者差別にあたるとして96年に母体保護法に改正された後も,被害者の救済制度を作らなかった国の不作為も追及する方針.旧優生保護法に基づく不妊手術強制、初の提訴 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
民法は賠償請求権が失われる除斥期間(20年)を設けていますが,弁護団は国の違法性は現在も続いており、該当しないとみています.旧優生保護法に基づく不妊手術強制、初の提訴 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
国家賠償請求訴訟の原告となった60歳代女性の義姉は「障害者だって,自由に結婚し,子供を産む権利があるはずだ」と,女性の思いを代弁しています.
以下,2018年1月30日読売新聞夕刊の記事より
義姉は,2015年,仙台市の70歳代女性が,16歳の時に受けた強制不妊手術について,日弁連に人権救済を申し立てたことを報道で知った.「妹も同じだ」.すぐに弁護士に相談の電話をかけた.「泣き寝入りしたくない」と,国を訴える事を決めた.
16年7月,神奈川県相模原市の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で,入所者19人が刺殺される事件が起きた.逮捕された男は「不幸をつくる障害者はいなくなればいい」と県警の調べに供述していた.
「間違っている」.義姉は男の差別意識に憤り,提訴への思いを強くした.
「国は謝罪と補償をすべきだ.同じ境遇の人は声を上げて欲しい.こうした過去があった事も多くの人に知って欲しい」.裁判を通じてそう訴えるつもりだ.(2018年1月30日読売新聞夕刊)
なお,記事中の「2015年,仙台市の70歳代女性が,16歳の時に受けた強制不妊手術について,日弁連に人権救済を申し立てた」とありますが,それ以前の1998年と2014年の2回,日本のNGOが国連・規約人権委員会にこの問題を訴え,同委員会は日本政府に対して、強制不妊の対象となった人の補償に向けて必要な法的措置をとるよう勧告したものの,国は対応しませんでした.http://www.soshiren.org/data/statement_20170222.pdf
その結果を受けての人権救済の申し立てでした.これを受けた日弁連は国に補償を求める意見書を提出.
そして,今回の提訴にいたっています.
旧優生保護法に基づく不妊手術強制、初の提訴 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
この表にはありませんが,2016年3月には,女性NGOからの訴えを国連女性差別撤廃委員会が受け,日本政府に強制不妊手術についての調査,被害者へ賠償,加害者の処罰など厳しい勧告を出しました.http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/jyuuten_houshin/sidai/pdf/jyu11-15-2.pdf
これについて塩崎恭久厚労大臣は、2016年3月22日「厚労省として適切にしっかりと対応したい」と答弁したとのことです.http://www.soshiren.org/data/statement_20170222.pdf
しかし,その年の2016年7月,相模原津久井やまゆり園での入所者殺傷事件が起きてしまいました.