ヨメナ:野菊の代表の1つでかつては上品な野菜と考えられていた./ ヨメナがアスターの代表?:Asterはギリシャ語「星」の意⇒形も色もピッタリ.うはぎ(ヨメナ) / 万葉集(1) つまもあらば、つみてたげまし、さみのやま、ののへの、うはぎすぎにけらずや 柿本人麻呂 .

キク科の野草は概して可憐な花をつけていますが,中でもヨメナはひときわ優しく愛らしい花と感じるのは私だけでしょうか?

ヨメナは野菊の代表の1つです

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万葉植物図鑑「ヨメナ」 よめなとは - 植物図鑑 Weblio辞書

 

かつては上品な野菜と考えられていた ヨメナ

(下記 万葉集 参照).

今は食用としてはほとんど無視されているのか---

と思ってレシピを検索するとかなりヒットします.

例えば「定番」とされるヨメナごはんは

「材料は,ヨメナ100g,ごはん4合で,好みでお塩や醤油で味付けをします。作り方はとても簡単で,ごはんを洗って,炊飯している間にたっぷりのお湯にヨメナを入れて1分ほど茹でて水気を切り,ヨメナを包丁で細かく刻みます。
出来上がったごはんに刻んだヨメナを混ぜ込んで,香りがつくようにすこしフタをして,味付けとして塩や醤油をお好みでかけたら出来上がりです。
また,ヨメナは,下ゆでしてから保存した方が,悪くなりにくいので,すぐに使わない場合でも,下ゆでは済ませておいた方が良いでしょう.ヨメナの簡単な定番レシピ - 食べ物の大辞典!)」

クックパッドには,ヨメナご飯のほか,お浸しやチャーハン等のレシピも載っています.ヨメナのレシピ 9品 [クックパッド]

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でも残念ながら私はまだ食べたことがありません.こんど嫁菜摘みに連れて行ってもらわなくては.ヨメナ大好きな方がいるので.

 

ヨメナの学名

ネット上では2つの学名が併存:属の名前が2種!

“シオン属Aster  に属し,学名は A. yomena

ヨメナKalimeris  に属し,学名は K. yomena

「かつてはヨメナ属 Kalimeris に分類された。シオン属 Aster とは,痩果の上端に冠毛が発達しない点で異なるため,別属とされた。しかし,近年では,シオン属にまとめる考えが主流になりつつある」とのことヨメナ - Wikipedia この通りなのでしょう(植物分類については日本のウィキペディアもかなり信用できるので).

最近の「シオン属 Aster の大幅な見直し」を反映しているようです.

今,アスターやシオンがかなりややこしいことになっている!

例えば:

1. いままでの“アスター”クジャクアスターや友禅菊など最近園芸の世界では「ショッコンアスター」とまとめて呼ばれるようになった)

が,属としてAster属(シオン属)ではなくなっている!

キク科キク亜科の下のアスター「連」にaster属(シオン属)とは別に新しい「属」がいくつか造られ,そこに属しているようです.

例えば友禅菊は,キク科キク亜科アスター連「Symphyotrichum」属 ユウゼンギク - Wikipedia

詳細はシオン属 - Wikipediaを参照して下さい.(内容は英語版Aster (genus) - Wikipediaを翻訳したものになっています→信用はできる.日本に合わないところはあるものの).

2. かってのヨメナ

は,新しいAster属(日本名シオン属) のむしろ中心的な構成員となっている!

 ただ,

ランダムハウス英語辞典 小学館」によると

Aster アスターの語源は,<ラテン語ギリシャ語 astḗr で,意味は「星」⇒: 形も色もヨメナにピッタリ.

(英語asterは「英語のstar:中期英語 sterre, 古期英語 steorra; ラテン語 stella, ギリシャ語 astḗr と同根」)

ヨメナがAster属の代表になって少しもおかしくない.

 

なお,かっての属名「Kalimeris(カリメリス)」は

ギリシャ語の「kalos(美しい)」と「mero(部分)」が語源で、「花弁の美しさから」にちなむ,との記載が見られました.ヨメナ (嫁 菜) 花々のよもやま話/ウェブリブログ

こちらも良い名前ですね.

 

ヨメナの親戚筋の花々

かつてのヨメナ属,現在のシオン属,そして分かりやすくいえばノギクの代表例をいくつか挙げておきます.野菊には絶滅危惧種も多いようです.

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ノコンギク - Wikipedia 第3回 カワラノギク | さがみはらし komono シオン (植物) - Wikipedia カントウヨメナ

 

 山田卓三先生の「万葉植物つれづれ(大悠社)」によると

 万葉人は食べられるものや衣服・染料など生活に関わるものを自分と一体的にみています.秋に咲くヨメナの花は清楚で可憐な美しい野菊ですが,「万葉集」に詠まれているのは春の若菜としてのうはぎだけです.ヨメナは嫁菜と書き,若芽を食べると肌がつやつやするからとか,やさしい風情からだとか言われます.これに対してシラヤマギクのことを婿菜と呼びます.ヨメナの新芽は今でもおひたしや天ぷら,汁の実などにします.ゆでた後刻んで飯に混ぜたよめな飯も有名です.

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シラヤマギク - Wikipedia

 

 

うはぎ(ヨメナ) /  万葉集(1)

 つまもあらば、つみてたげまし、さみのやま、ののへの、うはぎすぎにけらずや

 妻もあらば、摘みて食(た)げまし、沙弥(さみ)の山、野の上(へ)の、うはぎ過ぎにけらずや  柿本人麻呂 (巻2 221)

 妻もあらば、摘みて食げまし、沙弥の山、野の上の、うはぎ過ぎにけらずや

 

斎藤茂吉 万葉秀歌

人麻呂が讃岐狭岑島(さみねやま)で溺死者を見て詠んだ長歌反歌である.今は沙弥島(現在の香川県坂出市)といっている.

一首の意は,

もし妻が一しょなら,野のほとりのうはぎ(菟芽子 よめ菜)を摘んで食べさせようものを,あわれにも唯一人こうして死んでいる.そして野のうはぎはもう季節を過ぎてしまっているのではないか,

というのである.

タグという動詞は下二段に活用し,飲食することである.

人麻呂はこういう種類の歌にもなかなか骨を折り,自分の身内か恋人でもあるかのような態度で作歌している.それゆえ軽くすべっていくようなことがなく,あくまで人麻呂自身から遊離していないものとして受け取ることができるのである.

 

 玉藻(たまも)よし 讃岐(さぬき)の国は 国柄か(くにから)か 見れども飽(あ)かぬ 神柄(かむから)か ここだ貴(たふと)き 天地(あめつち) 日月(ひつき)とともに 満(た)りゆかむ 神の御面(みおも)と 継(つ)ぎ来(きた)る 中の水門(みなと)ゆ 船浮(う)けて わが漕(こ)ぎ来(く)れば 時つ風 雲居(くもゐ)に吹くに 沖見れば とゐ波立ち 辺(へ)見れば 白波(しらねみ)さわく 鯨魚(いさな)取り 海を恐(かしこ)み 行く船の 梶(かぢ)き折りて をちこちの 島は多けど 名くはし 狭岑(さみね)の島の 荒磯面(ありそも)に いほりてみれば 波の音(と)の 繁(しげ)き辺(はま)べを 敷栲(しきたへ)の 枕になして 荒床に 自伏(ころふ)す君が 家知らば 行きても告げむ 妻知らば 来(き)も問はましを 玉鉾(たまぼこ)の 道だに知らず おほほしく 待ちか恋ふらむ 愛(は)しき妻(つま)らは  柿本人麻呂 (巻2 220)

万葉集入門 http://manyou.plabot.michikusa.jp/manyousyu2_220.html

玉のような藻の美しい讃岐の国は、国の由来ゆえか見ても飽きないことだ。神々しいゆえかなんとも貴いことだ。天地、月日とともに満ちて行くだろう神の御顔として今日まで語り継いで来た。中の港から船を浮かべてわたしが漕いで来れば潮時の風が空に吹き、沖を見れば大波が立ち、岸を見れば白波が騒いでいる。鯨さえ捕れるような海を恐れて行く船の梶を止め、あちこちに島は多いけれど、名も美しい狭岑の島の荒磯に仮庵を建てて見れば、浪の音も激しい浜辺を敷栲の枕として荒れ岩を寝床に倒れている君。君の家を知っているなら行ってこのことを知らせるのだが、君の妻が知ればやってきて言葉も掛けるのだろうが、美しい鉾を立てるような道も知らないので、鬱々と待ち恋ているのだろう、君の愛しき妻は。

 

うはぎ(ヨメナ) /  万葉集(2)

かすがのに、けぶりたつみゆ、をとめらし、はるののうはぎ、つみてにらしも

春日野(かすがの)に、煙(けぶり)立つ見ゆ、娘子(をとめ)らし、春野のうはぎ、摘みて煮らしも 作者不詳 (第10巻 1883(1879))

春日野に、煙立つ見ゆ、娘子らし、春野のうはぎ、摘みて煮らしも

 

斎藤茂吉 万葉秀歌

うはぎ(菟芽子)は巻二の人麻呂の歌にもあったごとく,和名鈔に薺蒿(せいこう⇒うわぎ,おはぎ)で,今の嫁菜(ヨメナ)である.春日野は平城(なら)の京から,東方にひろがっている野で,その頃人々は打ち連れて野遊に出たものであった.「春日野の浅茅が上に思ふどち遊ぶ今日の日忘らえめやも」(巻十・1880)という歌を見ても分かる.

この歌で注意を引いたのは,野遊に来た娘たちが,嫁菜を煮て食べているだろうというので,嫁菜などは現代の人はあまり珍重しないが,当時は野菜の中での上品であったものらしい.

和やかな春の野に娘らを配し,それが野菜を煮ているところをもって一首をつくっているのが私の心を牽(ひ)いたのであった.

 

 

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 ヨメナ - Wikipedia

 

鴻雁北(こうがんきたす(かえる))雁が北へ帰っていく頃