キクの園芸種は,全て「イエギク Chrysanthemum × morifolium」とされ,日本には中国で改良されたものが奈良時代中期に遣唐使などによってもたらされたと言われています.
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/10/26/000807
yachikusakusaki.hatenablog.com
しかし,日本在来のキクも!
その代表がノジギク.
ノジギクはかつてイエギクの原種と言われたことがあったそうですが,その考え方は否定されています(https://www.jataff.jp/kiku/kiku02.htm ノジギク - Wikipedia).
学名 Chrysanthemum japonenseには在来種を示す「japonense」の名前が見えます.
ノジギク-関西の花・秋の花・兵庫県- 兵庫県/兵庫県のシンボル (県旗・県花・県樹・県鳥)
ノジギクを私が知ったのは,勤務先だった兵庫県の「県の花」と聞いたとき.
やや地味な花ですが,これが県の花と知ってうれしい気持ちにもなりました.公募によって決まったとか.
兵庫県の県花〜兵庫県の県花の由来とは?国花・県花まるわかり事典
他の都道府県の花,どれもステキな花たちですが,野路菊ほどひっそりと美しい花は無いような気もします.
都道府県のシンボルの一覧 - Wikipedia 都道府県の花
ノジギクは,キク属ノギクの代表的な種
ノギクには植物学上の定義があるわけではありません.
「晩夏から秋にかけて咲く山野に野生するヨメナやその類似種の総称.いずれもキク科の多年草(日本国語大辞典)」
そして代表的な種としては,ヨメナやノコンギクが挙げられる場合が多いようです.しかし,どちらもキク属ではなく,シオン属(アスター属 Aster).
同じシオン属のヤマシロギク(イナカギク) やシロヨメナ(こちらがヤマシロギクと呼ばれる場合も)もノギクとして扱われているようです.
ノコンギク Aster microcephalus var. ovatus
ヤマシロギク(イナカギク) Aster semiamplexicaulis (Makino) Makino ex Koidz.
シロヨメナ(ヤマシロギク)Aster ageratoides var. ageratoides
ヨメナ Aster yomena
https://matsue-hana.com/hana/nokongiku.html ノコンギクとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版 イナカギク(ヤマシロギク) 三河の植物観察 https://matsue-hana.com/hana/siroyomena.html https://matsue-hana.com/hana/yomena.html ヨメナ - Wikipedia
それに対し,ノジギクはキク属で,他にリュウノウギク,シマカンギク,ハマギク,コハマギクなどもノギクの仲間とされています.
リュウノウギク Chrysanthemum japonicum
シマカンギク Chrysanthemum indicum
ハマギク Chrysanthemum nipponicum
コハマギク Chrysanthemum yezoense
ノジギク Chrysanthemum japonense
https://matsue-hana.com/hana/ryuunougiku.html リュウノウギク - Wikipedia https://matsue-hana.com/hana/simakangiku.html 崖っぷち 前編 ― ハマギク、コハマギク ―|サカタのタネOBによるコラム「東アジア植物記」 ノジギク-関西の花・秋の花・兵庫県-
万葉集では「菊」は詠まれていませんが,ももよぐさ(百代草)が,ノギクかもしれません.
万葉集には詠まれていません.しかし,在来のノギクは万葉の歌人の目にとまらないはずはありません.ノギクの代表ヨメナは,「うはぎ」として柿本人麻呂の一首に.
妻もあらば、摘みて食(た)げまし、沙弥(さみ)の山、野の上(へ)の、うはぎ過ぎにけらずや 柿本人麻呂 (巻2 221)
:もし妻が一しょなら,野のほとりのうはぎ(菟芽子 よめ菜)を摘んで食べさせようものを,あわれにも唯一人こうして死んでいる.そして野のうはぎはもう季節を過ぎてしまっているのではないか.斎藤茂吉
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/04/09/010152
他のノギクは,目にとまらなかったのでしょうか?
ももよぐさ(百代草)を詠んだ歌が一首だけあるそうです.
この百代草(:寿命の長い草の意)は蓬(よもぎ)とも露草(つゆくさ),さらには松(まつ)とも言われているようですが,もう1つの候補が菊(きく=ノギク).
ももよぐさ / 万葉集
父母が,殿(との)の後方(しりへ)の,ももよ草,百代(ももよ)いでませ,我(わ)が来(きた)るまで 生玉部足國(みむべのたるくに) (巻二十 4350・4326)
父母が,殿の後方の,ももよ草,百代いでませ,我が来るまで
▽たのしい万葉集 http://www6.airnet.ne.jp/manyo/main/twenty/m4326.html
父母がお住まいの館の裏のももよ草のように,いついつまでもお元気で,私が戻るときまで.
ももよ草は,菊,蓬(よもぎ),または露草(つゆくさ)ではないかと考えられていますが,はっきりとはしていません.
写真は,春日大社の万葉植物園で撮影した,野路菊(のじぎく)です.日本在来種だそうです.たのしい万葉集: ももよ草を詠んだ歌
▽山田卓三「万葉植物つれづれ(大悠社)」
東国出身の防人が父母の元を離れて,これから赴任しようしているときに詠んだ歌で,両親にいつまでもつつがなくいて欲しいと,惜別の情が込められています,
ももよぐさは百代草または百夜草で,寿命の長い草の意なので,それが何であるかは実際には分かりません.
ここ(「万葉つれづれ」)ではリュウノウギクを当てています.これも多年草で,いつも同じ場所で毎年咲くので,父母の屋敷の裏に咲いていても不思議はありません.